北方水滸伝 湯隆登場箇所一覧 及び私感雑感(ページ数は文庫版準拠)
2巻 P369
獄舎を開放して出てきた者の中に、李雲と湯隆という二人がいた。二人を、宋万はよく知っていた。二人とも王倫に反撥し、つまらないことで投獄されていた。
で、出〜〜wwwwwwwww
2巻でもう出てくる。ネタバレになるけど最終巻までいるので登場期間は相当なものですよ
なおここでは本人は出てこず紹介のみ
湯隆は、鍛冶屋である。腕はいい。山寨でも重宝がられていたが、王倫に命じられた、聚義庁の部屋の飾りをいつまでも作らず、怒りを買った。武器や武具は、頼まなくても作りたがる男だった。

この紹介、後で見ると味わい深すぎる……
なお大工の李雲も投獄されていたのでこのころにも多少付き合いはあったかもしれません(重要)


4巻 P130〜
「もっと細くだ。わからんのか。縫い針などよりもっと細く、そして丈夫に」
 湯隆は、作業場の隅で、あるかなきかの鉄の棒を打ち続けていた。焼きを入れては、打つ。それをくり返しているので、棒は細くなり、腰が強く折れにくくなっているはずだ。それでも、後ろに立っている男は、満足しなかった。
4巻で本格登場。ここの章タイトルの「地孤の星」は湯隆の星なのでこの章では主役と言っていいはず。
「地孤の星」の一は湯隆視点のパートです。
湯隆はこの後もたくさん登場するけど湯隆視点のパートはあまりなかったような……ここだけだったかな?
 湯隆は、自分の作業場の火は落とさなかった。
 部下が帰ると、湯隆は台の上の鉄を小さく分け、明りの下で切り口をじっと見つめた。今度こそ、という思いがある。いま鍛えている針では、安道全は首をたてに振らないだろう。いままでそういうことはしばしばあったが、今度の仕事が一番難しい。
医師の安道全の依頼で針を作るが、安道全はできあがったものに満足せずに文句ばかり言いに来る。
湯隆は特に言い返すこともなく黙々と鉄を打ち続け、鍛冶場の仕事が終わる夕刻を過ぎても一人残って様々な工夫をこらす。

二巻では「武器や武具は、頼まなくても作りたがる男」と紹介された湯隆ですが、実際出てきたら治療用の針とか作ってるし、この後もいろいろあれだし、武器だけしか作りたくないとかそういうわけではないらしい。でも部屋の飾りにはあまり向いてなさそうではある
 人の気配がした。
 振り返ると、薄闇の中に白勝が立っていた。
「また催促か、おい」
「そう言うなよ。安道全がどれくらい無茶を言うか、俺もよく知ってる。あんたの部屋に行ってみたら、留守だった。だからこっちだろう、と思ったのさ」
作中で湯隆は無口だとよく言われているんですが、こういう時にこういう反応はします。
白勝は最初はただのチンピラの盗っ人みたいな感じだったけど、1巻で安道全と林冲と色々あって固い友情で結ばれ人間的に一皮むけたりして、今は養生所と薬方所をとりしきっており、ここで安道全に振り回されている湯隆に差し入れを持ってきたのでした
鉄を打つことにしか興味がないように見える湯隆ですが、ここで差し入れの冷えた粽を蒸し直したりする。食べ物をよりよく食べることにはそれなりに興味がある模様

この後寝食を忘れて3日かけ、ついに安道全を満足させる鍼をつくった湯隆は、安道全の梁山泊鍼治療の初めての患者になる。ここの治療されるところから帰って寝るところまでがねえ……ちょっとあの、エロイ
で、一晩寝たらとても体調がよくなっていて、あの鍼が効いたのかと思いながら湯隆は鉄を打ち、自分の生い立ちを振り返る。
 鍛冶屋をやっていて、楽しいと思ったことはなかった。もの心がついたころから、親父に鍛冶屋の仕事を仕込まれた。それしかできないので、それだけをやっていた。湯隆が十七歳の時に、親父は病で死んだ。ほかの鍛冶屋に雇われることになったが、雇主とは馴染めなかった。手間をかけずにやる、という人間が多かったのだ。
 言うことを聞かないと、追い出された。何度もそれをくり返しているうちに、流れ歩く鍛冶屋になった。
湯隆にはそんなに強烈な過去とかがあるわけではなく、淡々とした調子でその過去は思い返される。
流れ歩く鍛冶屋になり、なんとなく山寨に入り、しかしそこでも似たようなものだったので、しばしば仕事を放棄していたら牢に入れられた。そのうちに山塞の首領が変わり、牢から出た……
この回想、「言うことを聞かないと、追い出された。何度もそれをくり返しているうちに……」とか普通に書かれているのだけど、言うことをきかなかった理由は書かれていない。どう思ったのかも書かれていない。雇主の言われた通りにやる、という発想も選択肢も、最初から存在しなかったようだ。
鍛冶屋をやっていて楽しいと思ったことはなく、鍛冶屋の仕事しかできないのでそれをやっていた。それだけなら、雇主の言う通り手間をかけずに仕事をすればいいし、雇主に言われるまでもなくそうしていたかもしれない。けれども湯隆にはいいものを作ろうとする本能に近い気質があって、そして自分のそういう気質に対してなにか疑問を持ったこともなかった。反骨精神があるわけではなく、けれども自分のやりたいように仕事をする以外の選択肢が見えないから、周りには上の者に反発しているように見える。
本人が自分の過去を振り返れば、苦労はあっても苦悩はなく、選択肢もない平坦な一本道。

仕事をしながらの回想が終わったあたりで、また白勝が差し入れを持ってくる。また蒸し直して、二人で食べる。そしたら白勝が言う。
「おまえ、損な生き方ばっかりしてきやがったな。盗っ人になるしかなかった俺は、そういう損がいやだった。おまえを見てると、歯痒いが、羨ましいな」
白勝は湯隆のこれまでのことをおそらく知らない。前の頭領の王倫の命令をきかずに牢に入れられてたことくらいは知ってるかもしれないけど、その前にどんなふうに生きてきたかまでは知らないだろう。
でも白勝には、湯隆本人には見えなかった湯隆のこれまでの選択肢のことが、きっとなんとなくわかるのだ。
「人に、羨ましがられたことはない」
「まあいいさ。俺が勝手に思ってることだ。おまえにゃ、梁山泊に友だちが一人いる」
「誰だ?」
「俺さ」
 白勝が、歯を剥き出して笑った。
「いいもんだぜ、友だちってのは。俺も、最近までそれを知らなかった」
「友だちか」

白勝と友達になりました(ピコーン)
初めての人間の友達です。ここから増えていくわけです


4巻 P145〜

 薬方所の卓に、六人分の食事が並べられている。
 薛永は、新しい薬研をごろごろと動かしている。湯隆がいた。
「見てくれ。俺が頼んだ通りのものを、湯隆が作ってきてくれた」

同じく「地孤の星」の章。今度は二。安道全視点。
湯隆はここでは薬師の薛永からの注文の品を持ってきて、ついでに夕食に誘われたらしい。一緒に食べる。
湯隆がしゃべったので、安道全が珍しいと思ったりする。

「ともかく、おまえが作ってくれる鍼は、絶品だ、湯隆」
「もっと細くもできるし、無論太くもできる」

ほめたーー
安道全は口が悪いけど、別に素直じゃないとかではないのでほめることもある。でも一巻で、不満な時は色々言うけど満足してる時には何も言わない的な描写もあったので、これはよほどのことでもあります。
これを湯隆がどう思ったのかは不明。そのまま普通に返事してる。珍しいなくらいは思ったかもしれない。嬉しかったかも。むしろ同席してる白勝が驚いたかも

 椀一杯の酒もあった。それだけの酒で、薛永の二人の助手は、顔を赤くしていた。湯隆は、放っておけばいくらでも飲みそうだ。

これ!
これよ もう
登場人物の酒に対する反応って値千金のサービスだわァ〜先生ありがとうございます
酒強いらしいです!!


4巻 P163〜

 鉄を打つ。打ち続ける。
 これがひと振りの剣になったら。晁蓋は、そう決めていた。

同じく「地孤の星」の章。四。晁蓋視点。
晁蓋が自分の剣を自分で打とうと考え、湯隆に教えてもらいながら鉄を打つ。
それまであまり話をしていなかったが、完成が近づいた時に湯隆と話したりもする。

 湯隆が、かすかに笑った。この男が笑うのを見るのは、はじめてだという気がした。
「なにがおかしい、湯隆?」
「おかしくはありません。ただ、鉄が生きているなどと言うと、みんなおかしな眼で俺を見ます。晁蓋殿は、感心された。それは、はじめてです」
「おまえが、生きていると言ったのだ。そうだと思うしかあるまい」
「白勝など、俺を変人だと言います」
「嫌いなのか、白勝を?」
「友だちです」
 湯隆が、またにこりと嬉しそうに笑った。
「安道全の鍼を作ったそうだな?」
「はい。あの男とも、友になりました。今は林冲殿の槍を頼まれています」

な なん
おい聞いたか
安道全と友だちになったとか言っている
本当だろうか これはちょっとえらいことですよ
安道全は一巻で林冲と白勝と友達になったし、薛永とも友達といっていいくらいの関係だと思うけど、湯隆……そこまで広がるだろうか
しかもここで湯隆が「友になりました」と断言しているということは、おそらく言葉に出してお前も友だ的なこと言ってるんですよ。この2人のことだから。
この後そんなに絡みはないんだけど、鍼は定期的に届けてるはずだしなにより最終巻であれだったからねこの2人は

林冲の槍を頼まれたというくだりも重要だけど安道全友発言の方にどうしても目が行ってしまいますね……
この後で「どこにいても同じだと思っていたが友だちがいるのは違うのだとはじめてわかった」とも言っている湯隆
トモダチ……

「お前の帳面、お前にしか読めないのだろう。それは字を読めるより素晴しい。私も、おまえの友だちのひとりになりたいものだ」
「晁蓋殿が友だちなどと、そんなことは」
「なってくれないのか、友に」
「梁山泊の、一番上の人だ」
「それでは、おまえと私の間だけは、友だちでいよう。その方が、気が楽だろう」
「それは。だけどいいのですか、俺みたいな鍛冶屋と、友だちになって」
「なにを言っているのだ。おまえが立派な鍛冶屋だから、私は友だちになりたいのではないか」

晁蓋とも友達になりました(ピコーン)
何よこの会話はよ……かわいいですね
そんなわけで湯隆は晁蓋殿のことがとても好きになったのです

剣の最後の仕上げは晁蓋自身でやるのですが、できあがった時に湯隆から鞘が届けられます。にくい


4巻 P355〜

 そして晁蓋は、夜になるとまた湯隆の鍛冶場に通いはじめた。もうひと振り、剣を打とうとしているのだ。昼間に行くと、作業の邪魔になる。いま鍛冶場と工房と造船所は、こなしきれないほどの作業を抱えていた。人のいなくなった作業場で、湯隆は黙々と晁蓋に付き合ってくれた。

また来た晁蓋殿
前に通った後色々な出来事を挟んでいます。200ページ分くらい。
今度は晁蓋、宋江のための剣を打とうというのです
しかし梁山泊も前途多難なので仕事が長引き、心に重荷を抱えた状態で鍛冶場に行ったりもする晁蓋。

 湯隆は石炭を蒸し焼きにして軽く穴だらけにした骸炭を燃やし、待っていた。
「遅くなった。いろいろとあってな」
「晁蓋殿に、そんな顔は似合いません」

湯隆もそんなセリフ似合わないよ!?
いやあ特別な人なんですねえ


5巻 P213

安道全は、小刀を手に取った。湯隆が鍛えに鍛え、どんな刃物より切れ味がよくなったものだ。
手術場面で名前だけ登場。
ここは安道全視点のパートなので信頼のほどが伺えるというものです。
この後、湯隆作の小さい鋸で骨を切ったりもする。

5巻 P248

「おまえのおかげで、少しずつ武器の蓄えもできそうだよ、蒋敬。がらくたの鉄でも、溶かして武器に作り直せるなど、俺は考えたこともなかった」
「湯隆が、そうしろと教えてくれた。戦で、いつでも武器が奪えるとはかぎらん。作る力を持っているのが、一番強いとな」
わお
物流的なのを担当してる蒋敬だから湯隆と絡んでるのは不思議はないけど、湯隆がアドバイスっぽいことしてるのは珍しいかも。
作る力を持っているのが一番強いと湯隆が言ったんだーかっこいいねえ

6巻 P92

 李雲も、熱い茶を啜りはじめた。職人と呼んでいいような人間が、梁山泊には何人かいる。鍛冶場をまとめている湯隆などもそうだ。自分も、職人のようなものだろう、と蕭譲は思っていた。
名前だけの登場。蕭譲視点のパートです。
2巻で最初に出た時も李雲と湯隆はセットだったし、蕭譲もここで李雲を見ながら湯隆のこと思い出すんですが、李雲と湯隆が実際に一緒に出てくるのはかなり後です
個人的には一番好きな組み合わせなんですが だって一緒に牢屋に入ってたんですよ(同じ房とは言ってない)

6巻 P304

 湯隆のいる鍛冶場の前を通った。
 笑いながら出てくる、晁蓋に出会した。

ここも名前だけの登場。阮小五視点のパートです。
梁山泊内を歩いていた阮小五は、鍛冶場から出てくる晁蓋と出会う。晁蓋は阮小五を釣りに誘い、一緒に小舟に乗りこむのだった。

「なにを、釣るのですか?」
「鰱魚だ。宋江のやつ、旅先で臥せっていると思ったら、鰱魚を釣ったと知らせてきた。それがまた、自慢、自慢の手紙でな。梁山湖でも釣れると教えて、くやしがらせようと思っている」
「鰱魚ですか」
「いま、湯隆に特別の釣鉤を作って貰ったところだ。おまえも、頑張って釣ってみろ」

きたこれ これよ
見たか? 王倫の部屋の飾りを作らなくて牢に入れられたくせに、晁蓋に釣り針頼まれたら笑って引き受け(推測)すぐ作ってしまうこれ
友達だからねしょうがないね
特別のって何だろう。多分大きさだと思うけど針の返しに一工夫あったりする可能性も高い
忙しい湯隆に平気で特別の釣り針頼んでくる晁蓋殿これ

なお鰱魚はちゃんと大物が釣れました
釣れたところでこの章は終わってるけど、食べる時には湯隆も呼ばれたかもしれません