01-05

01. 列車


「リルム、見ろ! これ、もらった! かいてもらった!」
 嬉しそうな声とともに目の前につきだされた画用紙を見て、リルムは首をかしげた。
「……何これ? 誰が描いたの?」
「カイエンがかいた!」
 作者の名前が分かっても、題材はまったく分からない。何か四角いものが描いてあるが、これはひょっとしてドマの食べ物の「トウフ」だろうか。そういえば四角の上に何か乗っている。確か「トウフ」も何か乗せるはずだ。しかし、「トウフ」は白いはずだが、黒く塗ってあるのはなぜだろう……。
 リルムがそこまで考えたところで、ガウが別の画用紙を出した。
「これ、マッシュがかいた!」
「…………」
 ますます分からなくなった。同じ題材なのだろうか。四角いところは似ているが、こちらはその四角に怒った顔のようなものが描いてあった。紙の上の方にデカデカと「ボ──」という文字が書いてあり、さらに謎を深めている。
「それから、これ……」
「あのさ、ガウ。これ何なの? 何が描いてあるの?」
「これ、列車! 列車!」
「列車……ああ」
 言われてみれば、と言いたいが、言われてみてもよく分からないところが多い。
「ガウに会う前、カイエン、マッシュ、シャドウ、列車にのった! その話、した。ガウ、列車見たことない。どんなのか聞いたら、かいてくれた」
 ガウは嬉しそうに笑っているが、これではちっとも参考にならないだろう。
(ま、参考にする必要もないだろうけど)
 2枚を見比べ、列車のどの部分が絵のどこに相当するのかを推理しているリルムに、ガウはもう1枚画用紙をさしだした。
「これ、シャドウがかいた」
「へえ、シャドウも……」
 言いかけて、リルムはしばらく息を止めた。
 最後に出されたその絵は、明らかに時間をかけずに描かれた無造作なものだった。けれどもデッサンも表現力も卓越したものであることは一目で分かった。
(シャドウって絵描くんだ……でも、この絵って……)
 ただうまいだけではなかった。同じ題材、「列車」という題材で絵を描き続けた人間が描いたように見える。
 そしてなんだか、この絵は少し悲しい。
 目が離せないのに、あまり見続けたくない。奇妙な感覚に、リルムの胸はざわめいた。
「これ……シャドウが?」
「うん。カイエンとマッシュがかいてる時に、シャドウが来た。マッシュがおまえもかけ、かけ! って言った」
「へえー」
 想像すると、ちょっと楽しい。もしかしたらシャドウは、カイエンとマッシュの描きかけの絵を見て、誤った列車像を提供されるガウに同情したのかもしれない、とリルムは思った。
「リルム、列車見たことあるか?」
「遠くからならあるけど」
「おれ、ほんもの知らない。どれが似てるかわからない。リルムわかるか?」
「……あたしも、近くで見たわけじゃないからわからないよ」
 リルムは思わずそう答えた。列車とはシャドウの絵のようなものだと言うのが、なんとなく嫌だった。
「そうか。マッシュは、『おれのがいちばん似てる』って言ってた。そうなのかな」
 怒り顔がついている列車をまじまじと見つめ、ガウは楽しそうに笑った。