「その時になってやっと、今度こそ彼女が本気だって分かったんだよう。あわてて引き止めようとしたら彼女は俺の手を払いのけながらさげすんだ目で見たんだよう。その目を見たら俺はもう何も言えなくなっちゃったんだよう。ううう」
「そうかそうか」
「でさ、でさ、その時に彼女の爪でほら、俺の手の甲にこれ、ひっかき傷ができてさ、これ、ほら、かさぶた」
「ああ、あるねえ」
「見るたびに思い出すんだよう。なくなるまで絶対忘れられないよう。ううう」
「そうかそうか」

「はー。10年ぶりなのにあいつ全然変わってなかったな」
「ね。あの頃も飲んだらいつもああだったもんね」
「そうそう。ほんと、いつもああだったよな……」
「うん……」
「かさぶたを維持するのも大変だろうな」
「ね」
 私が住んでいた土地に引っ越してきたあの人。やがて建てられたきれいな家、そろってゆく家具、楽しそうな笑い声。あれは、私の場所なのに──。かつて手放した土地に異常に執着する女。殺人事件を追う市立探偵は彼女の過去を探り始め、そして事件は驚くべき方向へ。ジオシティー事件ファイルシリーズ第5弾!
「ゲームを作ってみたよ」
「へえー。やらせて」
「うん。RPGだよ」
「わあー」

父『ここでの修行も今日が最後だ。10年間、よくがんばったな』
父『ずいぶん厳しくやったつもりだが、お前は決して音をあげなかった』
父『今日だけは本心を言う。お前の努力と成長に驚かない日はなかった』
父『お前がこれで慢心しないと信じているからこそ、言うんだぞ』

ゼトロ『よう。今日もまた修行かい』
ゼトロ『お前も大変だな、あんな父親。たまに殺したくなったりするだろう』
   はい
 > いいえ
ゼトロ『正直になれよ。殺したいんだろ?』
   はい
 > いいえ
ゼトロ『正直になれよ。殺したいんだろ?』
   はい
 > いいえ
ゼトロ『正直になれよ。殺したいんだろ?』

「…………」

 > はい
   いいえ
ゼトロ『そうだと思った。手伝ってやるよ。さあ、さっそく行こうぜ』

「あっ。なんで消すんだよ」
「あ、卒業式だって」
「バカそんなとこで立ち止まんな! 命が惜しくないのか!」
「何が」
「知らないの? ここ、市立羊羹中学校は通称呪われ学園。生徒、教師はおろか近隣の住人にまで次々と呪いが襲いかかるという」
「ああ……聞いたことあるな。首塚をつぶして建てたとか……」
「そうそれそれ。夢に落ち武者の首が出てきたら呪われた証拠で、それから3日以内に確実に死ぬんだと。被害者は年間百人を超えるらしい」
「ははーそりゃすごいね。そんな学校とっととつぶせばいいのに」
「シー! つぶそうとするやつのところには優先的に来るっていうぞ」
「首が?」
「首が」
「ははは。じゃあもうこの話題やめよう」
「信じてないだろ。本当なんだぞ。校舎内は七不思議どころじゃないらしいし」
「別に信じてないなんて言ってないよ」

「学校長式辞。全員、起立」
「えー。どうぞお座り下さい。まず卒業生の皆さん、本日はおめでとうございます。そしてご父兄の皆さん、本日はおめでとうございます。
 『おめでとう』とは様々な場所で使われますが、この羊羹中学校の卒業式で使われる『おめでとう』はめったにない重さを持っていることは皆さんご承知の通りです。本日卒業されるのは、3年前入学された生徒の4分の1にすぎません。残りの4分の3が転校されたり、不幸にもお亡くなりになったりしました。
 生き残った皆さんも、それぞれ死ぬような思いをされたことが1度はあるのではないでしょうか。劇薬を扱っている時に限って起きるラップ現象、水泳の時間に足をつかむ手、いつのまにか真剣に変わっている竹刀、眼球に変わっているピンポン玉、水道からは血、トイレの個室で顔を上げると鎧武者、挙げればきりはありません。皆さんにとってこの学校は、恐るべき日常であったはずです。
 生き残った皆さんであれば、入学式で私が話したことを覚えていらっしゃるでしょう。私はあの時に言いました。落ち武者の首の夢を見ると死ぬという呪いは、無差別にかかるわけではない。この呪いに憤り、反感を持った者にだけかかるものだ。だから皆さん、呪いのことを考えてはいけない、たとえ友達が呪いで死んだとしても決して怒ってはいけない、そう言いました。
 生き残った皆さんは、それを守ってきたはずです。しかし、クラスメートが呪いで死ぬことが日常茶飯事のこの学校で、それはどんなにつらいことだったか、心の痛むことだったか。今、皆さんには自分を責める気持ちもあるかもしれません。しかし私は、皆さんは正しかったと断言できます。
 先日、私によく話しかけてくれた生徒が、『今日、首の夢を見た』と言いに来ました。あと少し我慢すれば、皆さんと卒業できたのに。『友達が死んで、許せなくて。でも怖い』泣きじゃくる彼に私は、『普通の夢ということもあるから』としか言えませんでした。彼は3日後に亡くなり、私は、私は必死に我慢を、しかし、なぜ、こんな理不尽な、しかし、悲しみが怒りになっては危険なので、う、う、皆さんも、一度はこんな経験を、う、うう、しかし、負けては、いけません。こ、これからも、うう、ううう」
「来賓祝辞。霊媒師、巻野修司様。全員、起立」
「ご着席下さい。ええ、この学校とは古くからつきあいが……」
「霊感商法!」
「帰れ!」
「死ね!」
「首の夢見ろ!」
「静粛にお願いします、静粛に」

「…それからな、音楽室のベートーベンの目から水銀の涙が」
「分かったよ。もういいって」
「信じろよ! あそこは絶対本物なんだぞ」
「だから信じてないなんて言ってないじゃん」
「でも信じてないだろ」
「信じてるよ信じてるよ」
「嘘つけ。あ、あと5年前にも校長が首の夢見て死んだんだって」
「……校長先生が」
「あれ。知ってんの」
「いいや。全然」
 ホワイトデーができたのは20年くらい前のことだそうで、そんな短期間にここまで定着するなんてすごいと思います。
 きっとこれからもずっと続いていくのでしょう。科学が進歩した未来社会になっても行われる、恋人たちのほほえましい受け渡し。なんか、いいなあ。

「や。来たよ」
「おう」
「お邪魔しまーす……あ!」
「ん?」
「あれ! あれタイムマシン?」
「おお、よく分かったね」
「昨日テレビでやってたよ。買ったの?」
「買っちゃった。役には立たないけど、タイムマシンってだけでほしくなってさー」
「見せて見せて。タイムスリップやらせてよ」
「うん、じゃあこたつで。そこのコンセント、上の抜いてこれさして」
「はーい。さしましたー」
「よっと。ターイムマシーン。作動開始ー」
「うわ、かわいいー。こんな小さいんだ」
「んーと。何をタイムスリップさせようか。1週間以内の未来、大きさはこの中に入るやつ。タイムマシンのあった空間に現れるよ」
「うわ、中ちっちゃい」
「まあね。1cmくらいのものしか入らないな」
「1cmかあ……うーん、何があるかなあ。今までどんなの入れたの?」
「文字を書いた米粒とか」
「うわ。ばーか」
「なんでー」
「もっとこう、せっかくなのに。タイムマシンなのに」
「でもこの大きさだもん、実用的な目的には無理だよ。旅行に行く前に金魚に餌やったりできるくらいかな。スペースがこれだから何回かに分けて」
「ああ、なんてささやかな」
「いいの。僕は人類の夢を買ったのだから。……あ、そうそう。これ」
「何?」
「ホワイトデー」
「え……。わー、ありがとー。何? 開けるよ?」
「ネックレス。一応誕生石のはず。安い石でありがとう」
「あはは。……あれ」
「ん?」
「チェーンはあるけど石がない」
「え。うそ」
「ほんとだよ。ほら」
「あれー。おかしいなあ。店ではあったのに」
「今開けた時に落としたのかな。こたつの中かも……」
「あ、あった」
「え、どこ」
「ここ。君の目の前」
 彼が指さした空間から突然石が現れ、こたつのテーブルに落ちる。コトーン。
「わ! 何? 今の何? あ、タイムマシン? タイムマシンで過去から今に?」
「あなたの魅力に導かれ、時空を超えてやってきました……」
「もう。ばーか」

 くそ。ふざけやがって。
「3年B組キリスト先生」

 第1話
 以前の担任が行方不明になったため、3年ベツレヘム組を受け持つことになったキリスト先生。淫乱と背徳のクラスと呼ばれるB組のあまりの罪深さに、校長はガスバーナーの炎を降らせて教室ごと滅ぼす計画をひそかに進めていた。

 第2話
 「神よ、あんたはおれをこんなくせーところへやるのがお好きなようだ」。なんとか逃げようとするキリスト先生だが、行く先々で災難に襲われる。逃げているうちに学校に着いてしまい、彼はようやく担任になることを決意する。

 第3話
 ベツレヘム組の担任となったキリスト先生は「悔い改めよ。さもなければ校長はこの組を滅ぼすであろう」と説き、生徒たちは驚いて悔い改める。さっそく断食を始めた生徒たちを見て、校長は計画を中止する。

 第4話
 悔い改め神の祝福を受けたベツレヘム組の生徒たちは、給食を増やすなどの奇跡を次々と起こして他の組の生徒たちを驚かせる。一方校長は、悔い改めた3年B組以外の全クラスをプールに沈める計画をひそかに進めていた。

 第5話
 行方不明になっていた以前の担任が突然戻ってきた。キリスト先生と再交代し、生徒たちは不満に思う。しかし三者面談ではそうは言えず、キリスト先生など知らないと3度も言ってしまった生徒は外に出てから激しく泣く。

 第6話
 復帰した担任は怪力の持ち主で、たびたび生徒たちに暴力をふるった。その力の源が長い髪の毛であるとつきとめた生徒たちは、計略をもってそれを切ってしまう。力がなくなった担任は再び学校を去り、キリスト先生が担任に復帰する。

 第7話
 校長が進めていた学校をプールに沈める計画は、3B生徒に邪魔され失敗に終わる。校長の怒りを買ってウサギ小屋に閉じこめられた生徒だが、ウサギは生徒を食べようとせず、その奇跡を見た校長は悔い改めて断食を始める。

 第8話
 3Bの女子生徒・マリアが妊娠していることが発覚した。父親は誰なのかと問う周囲に対し、心当たりはないと言い続ける彼女。中傷とつわりに苦しむ彼女にキリスト先生は、自分もまったく同じ状況から生まれてきたとうち明ける。

 第9話
 時がたち、髪がまた伸びてきた前担任は復讐に燃え、学校の柱を倒して生徒たちを生き埋めにしようとはかる。キリスト先生はそれを知り、水を飲む時に手ですくってなめるように飲んだ生徒たちとともに前担任に戦いを挑む。

 第10話(最終回、卒業スペシャル)
 あっという間に前担任にけちらされた生徒たち。しかしそこにクラス一ひ弱な少年が加勢しに来る。大声で笑う前担任だが、少年の放った石が額に命中して倒れる。一気に形勢逆転、盛り上がるベツレヘム組。だがその時にマリアが急に産気づいて運ばれてゆく。そして次の日、ミサを兼ねた卒業式が終わり、生徒たちはみんなで赤ん坊に贈り物を届けにゆくのだった(ローマ法王ゲスト出演予定)
「ガキの頃俺はね」
「はあ」
「物語に参加したかったんだよ」
「はあ?」
「つまりね、たとえば聖闘士になったりとか」
「うわーい」
「でも分かるだろ。おい、分かるだろ」
「まあ……少しは」
「だろ? 自分だってなんかマイナーな星座を選んで聖闘士になっただろ?」
「はあ……」
「何座?」
「い、いるか座……」
「うわーい」
「ぐう」
「なんか実は影から助けてたり?」
「はあ……」
「技の名前はドルフィンなんたら?」
「うう……変な汗が出てきた」
「気にするなよ。誰だってそうさ、口に出さないだけで」
「そうですかね」
「あれだろ、ビックリマンとかでも天使やお守りになってただろ?」
「…………」
「『神帝さんたち! ここは私にまかせてどうか先へ!』とか言ってただろ?」
「いや、あの」
「なぜか図々しくヘッドになって再登場したりしただろ?」
「ちょっと。もういいじゃないですか」
「そんなに恥ずかしいかなあ」
「恥ずかしいです」
「それがいけない。たとえば有名アイドルがオフの日に自分の前に現れて恋に落ちる、という想像と、自分は宇宙人で、ある日自分の惑星にフリーザが攻めてきて、結局敗れたもののフリーザの顔に傷を付けるという快挙をなしとげる、という想像はレベル的にたいして変わらないはずだ」
「そんなこと考えてたんですか」
「しかしそれを本気で考えていた場合、変な目で見られるのはおそらく後者だろう。危険なのは明らかに前者であるにもかかわらずだ。ひどい理不尽じゃないか」
「いや、どっちも変な目で見られると思いますよ」
「で、それはいいんだが、すでにある物語に想像で参加するのはなかなか難しい。重要な役になることはできない。いかにストーリーに影響を与えず、しかもおいしい役まわりになるか。そこらへんに技術が要求されるわけだよ」
「はあ」
「たとえばさっきのドラゴンボールのだと、フリーザは俺のことを部下にほしいと言うんだ。しかし俺は『惑星ビヤの者は1人として貴様の思い通りにはならん』と叫んで倒れる」
「ううん。オリジナル惑星の名前が恥ずかしい」
「そこから死に瀕する俺が過去を回想、ストーリーが始まる。かつて平和な星だったビヤ、そこで最強の戦士の俺は、工芸品作りの名人でもあった。そのための木を切っていると、『あなたー』家に忘れた弁当を妻が届けに来た」
「始まってしまうんですか」
「笑顔で走ってくる妻、しかしその時突然! 空からレーザーみたいなのがどんどん降ってきた。笑顔のまま、それに貫かれる妻。叫ぶ俺」
「はあ」
「そう、その攻撃をしたのがフリーザ一味だったのだ。ザコがなんか腕にはめるやつで攻撃してきて、外に出ていた人々が次々と殺されてゆく。フリーザが『おや、これはみなさんの出番はなさそうですよ』とかザコじゃない部下に言う」
「フリーザにしゃべらせるのはやめましょうよ」
「圧倒的な力の差。しかし誇り高き俺たちは誰も降伏しようとはせず、みんなで円になって戦う。しかし1人また1人と倒れ、円も崩れてゆく。しかし最後に残った俺は強く、ついにフリーザが出てくる」
「他の人が腕にはめるやつで死んでるのに……」
「一方的にやられる俺。しかしエネルギー弾を反射させてついに一矢報いることに成功。もちろんすぐやられたけど、俺は満足だったよ。そうさ、これでよかったんだよな?」
「知りません」
「さて本題に入ろうか」
「今までのは枕ですか。長すぎる」
「思うに最高の物語は歴史だよな」
「はあ。何でもいいですけど」
「たとえば三国志。孔明が来て劉備と仲良くなり穏やかでない関羽と張飛がついに孔明襲撃計画を立てる。しかしそれを察し、2人をいさめる俺。『あなたがたは劉備様をも不幸にされるおつもりですか!』反省し、計画を中止する2人」
「それじゃ2人がバカみたいですが」
「歴史上の人物はえてしてそういう扱いを受けるものだ。さて、俺は日本人なので、やはり一番参加したいのは日本の歴史だった。時は戦国、その利発さから幼くして斎藤道三に気に入られ、家臣に加えられる俺」
「斎藤道三?」
「ある日道三が信長と会見することになり、それの供をする俺。会見が終わり、道三に尋ねられる。『信長をどう思った』『見事な器とお見受けいたしました』『さすがに目が高いのう』」
「はあ」
「数年後、道三の息子義龍が反乱を起こす。『どこまでもお供いたします』『供などいらぬ。先のある者を連れてゆけるか』『殿!』泣きながら逃げる俺」
「ずいぶん優しそうな道三ですね」
「単身京に入った俺は、ゴロツキが数人がかりで1人の男から金を脅し取ろうとしているのを目撃し、やめろと割って入る」
「なんか水戸黄門とかみたいだなあ」
「『なんだてめえ』『かまわねえ、一緒にたたんじまえ』襲いかかるゴロツキ、しかし俺を相手にするにはその人数は少なすぎたようだ。『ちきしょう』『覚えてやがれ』」
「ますます水戸黄門に」
「しかし最初にからまれていた男の強さには驚いた。俺以上かもしれないと思われた。自分より刀の腕が優れているかもしれない男になど初めて出会う。ぜひ手合わせしてみたいものだと俺は考えた」
「そんな強いんですか。頭が良かったから道三に気に入られたのでは」
「文武両道という言葉がある」
「はあ。そりゃありますけど」
「ぜひ一度勝負したいと申し出ると、男は笑って明日御所に来いと言った。御所に? 一体どういうことだろうといぶかりながらも次の日御所に行く俺」
「なんか読めてきたなあ」
「御所に着いた俺を出迎えたのは将軍義輝。なんとそれは昨日のあの男ではないか!」
「やっぱり……」
「驚いた俺だが勝負は別だ、手加減などしない。しかし義輝はあまりにも強く、打ち込まれてしまう。『予に仕えてみぬか』『もったいなきお言葉……』俺は生涯の忠誠を誓った」
「そうですか」
「それから数年、織田信長が今川義元を破り、将軍に拝謁した。『信長をどう思った』『見事な器とお見受けいたしました』『さすがに目が高いのう』」
「またですか」
「さらにそれから数年、松永久秀が御所を襲った。『どこまでもお供いたします』『供などいらぬ。先のある者を連れてゆけるか』『将軍!』泣きながら逃げる俺」
「またですか」
「そう、あまりにも同じことの繰り返し。俺はそういう運命なのだろうか。ならばもう誰にも仕えるまい。ひっそりとこの乱世が終わるのを見守っていよう。そしてそれから18年の歳月が流れた……」
「あっさり流れますね」
「天下は覇王・織田信長のものとほぼ決まった。『あの男がなあ』感慨深い俺」
「はあ」
「そんな時、毛利攻めの援軍として明智光秀の軍勢が出発するという話を聞いた。見に行ってみようかという気持ちになったのはなぜだったのだろう」
「知りません」
「見物していると、隣にいた爺さんに話しかけられる。『これで天下はいよいよ決まったなあ』『ああ、そうだな』しかし俺はそこでふと言った。『わずかな手勢しか連れずに本能寺か。不用心なことともいえるがね』明智光秀はその言葉を耳にし、衝撃を受ける。『そうか! その手があったか!』」
「それまで全然考えてなかったんですか」
「こうして英雄織田信長は、不思議な縁でつながっていた俺の言葉によって間接的に殺されたのだった……。どうだよ!」
「どうって言われても」
「それはそうと将軍義輝って、時代劇の主人公にぴったりだと思わないか。実は生きていたいう設定で全国を回るの。時々刺客に襲われつつ、各地の大名にぜひ家臣になってほしいと言われつつ、旅を続ける義輝は」
「さあ、終わったんなら帰ってください」
「ふん。貧乏侍が」
「無礼な! 芋侍が何を言うか」
「何を貴様!」
「勝負だ。抜け!」
 ガヤガヤガヤ
「なんだなんだ」
「貧乏侍と芋侍の決闘らしいですよ」
「へえーそりゃ面白えや」
 シュパ
「あっ」
「抜いた」
「貧乏侍が抜いたぞ」
「さすが貧乏侍だ、ぼろぼろの刀だ」
 ジャッ
「あっ」
「抜いた」
「芋侍も抜いたぞ」
「さすが芋侍だ、芋でできた刀だ」
 にらみあう2人
「よう、どっちが勝つかねえ」
「そりゃあ貧乏侍だ」
「なあ。いくらぼろくても芋の刀になんざ負けるわけねえや」
「いやあ、それはどうかな」
「ご隠居」
「まあ黙って見ていようじゃないか」
 突然はじかれたように前進する貧乏。ガキーン
「ぎょっ。芋で受け止めやがった」
「こりゃ分からなくなってきたぜ」
「かあっ!」
 すさまじい気合いを放出する芋
「うおおーっ」
 圧倒される貧乏
「これで決まったな」
「ご隠居。しかし芋があんなに丈夫とはどういうことで」
「電子レンジに20分も入れれば釘でも打てる固さになるというからな」
「な、なるほど」
 ズバー
「あっ。貧乏が切られちまった」
「芋だ」
「芋の勝ちだ」
「カチカチの芋だ」
「去年の対戦成績は5割2分……今年もバリバリ打たせてもらうぜ」
「残念だがそうはいかん。去年の屈辱をはらすため、俺はひそかに魔球をあみだしたのだ!」
「な、何。魔球だと」
「食らえ! 魔球、デリシャスボール!」
 ズバーン
「ストライーク」
「こ、これは一体。ボールを見ると口の中においしさが広がる」
「どうだ、美味に気を取られて手が出まい! それ、第2球を食らえ!」
「く……!」
 ズバーン
「ストライーク」
「おお、口の中の喜悦に恍惚としてしまう。初球よりさらに上の味だ」
「フン、打席でよだれとはだらしがない。さあ、これでとどめだ!」
 カコッ
「ファール」
「くそ、おいしすぎる。何とか当てたがまともには打てない。どうすれば……」
「ちっ。あがいたところで無駄なことだぞ」

 カキッ
「ファール」
「はあ、はあ。これで10球……」
「さすがにしぶといな。だが、いいかげんにあきらめたらどうだ。当てることはできても、飛ばすことはとてもできまい」
「フフフ。それはどうかな」
「負け惜しみを!」
 ビュッ
「デリシャスボール、敗れたり!」
「何!」
 カキーン
「打ったー! ボールが伸びる、伸びる、伸びる」
「ば、馬鹿な。一体なぜ! この美味の前に抵抗などできるはずが」
「残念だったな。お前は胃袋の容量のことを忘れていたようだ」
「ハッ!」
「10球も見ればさすがに腹もいっぱいになり、美味にも動じなくなるというわけさ」
「ち、ちくしょう……」
「入ったー! ホームラン!」
 ワーワーワーワーワー
 オイシーオイシーオイシーオイシー
「見ろ、豪華客船だ! 高級食材を見逃すなよ!」

 彼は海賊……

「あれが王族のために育てられた牛だ! ぬかるんじゃないよ!」

 彼女は山賊……

「ちょっとあんた、そのキノコは毒だよ」
「毒?」

 出会うはずのなかった二人

「わ! こ、この魚生きてる!」
「はは、活け作りだよ」

 かなわぬ恋

「猪鍋? お頭、一体何を言い出すんだ」

「これがエビだってのかい! おふざけじゃないよ!」

 でも、止まらない

「あわれな。海の幸と山の幸の間でもがき苦しんでおる」

『最後の晩餐』

 近日ロードショー

 人生を狂わせる、禁断の果実……