「あらいらっしゃい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……のろし?」
「のろしを」
「はーい」
「おやえどの」
「なあに」
「いくさはもう終わりでござるよ」
「えっ」
「敵方はすでに戦意を喪失していることあきらかでござる」
「まあ。よかったわ」
「うむ」
「……さあ、のろし上がったわよ」
「いつもながら見事な煙でござるな」
「ふふ。ありがとう」
「拙者がここに参るのも……これが最後でござろう」
「…………」
「ご飯やお風呂の方は一度も注文できなかったでござるなあ」
「仕方ないわ……飯炊きや風呂焚きの煙がのろしの煙に混ざってしまったら大変だものね」
「こんなつらいお役目は初めてでござった」
「五郎太さん」
「さらばでござる」
「五郎太さん! ……ああ。炎のように燃えたいのに、いつも煙のような幻の恋」
 大学時代の先輩方の忘年会に出席しました。私はわりとミソカス的存在ですが、面白い人とお酒を飲むのはやはり楽しいです。

 その席で、坊主頭の先輩に「その頭は自分で?」と聞いたところ、友人2人にバリカン係と髪の毛吸い取る掃除機係をやってもらうという答えが返ってきました。
「その2人はすごい腕だから。バリカンと掃除機の」
 それを聞いた別の先輩が「その題材は素晴らしい映像作品になりますよ」と言ったところからその作品の話になりました。

「アパートの中、鏡を見ている男。しばらく思案しているがおもむろに電話をかける」
「『もしもし……またお願いしたいのですが』」
「場面変わって事務所でその電話を受けている男。『急な話だな。報酬は2割増しだ』」
「『(苦しそうに)背に腹はかえられません』」
「『分かった。すぐそちらに向かう』電話を切った男、クローゼットを開く。掃除機の筒がズラリと並んでいる」
「その中の1本を取り、シャコン! と本体に装着」
「『お気をつけて』送り出す美人秘書」
「アパートで今か今かと待っている依頼人。インターホンが鳴り、あわててドアを開ける」
「掃除機をわきに抱え、筒の部分を刀のように背中にさした男が立っている」
「『お、お待ちしていました!』」
「『ああ』アパート内を見回し『やつはまだ来ていないのか』」
「『あ、はい。まだ……』そこでまたインターホンの音。『来たな』」
「部屋に入ってくる眼光鋭い男。掃除機の男に声をかける。『よう、久しぶりだな』」
「『ああ。お前と組むのは2年ぶりになる』『2年……(笑って)そうか、あの横浜の大仕事の時以来か』」
「『さて』掃除機を構える男。そしてホルスターからバリカンを抜き、クルクルクルッとやるもう1人の男。『始めるか』」
「ガー。掃除機の音が部屋を支配する」
「たまに『右を向け』とか言う声も聞こえる」
「突然、髪が1本掃除機をすりぬけハラリと落ちる。掃除機の男の見開いた目のアップ」
「しかしまさに間一髪、床に落ちる前にすくいあげて吸いこむことに成功」
「『危なかったぜ……』」
「緊張感に満ちた時間が流れ、散髪終了。依頼人に鏡を見せる。『どうだ』」
「『(感激して)はい、ありがとうございました!』」
「『そうか』バリカンをホルスターに収め、掃除機の筒を背中にさし、出て行く男たち。その背中に声をかける依頼人。『あの! また、よろしくおねがいします!』」
「『ああ』ドアから出て行く2人は逆光でシルエットになっている」
「バタン。ドアが閉まり、1人残される依頼人。満足そうに自分の頭を様々な角度から鏡に映す。END」

 素敵な先輩に恵まれて幸せだなあ。
「なに? 前田くん。話って」
「うん。……あのさ」
「…………」
「俺……ずっと前から木村さんのこと……嫌いだったんだ」
「えっ……」
「だから、その。もしよかったら、だけど……俺と、絶交してくれないかな」
「…………」
「だめ?」
「……ごめんなさい……。私にも……嫌いな人がいて……」
「あ……そうなんだ……。そいつと……絶交してるの?」
「ううん、私が勝手に嫌ってるだけ。すごくいい人だから……多分、何も言えないまま1人でずっと想い続けるんだろうな……」
「そっか……」
「ごめんね」
「いや。というか、それなら俺にもまだチャンスあるじゃん」
「え……」
「俺、あきらめないから。木村さんが誰のことを、どんなふうに嫌ってても、俺の気持ちは変わらないよ」
「……前田くん。そこまで私のことを」
 昨日行く時にぶつけて前輪が歪んだ自転車を、今日修理してもらいました。
「なんかね、前輪以外にもゆがんでたから直しといたよ」
「どうもありがとうございましたー」
 直った自転車をこいで家路を急ぐ私。しかしその乗り心地は、今までとどこかが違っていたのだった。
 キキィーッ
「あんた……あんたいったい誰?」
「!」
「どこよ! 私の自転車をどこへやったの」
「…………」
「たいへん! けっ警察に」
 携帯に手をかけるのと同時に自転車のワイヤーがシャッ。ゴロンと落下する私の首。
(なぜ見やぶられたのだ……それもかなりの短時間に……。ギアもフレームも本物とほとんど変わらんはずだが)
 冷たい表情のまま考えこむ自転車。
(わからん……この中年女に特別な能力があったとも思えん)
 それこそが自転車には分からない人間の情……。そしてこのシーンがのちのち伏線となって効いてくるのです。
「ガキの頃俺はね」
「はあ」
「登山家になりたかったんだよ」
「はあ……」
「なんだよ。いつにも増して不機嫌そうだな」
「何も元旦から来なくたっていいじゃないですか。迷惑すぎる」
「まあ聞けって。登山家だぞ。ヤッホー! …ヤッホー…ホー…ホー」
「大声出したいなら外でやってください」
「いや、別に出したいわけでもない。登山家の本分はこだまより登る方にあるわけだから。そうだろう?」
「同意求められても困る」
「登山家としての俺の出発点は小学校2年生の時だった。家に帰るまでのいつもの道、そのわきに草のおいしげる空き地があった」
「ええと。それは本当なんですか」
「ここまでは本当。ここからが嘘……というかある登山家、つまり俺の伝説になる。事実を元にしたフィクションてやつさ」
「ああそうですか」
「その日は朝から空模様があやしかったが、帰り道の途中でいよいよ降り始めた。小雨の間になんとか家に、と考えたのもつかのま、すぐに本降りになってしまいあわてる俺。雨宿りをする場所を求めてあたりを見回すと、例の空き地に葉の多い木があるのが見えた。あれだ!」
「雨降ってる時に草の中入ったらよけいぬれそうですけど」
「夢のないことを言うなよ。木の下で雨宿りという状況だけでうれしくなるじゃないか。さてぴったりと木によりそい、雨から身を守ろうとした俺。しかし木の下って予想外にぬれるんだよね」
「ふうん」
「もちろん何もないところよりはぬれないよ。しかし雨宿り目的で入った場所でぬれるという理不尽に苦痛を感じた俺は、もっとぬれない場所に移ろうと考えたんだ」
「走って帰ればいいのでは」
「むこうにある木の方が下の地面がぬれてないな。ようし移動だ、えいっ! ふうーこれでぬれずにすむ……あれ? やっぱりぬれるぞ?」
「だから帰れば……」
「それをくり返して木から木への小旅行を続けているうちに、ふと気づくと俺は山の中にいた」
「はあ?」
「このあたりの住宅地はもともと山を崩して造ったものだったから、空き地の奥はまだ崩されてない山だったんだよ。雨宿りできそうな木を求めているうちにその山の奥深くに迷いこんでしまったんだ」
「いや、無理ですよ……その展開は」
「遭難してしまった! 青くなったね。幼い俺にとって遭難のイメージは『寝ると死んでしまう』だったし」
「はあ。それは厳しいですね」
「どうすればいいんだろう。そうだ。登ろう!」
「? 登るんですか」
「高いところに登って下の方を見れば自分の場所が分かるはずだ!」
「その後はどうするんです」
「ヤッホー! …ヤッホー…ホー…ホー」
「出てけ」
「まあそれは冗談で、とにかく自分のいる場所がわからないのが不安だったんだよ。なんか山ってさ、頂上は1つしかないから登れば安心て感じがするだろ?」
「そうですかね」
「俺はひたすら道なき道を行った。いつしか雨はあがったが、空は暗く時刻は分からない。急がなければ。夜になったらおしまいだ」
「おしまいって……」
「ひたすら上を目指す俺。しかしさきほどの雨でぬかるんだ地面が予想以上の厳しい障害となって立ちはだかる。さらに、目の前に現れる崖と見まがうばかりの急斜面、果たして俺は頂上にたどりつくことができるのか!」
「無理に盛り上げようとしなくていいですよ」
「この時の経験がのちのち大いに役立つことになる」
「へえー」
「枝や葉にさえぎられて空も見えない、行く道も見えない。募る不安、おしよせる恐怖。それを振り切り、ここを登れば頂上だ! とやぶをかきわける。そしてさらに上があることを知って絶望する……一体何度それをくりかえしただろう。しかし俺は決してあきらめなかったのだ!」
「ふうん」
「さあ、次のやぶだ。かきわける! あっ! 俺の動きが止まる。そのまましばらく動けなかった。今まで常に枝や葉にさえぎられていた景色が急にひらけたのだ。空が見える。遠くに海が見える。下の方に町が見える。セミの幼虫が地上に出た時こんな気持ちにもなるのではないか? おお、世界はなんと美しいのだろう」
「小学校……何年生って設定でしたっけ」
「2年。だけど世界の美しさへの感動に年齢など関係ないね。俺は今まで一体何を恐れていたのだろう? これほどまでに大いなる世界に抱かれているというのに。よしんばここで死を迎えたとしても、俺は……」
「はあ。学校帰りにねえ」
「しかしここはまだ頂上ではない。さらに上を目指さなければ……」
「は? なぜ」
「理由なんてないよ。しいて言えば、この出来事によって俺が男として大きく成長したというところかな」
「成長ですか。それ」
「しかし登山家としての俺の初挑戦はここで終わる。突然、人の話し声が聞こえてきたからだ。もうここは民家に近かったのか! この山を登ってきたそもそもの目的を思い出す俺」
「民家にはもともと近いんじゃ?」
「話し声がするほうに必死に進む。ようやくぬけたそこは、出発地点とはまた別の空き地。驚いたことに見覚えがある場所だった。なんということだ、ここもいつも通っている道ではないか! さきほどの空き地からこちらの空き地まで、普通に道を歩けば10分たらず……たったそれだけの距離で思わぬ大冒険をしてしまった」
「こっちもこんなに長くなるとは思わなかったですよ」
「『ただいまー』『おかえり。まあ! どうしたの、そんな泥だらけになって』『ああ、ちょっと雨に降られちゃってね』」
「いやな子供だな」
「心配になり、父に相談する母。『ねえ。今日あの子体中泥だらけで帰ってきたのよ。何やってたのかしら』『俺にも経験あるよ。男の子ってそんなもんさ。あの子はあの子の世界で冒険し、その冒険によって育まれていく。親として、そっと見守っていこうじゃないか』『あなた……』」
「親もいやだな」
「両親がそんなことを話していることも知らず、俺は布団にもぐってその日の冒険を反芻していた。あの極限状態。あの感動。何度も思い返すうち、胸の中に一つの衝動がふくらんでくる。そして俺は、一つの誓いを立てるのだった……」
「はあ?」
「そして月日は流れ、俺はついに登山家になった」
「いきなりですね」
「その点はしょうがない。ガキの頃には登山家とか冒険家とかって、どうやったらなれるかよく分からなかったからね。もっとも今でも分かってないんだけど……登山がどうやって収入に結びつくんだろう?」
「さあ。でも人の行けないところに行けるわけだから、そこらへんで何かあるんじゃないですか」
「そうか。いいなあ、謎めいていて。ロマンだ」
「知らなきゃ何でもロマンなのか」
「2000年。ノストラダムスと北斗の拳が予言した未来が到来しなかったことに安堵した俺は、ついに子供の頃立てた誓いを実現すべく動き出した」
「ふうん。年限定するのは珍しいですね」
「そう、そこがポイントなんだよ! さすが分かってるね!」
「言うんじゃなかった」
「今まで胸に秘めていたことをついに仲間に話す俺。『みんな、聞いてくれ。実は俺には子供の頃に立てた誓いがあった』『ええっ』『そ、それは一体何だ! 教えてくれ!』」
「仲間?」
「『それは! 21世紀の日の出を世界一高い山の頂上で見ることだ!』バーン!」
「あーなるほど」
「驚き、静まる仲間。しかし次の瞬間、力強い声が次々と上がる。『そんな夢を持っていたというのか!』『それがお前の原点と言うわけだな』『ぜひ我々も同行させてくれ』『一番高い山といえば……』声をそろえて『エベレストだ!』」
「なんかますます脱力してきた」
「『よし! エベレストの山頂で新世紀の夜明けを拝もうぜ!』『おう!』『こんな幕開けが他にあるか!』『ない!』俺たちの熱い決意はヒマラヤの雪をも溶かさんばかりだった」
「勝手にしてくださいよ、もう」
「そして俺たち5人はエベレスト山頂を目指して旅立ったのだ……」
「5人だったんですか」
「そう。ここでメンバーの紹介をしよう」
「いりません」
「まずはメンバーの中で最年少、短気でケンカっ早い井上。しかしいざという時の決断力では俺も一目置く存在だ。次に常に冷静沈着な柏田。井上とは反目しあうこともしばしばだが、それは彼の中にもまた熱い情熱のほとばしりがある証でもある」
「その紹介は必要なんですか」
「もちろん。そしていかにも山男といった風貌の岩山。彼が登山に興味を持ったのは、中学時代に雪男というあだなをつけられたのがきっかけと言われている」
「その紹介は本当に必要なんですか」
「最後に気も弱く体も頑健とは言えない杉原。しかし彼には特別な能力があった。人には分からない空の微妙な色の差、風のしめりから、先の天候を読むことができるのだ。どうだよ。ワクワクするメンバーじゃないか」
「なんか話の内容が変わってきたような」
「さあいよいよエベレストに挑戦だ。しかしいくらも登らないうちに、突然の猛吹雪が我々を襲った!」
「天候読む人は」
「杉原がいなければ我々は確実に全滅していただろう」
「ああそうですか」
「『くそ……思わぬ足止めをくっちまった』あせりの色を隠せない井上。『この先急がないと新世紀に間に合わないぞ』『まだ時間は十分ある。そんなくだらないことしか考えられない頭なら、ふもとに置いてくればよかったんだ』『なに!』また例によって井上と柏田の言い争い、そしてそれを止める岩山。だがこんな争いがあってもいやな空気にならず、むしろまたかと笑ってリラックスしてしまうところが我々のすごさだ」
「はあ」
「吹雪もおさまり、再び進む我々。しかし井上の言葉を借りるまでもなく、事態が切迫しているのは明らかだ。そのあせりによって注意力が散漫になっていたことは否めない。『うああっ』『井上!』『来るな! 俺はもうだめだ』なんということだろう。井上ほどの男がつり橋の板が腐っていることに気づかなかったとは」
「……つり橋?」
「『井上ー!』『あきらめるな! このロープを』『だめだ、お前たちが立ってるところだって腐ってるんだぞ。へたに体重がかかったら共倒れだ』『馬鹿野郎、そんなことを言ってる場合じゃ』『場合だ! 生き残るのは1人でも多い方が……新世紀の夜明けを見るのは1人でも多い方がいい。……そうだろう?』澄んだ笑顔だった。『井上! 井上ー!』井上はそのまま、自ら俺たちの手の届かないところに落ちていった」
「それはまた」
「『い……井上……!』『おい、立ち止まるな。さっさと行くぞ』『柏田、お前!』『よせ』いきりたつ杉原を止める俺。そう、俺には分かっていた。今、一番悲しいのは柏田だということを……」
「はあ」
「重苦しい雰囲気が我々を包む。しかし悲劇はそこでは終わらなかった。険しい斜面を登っていたら、急に杉原のピッケルの柄が外れたのだ」
「そんな無茶な」
「『うわああー』『杉原!』ガシイ。リポビタンDのCM感覚で杉原をつかむ柏田。『しっかりしろ、手を伸ばせ!』『だめだ、僕はもう』」
「またですか。大体ピッケルって……」
「『手を離せ! お前まで落ちるぞ』『そういうわけにいくか。お前がいなくなったらどんな損失になると思ってる』『どっちにしろ僕は落ちる』『いいや、お前は落ちない。こうすればな!』バーン。最後の力をふりしぼり、杉原を上に投げる柏田。しかしその反動で自らは深い谷へと……」
「なんか状況がよく分からないんですが」
「『柏田ー! 柏田ー!』叫ぶ杉原。そしてぽつりとつぶやく岩山。『やつめ……井上の死で覚悟を決めておったんじゃろうな』」
「そんなしゃべり方なんですか」
「悲しみをこらえてさらに進む我々。しかしそこにまたも猛吹雪が!」
「はあ」
「『どうしたんだ杉原! 何も言ってなかったじゃないか!』『おかしい。こんな馬鹿な』吹雪を予測できなかったことにショックを隠せない杉原。なんと杉原は、柏田が自分のために死んだショックで能力が使えなくなっていたのだ」
「それはそれは」
「そして能力が使えなかったこともショックに加わり、さらに衰弱が進む杉原」
「衰弱?」
「『しっかりしろ、杉原』『僕はもうだめだ』」
「またですか」
「そして……杉原は死んだ。俺と岩山が寝ている間に、吹雪の中に消えていったのだ」
「全員殺す気ですか」
「吹雪はおさまったが、もう夜明けまでは時間がない。そこにたたみかけるようにさらに試練が。なんと熊の群れに襲われたのだ!」
「いや、夜明けがどうのという問題じゃないでしょ」
「万事休すか! さすがの俺もそう思った……その時だった! ガアン!『岩山!?』なんと岩山が先頭の熊に体当たりしたのだ」
「ええー……」
「『こはワシにまかせて先へ行け!』『何を言うんだ、岩山!』『大丈夫じゃ、後から必ず行くわい』『無茶だ』『フッ……日の出を拝むのはお前の夢、お前の誓いだってことを忘れるな』『岩山……すまん!』走り去る俺」
「ひどい」
「山頂まではあと少し。倒れていった仲間たちの顔を思い浮かべながら進む俺」
「熊ってそんな高いところにいるんですかね」
「間に合うのか? いや、間に合わせなければ。一体何のためにここまで来たのか、そして何のためにやつらは……。走馬灯のようによみがえる記憶は、いつしか子供の頃のあの登山にまでさかのぼっていた。あの感動があったから、俺はここまで来たのだ」
「ふうん」
「そしてついにたどりついた山頂。地平線を見る。ぼんやりと明るいがまだ日は昇っていない。間に合ったんだ……そう思った瞬間、涙が後から後からあふれ、俺のほおをぬらした」
「涙ふいている間に日の出が終わったとかいうオチじゃないでしょうね」
「俺の夢にはオチなどない。涙だってぬぐいもしない。夜明けだ。21世紀の夜明けだ。美しい……。子供の頃に味わったのと同じ感動が俺の体を震わせた。ああ、俺はあの日の感動をずっと求め続けていたのかもしれない」
「そうだったんですか?」
「ま、というわけでだ。この夢がかなっていたら、俺は今頃ヒマラヤにいたんだよね」
「ああ。それで今日来たんですか」
「そう。今日、俺の夢が1つ終わった。これは俺なりの、夢にささげる鎮魂歌なんだ」
「迷惑だ。というか長すぎです。普段の倍くらいありましたよ」
「まあ気になるのは、エベレストじゃなくてチョモランマって言った方がよかったのかということだけど、ガキの頃にはエベレストという名前でしか聞いたことなかったもんだからさ」
「どうでもいいですよ、心底」
 寒くて外に出る気がしない。ゴンタくんが10人で私を囲んで風よけになってくれればいいのに。
「おいゴンタ! すきま風来てんぞ!」
 調子に乗って罵倒する私、けれどゴンタくんはあの哀しげな瞳で素直に応じてくれるのです。
「ちょっと立ち読みしてくる! お前らはそこで待て!」
 店の外で待機するゴンタくん10人、しばらくするとなにやらゴソゴソ動きだしました……おやおや? そのダンボールをどうするんです?
 そして立ち読みを終えて外に出た私は目を見張ります。居並ぶゴンタくんたちの前に、ダンボールで作った電車があるじゃありませんか!
「チッ。ノッポさんだったらもっとうまく作るだろうに」
 ブツブツ言いながら乗り込む私。そして電車は10人のゴンタくんの手によって静かに動き出したのです。
 乗り心地もよくないし、風も冷たい。でも私は文句を言いませんでした。なぜって、ゴンタくんたちのおかげで心がぽかぽかだったから。
管理人 > 密猟者 さん、いらっしゃいませー
密猟者 > 待機(伏)
管理人 > 狩人 さん、いらっしゃいませー
狩人 > こんばんわ(近)
密猟者 > あ、狩人さん久しぶりー。どう、最近?(狩)
狩人 > 最近ねー……相変わらずって感じだよ(兎)
狩人 > 変わりばえしないっていうか。密猟者さんは?(猟)
密猟者 > いや、平穏が一番だって。こっち色々大変だもん(象)
狩人 > でも収入も大きいでしょ?(牙)
狩人 > エピソードとか聞きたいな(牙)
密猟者 > 興味あるの?人足りないんだけど、どう?なんて(悪)
狩人 > ちょっと興味あるかも……(牙)
管理人 > 野生動物保護委員会 さん、いらっしゃいませー
野生動物保護委員会 > お二方、おひさしぶりー(撃)
狩人 > あ、委員会さんこんばんわー(逃)
密猟者 > こんばんは委員会さん。元気だった?(戦)
野生動物保護委員会 > うん。でも忙しくてなかなか来れなかった(罠)
狩人 > それくらいがちょうどいいんじゃない? やることないよりは(捕)
密猟者 > そういや最近見なかったね(射)
野生動物保護委員会 > よくないよー。サイトの更新もできない(避)
密猟者 > 僕も。死亡説流れちゃった(射)
野生動物保護委員会 > うわー(笑) でも心配されるっていいかも(突)
密猟者 > うん(笑)ちょっとうれしかったりして(慌)
密猟者 > でも本気で心配してる人もいて申し訳なかった(射)
野生動物保護委員会 > ちょっとうらやましい・・(殺)
密猟者 > あれ。狩人さんは落ちたのかな(死)
野生動物保護委員会 > (終)
「トントントントントン」
「カンカンカンカンカン」
「なあ」
「おう」
「修理を動詞にすると、シュールになるのかな」
「おう」
「トントントントントン」
「カンカンカンカンカン」
「ガイシャは30代の男性、目撃者の話ではかなり酔っていたと」
「そうか。酔った勢いでケンカ、はずみでコロシ……ということかな」
「はい、おそらくは」
「んっ。おい、ガイシャの服についたこのゲロは……」
「は? ガイシャが吐いたものでは?」
「馬鹿野郎、自分のゲロがこんなところにつくか!」
「ということは犯人の……これは重大な手がかりですね!」
「おやっ。このにおいは……これはカレーだぞ。しかも甘口だ」
「森田刑事、この色。もしやこれはカレーの王子様では」
「そうだ、間違いない! ホシは自宅でカレーの王子様を食い、その後このあたりで酒を飲んだ……そしてガイシャにゲロを浴びせたことで口論となったんだろう」
「なるほど」
「カレーを食ってからここに来るとなると、かなり自宅は近いはずだ。さっそく聞きこみ開始だ!」
「はい! 買っているカレーが王子様に決まっているとなると、かなり限定されますね!」
「そうだとも。店でも聞けよ! ホシは王子様を定期的に買っているはずだ」
「はい!」
「ゴミの確認も忘れるな!」
「はい! 必ず見つけ出してみせます。ホシの王子様を!」
 ドドンドンドンドン(陣太鼓)
 ファッフォ〜ファッフォ〜(法螺貝)
「さあ。いくさも終わり、首実検コンテストいよいよ本番です。解説は我が軍総大将、流鏑馬源八郎さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「素晴らしい勝利でしたね。作戦がことごとく当たったご感想は」
「いやあ、兵士1人1人の働きがあってこそですよ」
「なるほど、勝って兜の緒を締めよというところでしょうか。これから首実検ですが、どうでしょう、やはり楽しみなものですか?」
「それはそうですよ。これのためにいくさをやってるようなものです」
「ははは、そうですか……あっ。1個目の首が来ましたね」
『エントリーナンバー1、タイトル「金剛力士像」』
「さあ今、布が取られました。……おおっ。これはすごいですね流鏑馬さん!」
「素晴らしいですね。首だけだというのに東大寺の金剛力士像そのものだ。あの躍動感まで表現しているようですよ」
「これはかなり高得点が予想されますね」
『エントリーナンバー2、タイトル「底力」』
「これは……? けわしい表情ですがあまり目新しさは感じられないような……」
「いや、これはすごいですよ。口元を見てください」
「口元……おお、なんと! 刀の先をくわえています! これはまさに底力!」
「そうですね。刀の攻撃を口で受け止めるだけでも凄まじいですが、さらに歯で刀を折らなければこうはなりませんからね」
「いやあ度肝を抜かれました。2番目でこれとは、今回の首実検は相当レベルが高いようですね」
『エントリーナンバー3、タイトル「半笑い」』
「わはははは。これはまさに半笑い。一体なぜいくさ場でこんな表情になってしまったのでしょう」
「ははは、これは面白いですね。ありそうでなかったタイプの首ですね」
「やはり命を賭けた場というものは……おやっ。場内がざわついていますが……」
「どうしたんでしょう、何か……えっ!」
「ああっと、これは大変です。ただいまの首は味方の首だという声が場内からあがっています!」
「これはいけませんね。前代未聞ですよ」
「ただちに『半笑い』は失格となります。1番、2番とレベルが高いのが続いていただけにこの手違いは痛い」
『エントリーナンバー4、タイトル「たおやめ」』
「な、な。これは! 場内はさきほど以上のざわめきです」
「これは……女性ではないのですか?」
「女性にしか見えません。まさかとは思いますが、さきほどの手違いもありますので不安も……」
「あっ! 喉仏がありますよ!」
「え? おお、本当ですね。場内のざわめきは驚きの声に変わっています。いやあ女と見まごうばかりの美しい男というものはたまにいますが、それとはまた違う趣がありますね」
「そうですね。美しさもありますが、母性めいたものを感じるという点が女性にしか見えない原因になっているのではないでしょうか」
「そういえば表情も実に穏やかです」
「しかしいくさ場でこのようなたたずまいを見せることができる、というのは逆に確固たる男の証でもあるんですよ」
『エントリーナンバー5、タイトル「夢の終わり」。敵軍総大将、柊又六の首です』
「おおっと! ここで総大将の登場です! 場内すごい盛り上がり!」
「ここで来ますかー」
「布が取られました。これは! さすがに総大将の首、どっしりと根が生えたような手応えが感じられますね、流鏑馬さん!」
「そうですね。いや、しかし……」
「どうかしましたか?」
「いえ、何かが足りないような気がするんですが……」
「何か、とは? おや、今場内から悲鳴のような声が……盛り上がりすぎて何かアクシデントがあったのでしょうか」
「ああっ! 鼻の横のほくろがない! あれは柊の首じゃないぞ!」
「何ですって! それはどういう……あっ! 今場内に……」
「影武者だったんですよ! しまった!」
「うわあああ! 敵襲だー」

 ドドンドンドンドン(陣太鼓)
 ファッフォ〜ファッフォ〜(法螺貝)
「さあ。いくさも終わり、首実検コンテストいよいよ本番です。解説は我が軍総大将、柊又六さんです。見事な逆転勝利でしたね」
「いやあ、兵士1人1人の働きがあってこそですよ」