エピローグ  兜


 かくして勇者ロトの子孫・ロギンは、先祖の名誉を回復し、歴史の表から消えていたロトの血脈を蘇らせた。彼はローラ姫とともに故郷アレフガルドを旅立ち、数々の冒険の末、ついにロトの盾を見つけ出してラダトームに返還した。
 しかしロトの盾は、その後またロギンの元に戻ることになる。彼とローラ姫は、その冒険の間にローレシア・サマルトリアの二国を建立し、兄弟国となったムーンブルク王国とともに、その繁栄の基礎を築いた。そしてローレシア建国の時にロトのしるし、サマルトリア建国の時にロトの盾が、ラダトーム王家から贈られたのである。
「勇者ロトの子孫が建てた国ならば、その証となるものを持つべきであろう」
 これらロトの名を冠した品は、ラダトームにとっても宝である。ラダトーム王の心遣いに、ローレシア王となったロギンは深く心を打たれ、感謝したという。そしてサマルトリア建国から5年後、ラダトーム国王ラルス16世が王位をその甥に譲った時、ローレシア王ロギンは自ら新王即位の祝いの品を持って戴冠式に訪れた。

*                     *

「やれやれ、わしはローラの子に王位を譲りたかったのだが」
 控えの間でため息をつくラルス16世を、客人であるローレシア王は笑いながらたしなめた。
「これから戴冠式だというのに、それはないでしょう」
「ここだけの話だ。そなたにしか言わぬ」
「ここだけのわりには何度か聞いたような気がしますね」
 ローレシア王のその言葉を聞いて、ラルス16世は恨めしそうに目を上げた。
「何度も聞いたのに無視するのだからな。まったくそなたという男は」
「無視したわけではありませんよ」
 悪びれもせずに笑っている。この男とローラ姫がガライの町から旅立ってから20年が経った。あの頃と比べると貫禄がついたが、今も表情の中に潜むふてぶてしさは、あの頃にも確かにあったとラルス16世は思った。
 アレフガルドを旅立ったこの男は、ローラ姫とともに新しい大陸に降り立った。そこにも人間は住んでいたが、精霊ルビスの加護を受けていないその地に住む人々は、常に魔物の恐怖にさらされ細々と生きていた。中にはアレフガルドから来た者もいたが、船は魔物たちに壊され新しく作ることもできず、元の住民達と同じように息をひそめて生きるしかなかった。
 そのような状況でこの男が現れた。そして、その地の魔物の親玉を倒してしまった。それにより人々に慕われ、王となることを請われたらしい。
 彼が新しい国の王になったという知らせは、ロトの盾と一緒にラダトームに届けられた。
 ローレシア王国。国の名は、今は王妃となったローラ姫の名から取ったという。
(もしも俺が治める国があるのなら、それは自分自身で探したいのです)
 結局、あの時の言葉通りになったというわけだ。
 彼と王妃の間には3人の子供が生まれた。男の子が2人、女の子が1人。
 ラルス16世はラダトームの跡継ぎに次男をくれと言っていたのだが、ローレシア王はうんと言わなかった。そのうちにローレシアの他にサマルトリアという国を建て、次男を王太子にしてしまった。さらに隣り合った大陸にあるムーンブルク王国と親交を深め、何やら娘を嫁に出す約束をしたらしい。
「ひどい男だ。次男をくれないなら、せめて娘はラダトーム王家に輿入れさせてもいいではないか」
 ラルス16世の後継者となった甥はまだ若く、年回りも悪くない。
「支配圏を広げようというつもりなのだろうが、そんな遠いところに嫁に出すとは…」
「あれは娘の希望なんですよ」
 ローレシア王は少し苦い顔になって言った。なんでもムーンブルクの王子と恋に落ち、今は時折行き来をしつつ、普段は文通などしているらしい。
「ほう…」
 ローレシア王の珍しく不機嫌な顔を見て、ラルフ16世は逆に機嫌が良くなった。
「娘が遠くに嫁ぐ寂しさをかみしめているというわけか」
 そう言うと、ローレシア王はため息だけで答えた。
 彼は今ローレシア・サマルトリアの2国を治めているが、本拠としているのはローレシアの方だ。ムーンブルクはサマルトリアの隣国で、ローレシアからは遥かに遠い。アレフガルドを一周するよりも長い距離がある。
 かつて玉座から見下ろしていたこの男は、今やアレフガルドよりもずっと広い大陸の王だった。
「かつてのわしの気持ちが分かったか? まったく、因果とは巡るものだな」
「その通りですね。その寂しさを胸に、今後は妻と仲良くする時間を増やすことにします」
 さらにからかうと、すました顔でそう返された。
(まったく、気に入らない)
 ラルス16世は顔をしかめ、改めてローレシア王を見た。
 この男には恨まれても仕方ないことをしている。百年も前の、真偽もあやふやな借財の返済を押しつけ、竜王討伐を命じた。それだけならまだしも、実際は竜王の手の者に奪われたロトの装備を、彼に貸し与えたと偽ったりもした。
 しかし、その件について彼に謝罪したことはなかった。おそらくこれからもないだろう。何しろこの男は、その偽りに乗ってロトの盾を取り戻してくるなどと殊勝なことを言い、海の向こうへアレフガルド一の宝を連れ去っていったのだから。
「…昨日はローラと魔の島に行ったそうだな」
「ええ、新しい城主殿にお会いしたかったので。しかしあそこも、すっかり魔の島という名が似合わなくなりましたね」
 ローレシア王は窓のそばに立ち、対岸の城に目を向けながら言った。

 2年前。竜王が倒されて以来更地になっていた魔の島に、一夜にして城ができた。
 竜王の城も、さらに昔の魔王の城も、主の魔力によって造られ、維持されていたという。もしや竜王が復活したのかとラダトームは大混乱に陥り、ローレシアに使者が発つ騒ぎになった。しかしその日のうちに、新しい城主と名乗る男がラダトームの城を訪れてきた。
「敵対するつもりはない。何か貢げなどとも言わぬ。ただ、わしがあの城に住むのを邪魔しないでほしいだけじゃ」
 人間の形をしていたが、真っ青な肌の男だった。場合によっては争いになるかもしれないのに、彼は供も連れずに一人で来た。だがふとした動作のたびに表れる威圧は、供など必要ない力の持ち主らしいと周囲を震え上がらせるのに十分だった。
 ラルス16世は兵士たちを下がらせ、この新しい城主との会談の席を設けた。大げさにすることはない、などと言いつつも新城主は面白そうにそれに応じた。
「どちらにしても人の住めるような場所ではないし、不都合はあるまい。それにあの島は、力のある者を異界から引き寄せてしまうようじゃ。あのまま空けておくより、わしのような温厚な者が住んだ方が、アレフガルドの人々にとっても良いと思うぞ」
 けろりとした顔でそんなことを言う。だが、見下されているようには感じなかった。異世界から来た、人間とは違う種族だというが、妙に人間臭い。
 前にあの城にいた者と何か関わりはあるのかと聞くと、彼はあっさりとうなずいた。
「うむ。会ったことはないが、いろいろと知ってはいる。前の城主とわしは同じ一族だからの」
「同じ一族……というと、貴殿も竜であられるのか」
「その通りじゃ」
「……以前にあの城にいた者は、自らを竜王と称していた。つまり貴殿は、その配下であったのかな?」
 ラルス16世がやや声を険しくすると、新城主は苦笑した。
「会ったことはないと言ったであろう。しかし……竜王、か」
「何を笑われる」
「本来の竜王は、太古の昔におられたお方じゃ。まだ人が生まれる前、そして別の世界での話よ。竜は生きとし生けるものの王、つまり竜王とは王の中の王であった。前の城主がそう名乗ったのは、竜の一族としての誇りゆえであろう」
「…………」
「しかし、この世界には似た姿の魔物はいても、我らと同族の知性ある竜はおらぬようだ。一人で王を名乗っても誰も反対はせぬだろうが、民のいない王など寂しいものだ。わしならば、そんな名を名乗りたくはないな」
 城主の笑顔にかすかに陰がさした。ラルス16世はその時ふと、この新しい城主がアレフガルドの人々に仇なすことはないと信じられるような気がした。
 会談はなごやかに進み、ラルス16世はその最後にもう1度、太古の昔にいたという方の竜王を話題にのぼらせた。
「貴殿はその竜王ゆかりの方であられるのか?」
「うむ。わしにも竜王の血は流れておる。わしは竜王のひ孫に当たるのだ」

 以来、あの新しい城主は対岸の城に住んでいる。あの会談での言葉通り、不穏な動きは何もない。
「……楽しいひとときでした」
 目を細めて対岸の城をながめていたローレシア王が、しばらくして笑いながら言った。
 魔の島の城を訪ねたローレシア王とローラ王妃が、あの城の主である竜王のひ孫と意気投合したらしいという話は、すでにラルス16世の耳にも届いている。ラダトームの城の者に訪問の感想を聞かれ、ローレシア王とローラ王妃はあの城主をずいぶんとほめていたらしい。ラダトームには今も竜王の恐怖を忘れられない者も多いが、その竜王を倒したロトの勇者の言葉だ。あの新城主への感情もまた少し変わるかもしれない。
 竜王のひ孫と名乗ったあの城主が来てからは、前の城主が倒された後にも時に現れていたような凶暴な魔物も姿を見せなくなった。魔の島の周囲はこれまで波が荒くて船での行き来はできなかったが、これも今は凪いでいて、自由に航行できるようになった。
 それらに対して純粋に感謝し、好意を寄せる者と、油断させておいていずれ攻めてくるに違いないと警戒する者がいる。ラルス16世はそのどちらでもなかった。警戒はさほどしていない。竜の力があれば油断させてから攻めてくることに意味があるとは思えなかったからだ。しかし実のところ、あの竜王のひ孫のことを、少しばかり気にくわないとも思っていた。
 2年前の会談の後も何度か会ったが、竜王のひ孫が魔物たちを掌握しており、自らも強く、そのくせ人間を見下したりもせずに共存を望んでいることは間違いないと思えた。嫌いというわけではない。なぜか少し気にくわないというだけだ。勝てないであろう相手だからそう思うのかもしれない、と思っていたが、今対岸の城を背にしている男を見て、一つ気づいたことがある。
(似ている)
 ロトの子孫と、竜王のひ孫。もしかしたら、あの城主がなんとなく気に入らないのは、どこかこの男に似ているからかもしれない。
 具体的にどこが似ているのかは分からない。この国の王である自分にもどうにもならない力を持っているが、敵ではない、というだけかもしれない。雰囲気もどことなく似ている気がするが。
「竜王の、ひ孫か」
 ふと思い当たった彼らの共通点を、そのまま口に出した。
「そういえば、そなたもロトのひ孫に当たるのだったな」
「ああ、そうですね。偉人のひ孫同士か。だから気が合ったのかな」
 ローレシア王はまた窓の外に目をやりながら言った。
「といっても、彼も俺も曾祖父に会ったことはありませんが」
「そうか、そなたは会ったことがないのだったな。ロトは長命であったから、ロトのひ孫の中には会ったことのある者もいるようだが」
 何気ない相槌のつもりだった。しかしそれを聞いたローレシア王はしばらく動きを止め、それからまじまじとラルス16世の顔を見た。
「何だ? そなたは確か、ロトのひ孫の中では一番年下であった。ひ孫の中には、そなたよりも20以上年かさの者もいたはずだぞ」
「……いるんですか?」
「いたと思うが」
「そうではなくて……俺の他に、ロトの子孫が」
 正確な長さが分からない沈黙が流れた後、口を開いたのはラルス16世の方だった。
「……そなた、知らなかった……のか」
「…………」
「……確かに、わしも話してはいなかったが……そうか……。だが、隠していたわけではないぞ……いや、あの当時は、そのあたりはうやむやにして触れないようにしておこうという気もあったが、そなたが自分の親戚のことを知らないとは思っていなかったし、その後は特に……そなたは旅立ったままであったし、改めて話す機会も……」
 口ごもり、目を泳がせるラルス16世に対して、ローレシア王はもう一度聞いた。
「俺の他にも、ロトの子孫はいるんですか」
「……いる。ガライの町に、あの当時で20人くらいであったかな。今はもっと増えているであろう」
 ローレシア王は無言で口を開けている。言葉が見つからないらしい。王の間で初めて会った時でもこんな顔はしていなかった。ラルス16世は目をそらして続けた。
「後年のロトは、なかなかきれものの商人であった。ガライとも親交が深く、町の創立に深く関わってもいる。にもかかわらず、子孫に受け継がれたのがラダトーム王家への借財だけというのはおかしな話だと思わなかったか?」
「…ロトが大魔王討伐後に商人になったことは知っています。しかし、ガライの町の創立に関わっていたとは聞いていませんが…」
「そうか」
 少し奇妙に思い、ラルス16世は首をかしげた。自分の曾祖父が勇者ロトだということは知っていて、魔王を倒した後の彼のことを知らないなどということがあるものだろうか。ロトはあの町に70年以上住んでいたというのに。
 しかし、それ以上考えるのはひとまず置くことにした。ローレシア王がまばたきもせずにこちらを見ている。そんな気はないのかもしれないが、話の先を促されているように思えた。
「あの時、ローラにそなたの話を……ガライの町でロトの子孫に会ったという話を聞いた時に、色々と調べさせたのだ。この城に伝わるロトの話から考えても、信憑性が高いと思ったからな。そなたの言葉がでたらめではないということはすぐに分かり……」
 分かったのは家に忍び込んで例の兜を調べさせたりしたからだが、そのあたりには触れずに話を進めた。
「……先祖のことも調べた。出てきたのはロトの本名と同じ名前の商人だった。ロトの本名は世に知られてはいないから、わざわざ偽名を名乗ることもないと考えたのかもしれぬ。だがこの城の記録には残っている。むろんそのことだけではない。伝えられる外見、年齢、不明な出自、ガライとの親交、その妻、その他の数々の逸話……それに、あの兜。その商人がロトであることは間違いなかった」
「…………」
「あの町では今もそれなりに名が知られている商人だ。あの町に数多くいるロトの子孫たちは、自分がその商人の子孫であることは知っていた。だが、勇者ロトの子孫であることは知らなかった。ロトは自分が勇者ロトであることを、自分の子供たちにさえ語らなかったようだ。そなたの祖父であった、末の息子を除いてはな」
 ラルス16世は、黙ったままのローレシア王の顔を見た。驚いているような、何か思い出しているような、何か言いたげな、様々な顔をしながら、しかしローレシア王は何も言わなかった。
「ロトは妻が世を去った時に隠居し、子供達に財産を分け与えた。そなたの祖父はその時にあの兜を継いだ。他の財産はほとんど継がなかったようだ。まあ、確かに異世界の金属で作られた、この世にたった一つの宝だ。価値のあるものには違いない……」
 そこまで言って、続けて何を言おうかと考えたが、もう何もなかった。それほど長い話にはならなかったと思った時、ローレシア王がようやく口を開いた。
「他にもロトの子孫がいたのに、俺を選んだのは……俺だけが、ロトの子孫であることを自覚していたからですか」
「それもあるが、やはり金の問題だ。そなたの他のロトの子孫は金を持っている者が多い。4万6千5百ゴールドの支払い能力はありそうだったのでな」
「……はは」
 ローレシア王は肩を落として笑った。
「しかし結局、それで正解であった。そうであろう」
「まあ、異論はありません」
 ローレシア王はそう答え、何か考えるように黙りこんだ。ラルス16世も20年前の記憶がいっぺんに押し寄せてきて胸やけしそうな気分だった。当時思っていたことをなんとなくつぶやいた。
「そなたが他の子孫のことを言い出さないのは、先祖のもう一つの顔を知らぬ者たちを巻き込まないためかと思っていた」
「そんなにできた人間じゃありませんよ」
 ローレシア王はゆるく首を振り、思い出したように聞いた。
「ロトの本名は、何というのですか」
 ラルス16世がそれに答えると、ローレシア王は目を見開いて「確かに有名な名前です」とつぶやき、冗談とも本気ともつかない口調で続けた。
「奥さんの尻に敷かれていたことでも有名ですよ。そこらへんは血筋ですかね」
「よく言う」
 苦笑したラルス16世にローレシア王は笑みを返し、また少し考えてから言った。
「父が言っていました。祖父は……勇者ロトの末息子は、子供の頃からなかなかの目利きで、まだ事情を知る前からあの兜に目をつけていたのだそうです。きっと祖父にしつこく兜の素性を聞かれて、とうとうロトは口を割ったんでしょうね」
「ではロトは、本来は誰にも自分のことを話すつもりはなかったと?」
「おそらくは」
 ローレシア王はうつむきかげんになってぽつぽつと続けた。
「俺はロトに直接会ったことはありませんが、父は何度も会ったことがあるそうです」
「ほう」
「その頃のロトはもう隠居の身で、町を愛する優しい老人だったと聞きました。町のことはよく話しても、魔王討伐の話はせがまないとしてくれなかったとか。父が知っていたロトの冒険の物語は、ほとんどが祖父を経由したものです。祖父はロトにたくさん話をせがんだんでしょう。本当のロトの冒険を、子孫に伝えたかったのかもしれません」
「…………」
「それから……ああ、今気づきました。父はロトと会ったことがあるのだから本名も知っていたはずだ。けど、俺にロトの話をする時は『ロト』としか呼ばなかった。ラダトームの国宝を売り払った勇者の家系と、町の創立に貢献した商人の家系……同じ一族でも、混ざるのはお互いのためにならないと……そう思ってたのかな」
 ローレシア王は天井を仰ぎ、笑っているような泣いているような顔で大きく息をついた。
「……今の話、もっと早く聞いていればと思いますよ」
「言うはずがなかろう。竜王討伐前にわざわざ触れて、なぜ自分だけが支払うのかと話になってはかなわん」
 実はあの頃、いつその話が出るかとびくびくしていた。全くの杞憂だったのかと思うと今さらながら拍子抜けだ。だがラルス16世の言葉に、ローレシア王は首を振った。
「いや、そういう意味ではなくて、今日これからのことです。……けど、やはり同じだったでしょうね」
「何の話だ、歯切れの悪い」
 ラルス16世が首をかしげると、ローレシア王は「すぐに分かりますよ」と笑った。

 その言葉の意味は、数時間後に分かった。
 戴冠式が終わった後の、招待客を交えての宴の席。ローレシア王からの祝いの品に、参列者は大きくどよめいた。その鈍い輝きは、アレフガルドにもその外にある大陸にも、本来はないはずのものだった。
「ローレシア王、これはもしや」
 驚きに目を見開きながらラダトームの新王が言った。実物を見たことはなかったが、彼も話には聞いたことがあった。ローレシア王はうなずいて言った。
「私が新しく国を建てた時、先のラダトーム国王陛下から、ロトが身につけていた品をお贈りいただきました。ですが、ロトの称号はラダトーム王家から与えられたもの。ここより生まれたロトの伝説を、別の形でお返ししたいと思っていたのです」
「おお、なんと素晴らしい。今この時より、ラダトームの宝とします。貴国にお贈りした勇者ロトゆかりの品とともに、このアレフガルドとの永遠の友好の証となりましょう!」
 拍手が起こった。ラダトーム新王とローレシア王はなおも親しげに言葉を交わしている。ラルス16世はその光景を見ながら、一人苦虫を噛みつぶした顔を隠した。
 祝いの品は、ラルス16世がかつてうんざりするほど見た物だった。何度も死んでは王の間に戻ってきたあの男。玉座の前で頭を垂れていたあの男に説教をしていた時、いつも目に入っていた物だった。
(これをラダトームの宝として、身近に置けと言うのか)
 見るたびに思い出すだろう。竜王の脅威から国を守る力のない自分が、あの男にどんな姑息な小細工を用いたか。彼の竜王討伐の旅の間、自分がどんな気持ちでいたか。そして最後には、愛娘が遠い場所にさらわれていくのを止めることもできなくなってしまったことも、これを見るたびに思い出すだろう。
 ふと気づくと、ローレシア王がこちらを見て笑っていた。ラダトーム前王はそれに笑顔を返しながら、腹の中で歯噛みした。
 やはり、気に入らない男だ……。

*                     *

 祝いの品、それは勇者ロトから子孫に伝えられた兜であった。
 かつて勇者ロトが魔王を倒した時、ラダトームの宝であった剣・鎧・盾とともに身につけていた物である。一説にはロトがその父親より受け継いだとも伝えられるこの兜は、この世界には存在しない金属で作られていた。まさにロトが別世界から来たという伝説を裏付けるものであり、そしてまた、ロギンがロトの子孫であることの証ともなったのである。竜王を討伐し、外海へと船出し、ついには大陸に二国を打ち立てたロギンの旅立ちは、この兜から始まった。

 この日ラダトームで、伝説の勇者ロトより伝わる装備の最後の一つ、ロトの兜が生まれた。


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ロギン : 勇者の子孫
レベル : ?

財産 : ? G


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「ロトの借財」 終