Thankyouの正しい発音「テンキュー」が妙に気になる昨今です。
男優「(英語)」
女優「テンキュー」
なぜか笑ってしまうのでした。だめだ。
アナウンサー「見事なホームランでしたね!」
選手「テンキュー」
通訳「ありがとうございます」
テンキューくらい分かるよバカヤロウ(射殺)、とかいうのを想像してまた笑ってしまうのでした。だめだ。
「父さん、ここにいたんですか。そろそろ……」
「ああ、分かってる。もう少しだけ、この家に別れを告げさせてくれ」
「はい」
「……ついに、屋敷まで手放すことになったか。私が無能なために」
「そんな。父さんのせいじゃありませんよ」
「…………」
「あ、そういえばこの部屋。子供の頃、よくここに入って怒られたっけ」
「そうだったかな」
「何の部屋なのか聞いても、子供には関係ないって教えてもらえなくて。だからよけいに興味持ってまた入って、また怒られて。はは」
「そんなこともあったな。今だったら教えてやれるが、もう興味もないだろう」
「いえ、聞きたいですよ。聞かせて下さい」
「ああ……お前が気になっていたのはこれだろう? この、床の六芒星」
「そう、そうです。なんだか、ただの飾りには見えなくて」
「うん。ただの飾りじゃない。信じられないかもしれないが、この六芒星は、100年くらい前までは異世界との出入り口だったんだよ」
「い、異世界?」
「くわしいことは私も知らない。知っているのは、彼らがここからこの世界にやってきて、この家の者とお互いの世界の貴重品を交換し合っていたということだけだ」
「えっ。それでは」
「ああ。この家は、その利益で大きくなったんだよ」
「そうだったのですか」
「しかし100年前、お家騒動のようなものがあったらしい。2人の息子がこれを巡って争い、嘆いた当主は本を隠してしまった」
「ホン?」
「異世界との出入り口を開くには、この六芒星だけではだめなんだ。6冊の魔法の本のようなものがあって、それを六芒星の角の部分に置かなくてはならない」
「それで、それから使えないままなんですか」
「2人の息子はあわてて仲直りしたが、当主は信用しない。そうこうしているうちに当主は急病で死んでしまった。それからだ、この家が没落し始めたのは」
「そんなことが……」
「私もその話を聞いて必死になって本を探した。才覚もなく馬鹿正直で気も弱い、こんな私がこの家を立て直すにはそれしかないと思った」
「でも見つからなかったんですね」
「いや、見つかったんだ」
「えっ!」
「見つかったんだよ。信じられなかった。6冊の重みを手に感じた時の体の震えは今でもよく覚えている。これでこの家は立て直せる。そう思った」
「じゃあ、なぜ? 一体その後に何があったんですか」
「あの時。あの時……」
「はい、次の方どうぞ」
「お願いします」
「はい……あら、6冊ですね。貸し出しは5冊までなんですよ」
「え、でも。これ6冊でセットなので……」
「1冊お返しになればまた1冊借りられますから」
「あの、一緒に借りたいんですけど……」
「1度読んで、必要な分だけまたお借りになって下さい」
「……聞かないでほしい。あの時のことは」
「は、はい。父さん」
「とりあえずビール」
「もうおよしよ、飲みすぎだよ」
「うるせえ! この店は客に説教するのか、説教して金取るのかっ」
「あたしはあんたの体を心配して言ってるんだよ」
「客が欲しがってんだぞ、早く出せっとりあえずビールを……」
「あんたが体こわしでもしたら客が減るじゃないかね」
「ケッ。そんなこと言って本当は……俺に惚れてんだ」
「バカだね、もう」
「なんて言いながら、首筋のあたりからぽうっと赤くなるところなんざ、いよう!」
「何を言ってるんだよ」
「いいじゃねえか、1杯だけ、もう1杯だけとりあえずビール! 頼むよ」
「しょうがないねえ」
「へへへ、ありがて……なんだこりゃ。麦茶じゃねえか」
「誰も見ちゃいないよ。とりあえずビールってことにしときな」
「ああ? どういう意味だそりゃ」
「おかしいと思ってたんだよ、あんたがそんな飲み方するなんて。昨日、あんたの妹さんて人が訪ねてきたよ」
「妹なんていねえよ」
「むこうも会ったことはないと言っていた。私は愛人の娘ですって。でも、知っていたんだろう?」
「…………」
「飲んだくれて暴れ回ったりするから、お父さんはあんたにがっかりしたらしいよ。妹さんを認知して遺産を分けてやることにしたんだって」
「へーえ」
「妹さん、心配してたよ。あんたがわざとそんなことをやってるんじゃないかって。自分のために、とりあえずヒールを演じてるんじゃないかってね」
「ふーん。で、なんて答えたんだい」
「前からろくでなしだったから大丈夫ですと言っといた」
「ケッ。ま、とりあえずビールがうめえから許してやらあ」
「わあ、おっぱいだ」
「おおきなおっぱいだ」
「うたおう。あの人のまわりをまわりながら」
「うたおう。おっぱいのうたを」
おっぱいおっぱい おおきなおっぱい
みぎとひだりで あわせてふたつ
ゼロ いち たくさん ゼロ いち たくさん
きみひとりでも おっぱいいっぱい
おっぱいおっぱい おおきなおっぱい
みぎとひだりで あわせてふたつ
ゼロ いち たくさん ゼロ いち たくさん
きみひとりでも ジャイアンツ
「何ですかあなたたち! 人を呼びますよ!」
同じ家の塀にテントウムシのサナギが3つ、サナギ直前の幼虫が1つくっついていた。きっと若テントウに人気のスポットなのでしょう。
「あそこで羽化したいの。お願い、お父さん!」
「だめだ、あんな混んでいるところは」
「でも、あそこで羽化すると羽のツヤがよくなるって」
「くだらん。場所なんかどこでも同じだ」
「悔いのない羽化をしたいの!どうして分かってくれないのよ!」
「とにかくだめだ。羽化の場所はお父さんが用意しておく」
「ひどい!」
走り去る娘。部屋にこもり、アブラムシを食べながら泣く。
「もう、あなたったら……もう少し他に言い方があるでしょうに」
「俺はな、一生に一度の羽化の場所を決めるのに流行に流される、テン子のそういう根性が気にいらんのだ」
「流行のためじゃありませんよ。あの子には将来を誓い合ったオスがいるんです」
「なにっ」
「2人が初めて出会ったのがあの塀だった……。その記念の場所で一緒に羽化してジューンブライドを」
「くだらん! 何がジューンブライドだ」
「あなた。あの子はもう幼虫じゃないんですよ」
「幼虫だ! オスなんか作るのは10日早い!」
「でも! あの子のおなかにはすでに2人の卵が!」
「嘘つけ」
「ばれたか」
もう夏だなー。
「えー。ご親族の皆さん、全員お揃いですね。では、高村喜一郎氏の遺言を開封させていただきます」
ガサガサ
「読みます。『私の遺産の配分については同封のテープを聞いてほしい』」
「ええ?」
「なぜ遺言状に書かないのかしら」
「お静かに。続きがあります。『このテープは私が話し終えて3秒後に爆発する。10メートル以内にいれば死はまぬがれないだろう』」
「なんだって」
「そんな馬鹿な」
「お静かに。『このテープを広い場所で親族全員で聞いてほしい。話が終わったと思ったら逃げるように。そして今この遺言状を読んでいる弁護士に、私が最後に何と言ったかを告げてくれ。正解者全員に遺産を分配する』」
「何を言ってるのよ! そんなことできるわけないじゃない!」
「『参加しなかった者は権利を放棄したものとみなす。なお、一度逃げた者の再挑戦は認めない』。以上です」
「ご親族124名中、35名の参加ということでよろしいですね。では、わたくしはここに隠れておりますので、正解が分かった方はいらっしゃってください」
「弁護士さん。俺参加しないんですけど、ここで見てていいですか」
「よろしいですよ。正解者を祝福してさしあげてください」
「あ、私も見てよっと」
「……もう始まってるのかな」
「まだ再生ボタン押してないみたいだけど」
「押すのも怖いよな、あれは」
「ろくなこと考えない人だったんだね」
「あ、押したみたいだぞ」
「始まった」
「プッ。すげえ逃げ腰」
「笑うことないでしょ、当たり前じゃない……プッ。あの顔」
「あっ! 逃げた、3人」
「ハア、ハア」
「ゼーゼー」
「残念でした、失格です」
「なんだよ叔父さん、逃げるの早すぎ」
「参加してないやつが言うなよ、すごい怖いんだぞ」
「逃げるきっかけは何だったんですか」
「『ところで、えー……』とか言ってしばらく黙ってんの。そりゃ逃げるって」
「アハハ。あ、また逃げた。今度は多い」
「1、2、3、4……6人だ」
「残念でした。失格です」
「どうしたんですか?」
「いや、いきなりテープから『ガチッ』て音がしてね。怖かったー」
「じいさんいろんな手考えてるみたいだな」
「あと26人かー」
「あ、2人逃げた」
「残念でした。失格です」
「なんで逃げたんですか?」
「君が代をゆっくりと歌い出したのよ。歌い終わりそうになったからなんとなく逃げちゃった」
「お、3人逃げたぞ」
「残念でした。失格です」
「『旦那様、お食事の用意ができました』って家政婦さんの声が入ったから、これはと思って逃げたんだけどねー」
「あ、また。今度は2人だ」
「『今録音中だから入ってこないでくれ』って言ったから、ここかと思ったんだけど」
「まただ。多いぞ、5人」
「びっくりした。びっくりした。前のしげみからいきなり鳥が飛びだすんだもん」
「なんだ、テープ関係ないのか」
「あ、2人逃げた」
「残念でした。失格です」
「ああ、くそ! やっぱり違ったか!」
「何て言ったんですか」
「『ところで、人の稼いだ金を労せずして手に入れるために命を賭ける、そんな連中をわしはどう思っていると思うね?』とか憎悪に満ちた声で言いやがってさ」
「へえ。演技派なんだ」
ピピーッ! 突然笛を吹き、拡声器でどなる弁護士。
「そこの方! ええと、高村紀之さん! 一度逃げたら戻ってはいけません! 失格です!」
「あ、弁護士さんの笛に驚いて4人逃げた」
「あと……7人?」
「なるほど。じいさんがなんでこんなことしたか、分かったような気がする」
「なんでって? 度胸のいい人に遺産を渡したかったからじゃないの?」
「うん。でもそれだけじゃなくてさ、手の内が読めるくらい生前のじいさんのことを知ってる人に渡したいんじゃないかな」
「その通りですよ」
「あ、弁護士さん」
「喜一郎氏の親族は多いが、実際に会ったことがある方はほんのわずかでしょう。やはり自分を理解してくれる人を大事にしたいと常々おっしゃってました」
「あまり理解したくない人格みたいだけど。ま、私も会ったことないけどね」
「……しかし減らなくなったな」
「さすがにここまで残った人は一味違……あっ」
「逃げた! 4人も」
「残念でした。失格です」
「ハア……ハア……間違いないと思ったのに……」
「どんなこと言ったんですか」
「『ここまで残った君たちを、わしは誇りに思う。弁護士にはこれから言う言葉を伝えてくれ』って言ったんだ。ここだ! と思って逃げたんだけど」
「それで4人も逃げるんだ」
「故人の人柄がしのばれるな」
「あ、1人逃げた」
ドカーン
「わあああ」
「爆発したあ」
「うう……いててて……」
「見事生還されましたね。では、テープの最後の言葉を」
「『おい、さっき入るなと言ったじゃないか。うっ何をする! やめろ!』」
「正解! おめでとうございます!」
「うわー」
「すごーい! どうして分かったんですか」
「じわじわといたぶるのが好きな人だったから、始まってすぐの爆発はないと踏んでいた。あと、話し終えて3秒後に爆発する、と言っていたから、あの人の性格からして声の後に物音をたてて間をもたせるだろうと思ってた。何をする、やめろ、という声の後に家具がひっくり返るような音がしたから、ここしかないと思ったんだ」
「なるほどー」
「故人の唯一の理解者であるあなたには遺産が贈られます」
「ペッ! クソジジイが!」
「ガハハ。諸君。我々悪の組織の野望も佳境に入った。ガハッガハッガハハハハ」
「あの、ボス……」
「ガハハハッガハハッ。いよいよ世界征服も間近に……何だ?」
「いや、あの。無理しないでください」
「風邪でしょ? 寝てた方がいいですよ」
「何だと! 無理とは何だ! ガハッガハッガハッ」
「分かってるんですよ、セキをごまかして笑い声に見せかけようとしてるの」
「だいたいそこ笑うとこじゃないじゃないですか」
「くだらないことを言うな、ガハッガハハハハ。これは笑い声だ! ガハハハハッゲホッガハッ」
「ほらゲホッて言った。なあ、今ゲホッて言ったよな」
「ああ、言ったね」
「言った言った」
「何をくだらん! 処刑するぞ、ガハハッガハッガッハッ」
「また何か変でしたよ」
「少しくらい休んだっていいじゃありませんか」
「馬鹿な! ガハハハハッ。この機に乗じて敵に攻められたらどうするつもりだ! ガハハハハハッガハハハッ」
「だからそこ笑うとこじゃないでしょ」
「敵なんて来ませんよ。体調悪くて被害妄想入ってるんですよ、ボス」
「貴様! ガハハハハハッ」
「ほら、どなるから」
「ガハハハッガハッ。おい、今日は会議の出席率が悪いじゃないか。どうしたんだ」
「みんな風邪ですよ」
「ボスがうつしたんでしょ」
「だらしないやつらだ! 風邪くらいで……ブワクシャン!」
「うわっ。すごい鼻水」
「ほんと寝てた方がいいですって」
「チュルチュルチュル。ペッ。ガハハハッガハッガハッ」
「なんていうか……あの人のやり口の汚さには、もうついていけないよ」
「うん」
「どうだね、お嬢さん。おいしそうなリンゴだろう?」
「まあ、本当においしそうなリンゴ……」
「白雪姫!」
「あ、小人さんたち。おかえりなさい」
「窓を開けてはいけないと」
「あれほど言っておいただろう?」
「殺されかかったばかりなのに」
「また何か買おうとする」
「そんな行為は……せーの」
「言語道断!」
「ご、ごめんなさい。でも、こんなにおいしそうなのだもの」
「おや。リンゴじゃないか」
「真っ赤でつやつやしてて」
「たしかにとてもおいしそう」
「みんなで仲良く……せーの」
「食べたいね!」
「そうでしょ。ねえ、買ってもいいでしょう?」
「うーん、まあいいか」
「姫、安心していいよ」
「ぼくらが毒見をしてあげる」
「毒入りだったら……せーの」
「一緒に死のう!」
「ふふ、毒見の意味がないじゃない。それじゃおばあさん、そうね、4つほど……あら? いないわ」
「えっ」
「どうしていなくなったんだ?」
「きっとぼくらが帰って来たから」
「あわてて逃げていったんだ」
「ということは今の人は……せーの」
「悪いお后!」
「リンゴ落としてったかも!」
「ばか」
「ばか」
「ばか」
「ばか」
「ばか」
「ばか」
「お願いです部長! 作らせてください、黒い牛乳を!」
「君もしつこいな。だめだと言っただろう。そんなものは売れんよ」
「話題性だけでも作る価値はあります。牛乳を染める技術の方も……」
「いいかげんにしたまえ! そんな気味の悪いものを誰が飲むか!」
「それは偏見です! 慣れれば、慣れればきっと」
「なぜ慣れる必要がある? 牛乳なら白いのがすでにあるじゃないか。黒い牛乳に何の存在価値があるというんだ」
「あります! ミルク入りのコーヒーをブラックで飲める!」
「…………」
「部長」
「……君は……それがやりたいだけだろう」
「部長、僕は!」
「責めているわけじゃない。新製品は常に、生活する上での不満から生まれてくるのだから。コーヒーはミルク入りがいい、しかし黒いのを飲みたい、君がそう思って黒い牛乳のアイデアを出したことは評価する」
「では!」
「だが、君はそのことしか考えていない。黒い牛乳のデメリットを考えていない」
「気味が悪いということですか。そのことなら……」
「違う。もっと具体的なことだ。たとえば、歯や骨を連想させる白にはカルシウムを摂取できるイメージがあるが、黒にはそれはない。へたをしたら白い牛乳のイメージダウンにもなりかねない。あるいは、普通の牛乳を飲んだ後で鼻の下につく白いひげが、黒い牛乳ならば黒ひげになってしまう。君はそういうことを考えたことがあるのか?」
「あ……」
「まだある。こぼした時のことだ。白い牛乳より黒い牛乳の方が被害が大きいのは明らかだ。テーブルクロス、床、壁。どれだけ悲惨なことになるか」
「しかし、しかしそれは……」
「さらに、ふきとる時のことを考えてみたまえ。牛乳を吸った布巾や雑巾は後で悪臭を放つ。小学校の習字の時間に墨汁をこぼした時と、給食の時間に牛乳をこぼした時。その悪いところを兼ね備えているんだ」
「ああ……」
「泣くな。これにこりずにこれからもがんばるんだぞ」
「部長……」
「嘘つくなって」
「嘘じゃないよ」
「分かるんだよ。嘘つくと顔変わるから」
「そんなことない、顔には出ない方だもん」
「ほらまた変わった。あ……」
「何?」
「いい。いいよ今の顔。すごくかわいいよ」
「何それ。変なこと言わないでよー」
「ほんとだって。なんかドキドキしてきた」
「もう。そんなこと言われたって全然嬉しくないよだ」
「あっまた変わった……あーあ……」