連続爆発事件日記
6月1日  ナナ

また爆発。最近ますます増えたみたい。私もいつか爆発するのかな。心配。
カイのうちに行った。カイはあまり心配してなかった。のんきでうらやましい。
でもなんだかちょっと安心した。持つべきものはのんきな友達だと思う。
6月1日  カイ

ナナが来た。また爆発があったそうだ。一体何なんだろうなー。
この星にロボットが生まれて数百年、こんなことは初めてなんじゃないだろうか。
今日はギアも来た。同じく爆発のことが気になる様子。
「やはり製造過程に問題があったロボットが爆発するのだと思う」と言っていた。
いいかげんに作られたやつが爆発しているのだということらしい。
そんな怖いこと言うなと言ったら笑っていた。
でも作られた時期はバラバラなのに、今いっせいに爆発しているってことは、
制作時の問題ではないような気がする。冗談だったのか?
6月1日  ギア

近くで爆発があった。最近は1日2体のペースで爆発があり、そろそろ犠牲者が100体を超える。75年前から新規ロボット製造禁止になっていたが、また 作っていいということになりそうだ。原因については色々言われているが、結局不明。
6月2日  ギア

また爆発があった。
今日は爆発の原因の新説を聞いた。
6月3日  ナナ

爆発するロボットの傾向は今のところ特にないらしい。
次に爆発するのは誰なのだろう。私かもしれない。友達かもしれない。
今日会えたのに明日は会えない、そんなこともありうるんだ。
今日ギアと会って爆発の話をしていた時に急にそう思った。
「今まで仲良くしてくれてありがとう」
とりあえずそう言ったら「ばか」と言って笑われた。笑いごとじゃないと思う。
6月4日  ナナ

ミヤと話してたら爆発の原因に有力が説が出てきたと聞いてびっくりした。
「知らないの!?」と言われた。くやしい。
その説とは、私たちの中にある「進化して人間に近づく」という目的が原因というもの。
私たちはそれに従って進化してきたけど、本物の人間を見たことがあるわけではない。
だからデータが不足している。だからこれ以上進化できない。
爆発の原因はそれではないかというわけだ。
でも、それが本当だとすると解決策はないような気がするのだけど。
6月5日  ナナ

カイのうちに行って、昨日聞いたことを話した。やっぱりカイも知らなかった。
「知らないの!?」と言った。いい気分だ。
面白がってたけど、あまり信用してないっぽかった。
6月5日  カイ

ナナが来た。爆発の原因が判明したとか言っていた。なんか得意げだった。
人間に近づくという目的のために爆発するのだそうだ。そんな無茶な。
6月6日  ナナ

ずっと昔、人間がこの星に来た。そしてそのままここにとどまった。理由は分からない。
一人ではさびしいので人間の外見をしたロボットを一体作った。
人間は仲間が欲しかったので、行動も人間らしくなるように作った。
数年経って人間は死んだけど、最後にロボットに言い残した。
「お前1人残すのはしのびない。もっとロボットを作って、みんなで暮らしてくれ」
それがこの星の始まりだった。今、この星には5000体のロボットが住んでいる。
人間に近づくという目的はこの星のロボットの根幹で、誰もがそれを基準に動いている。
それが爆発の原因かもしれないなんて。

また爆発があったみたいだ。このままじゃ滅亡してしまうかも。
6月6日  カイ

爆発音が聞こえた。またか。昨日聞いたあの話のことを考えた。
オレたちは誰に使われるわけでもなく、何か仕事をすることもなく、体が古くなれば新しい体を作り、新しい脳に記憶を移しかえ、この星のエネルギーがつきる まで生きていく。
目的はただ一つ、「人間に近づく」ということだけ。それに限界があるのなら…。

もしかしたら、あの話は本当なのかもしれない。
6月8日  ギア

例の新説がずいぶん広まっているようだ。もうあれで間違いないという雰囲気になりつつある。個人的にはなんとなく釈然としない。
6月9日  ナナ

そういえば、私は人間に会ったことはないけど、人間が直接作った最初の一体だけは人間に会ったことがあるはずだ。その一体が持っている人間に関する知識は、私や他のみんなの知識より桁違いに多いと思う。
だから、もしその最初の一体がまだ生きているのなら、そいつの脳を……
うわ。なんか怖い考えになっちゃった。
6月10日  ギア

もっと人間のデータを手に入れなければ爆発、という危機感が蔓延している。
人間に関する知識を互いに提供しあおうという交流がやたらと活発だ。
みんな似たような知識しか持っていないと思うが…。
6月11日  カイ

来客が多い。人間のデータを交換しようとかなんとか。ないと言って追い返した。
6月11日  ナナ

ミヤとコリーとヨツバに会って、人間に関するデータを交換。
やっぱりあまり収穫はなかった。みんなかなりあせってるみたいだ。
こないだ考えたことを言ってみた。最初の一体のこと。
そしたらすごく盛り上がった。
「最初の一体か。なるほど、そういえば!」
「探す価値あるかも。きっと生きてるよ」
「たくさんデータ持ってるってことは、爆発しないってことだもんな」
最初の一体探しが始まりそうな雲行きだ。
本人には迷惑なことかもしれないなあと今は少し後悔している。
6月12日  カイ

ナナが来た。人間のデータないかだって。またか。
ないと言ったらなぜかしょんぼりしてた。何なんだ?
6月12日  ナナ

カイのうちに行った。人間のデータないか聞いたら無愛想に「ない」と言われた。
そういえばカイは、あの説を信じてなかったっけ。
実際、データを増やせば爆発しないという保証はどこにもない。みんな藁にもすがる思いでやってるだけ。なのに私は、最初の一体に迷惑をかけそうなことを昨日……。
落ち込む。
6月12日  ギア

今日は13体も爆発したらしい。どうなってるんだ。
もしかして、人間のデータを集めようとするのが逆効果になったのだろうか。
あの説が正しければ、爆発の原因は人間に近づきたいのに近づけないジレンマ。
それが表面化して、データが思うように集まらないことで悪化したのだったら。
なんとかしなければ。でも、どんな方法がある?
6月13日  ナナ

おとといのメンバーと4人で役所に行った。
数少ない、仕事をしている人がいるところ。各地で問題が起きてないか調べたり人口を調節したりしている。らしい。よく知らないけど。
最初の一体がどこにいるか聞きに行ったのだけど、やっぱり分からないらしい。
がっかりしたようなほっとしたような。
そういえばギアもここで働いている。いつだったか「お仕事ごくろうさま」と言ったら笑われた。問題が起こるのなんか5年に一回くらいだそうだ。
でもきっと、今なら笑わないだろうな。
6月14日  カイ

この星の住人は不老不死だから、急ぐということがない。
話したい誰かや、欲しい何かが星の裏側にあれば、徒歩で行くのが当たり前だ。
けどこんな時にも徒歩しかないというのは困ったことのような気がする。
何か情報伝達が早くなる方法はないものかな。のろしとかどうだろ。
6月14日  ギア

昨日、最初の一体がどこにいるかという問い合わせがあったそうだ。
直接人間を見知っている分、データをたくさん持っているだろうということらしい。
なるほど、そういえばそうだ。今度は最初の一体探しが広まるかもしれない。
でもそう簡単に見つかるとは思えない。名前や顔や性別を変えるのはよくあることだし、その際に今までの交友関係を全て切るのも珍しいことではない。
それに、こうしている間にも爆発のペースは上がっているのだ。犠牲者が増えれば増えるほど、誰が誰を作ったという証明はしにくくなっていくだろう。
爆発の数、昨日は16、今日は21。といっても正確な数ではない。
本当の数はどうなのだろう。もっと多いのか、少ないのか。
6月15日  ナナ

ギアに会った。昨日は爆発が21もあったのだそうだ。うわー。
あてになる数字じゃないと言われたけど(役所のそばにある山の頂上から肉眼で見えた爆発の数に適当にかけ算して出した数なのだそうだ)、でもちょっと前には3日で5つ爆発があったとかで騒いでたのに。