さすがに隅田川花火大会は人が多かった。
会場中にすきまなくシートがしきつめられているわけですが、あれは不思議なもので、すきまがないことによって1つの巨大シートの感覚になる。まわり全部が仲間のような気がしてくるのでした。実際どこかのシートから「誕生日おめでとう!」とかいう声がして、まわりのシートでも祝福したりしていました。
「さ、ろうそくを吹き消して!」
「フーッフーッ」
「ワー」
「ヒュー!」
「おめでとー!」
半径3メートルで祝福
「いよいよハタチだ!」
「イエーハタチー」
「おめでとー」
「ハタチー!」
半径5メートルで祝福
「ハッピバースデートゥーユー」
「トゥーユー」
「トゥーユー」
「トゥーユー!」
半径30メートルで合唱
「き、今日は私の誕生日のために、こんなにたくさんの人に集まっていただき……エッエッヒック」
「泣くなよー!」
「アハハハハハハ」
半径50メートルで爆笑
ヒュルルルルル ドドン
「あっ花火だ」
「君のための花火だよ!」
「誕生日おめでとう」
「おめでとー!」
「あいつっていいやつなんだけど、なんか得体の知れないとこがあるよな」
「それはしょうがないよ。つらい過去が今のあいつを作り上げてしまったんだ」
「過去?」
「うん……」
「いやだーいやだー。うわーん」
「大丈夫よ、痛くなんかないから」
「いやだー。痛いもん。頭洗うのいやだー。目にしみるからいやだー」
「大丈夫、ほらシャンプーハットを買ってきたのよ」
「いやだー」
「わがままいわないの! 頭が腐っちゃうわよ!」
「うわーん!」
「ね、しみないでしょ?」
「……しみた!」
「目を開けてちゃだめ! そりゃ少しはたれるわよ」
「しみないって言ったもん! うわーん」
「ほら、全部流すわよ。流さないとよけいしみるから」
「いやだーいやだーうわーん」
「あっちょっと! どこ行くの!」
「うえーん。うえーん」
「ど、どうしたの、ぼく? そんなかっこうで」
「シャ、シャンプーが、しみるんだよう。し、しみないって、言ったのに、えぐっ」
「よく分からないけど……おうちはどこなの?」
「いやだ! か、帰らないんだ!」
「でも……。じゃあぼく、とりあえずおばさんの家においで。シャンプーを流してあげるから」
「いやだーいやだーうわーん」
「あっちょっと! どこ行くの!」
「うわーんうわーん」
(ぼくが泣いているのは悲しいからだけじゃないんだ)
「うわーんうわーん」
(シャンプーが目にしみるせいで涙が止まらないんだ)
「うわーんうわーん」
(それなのにみんな、ぼくが間違ってるって言うんだね)
「うわーんうわーん」
(ぼくは。ぼくは……)
「そしてあいつは何度も転んで血だらけになりながら全裸にシャンプーハット姿で夜の町を5時間さまよい歩き、ようやく警察に保護されたもののその後風邪をこじらせて1週間寝込み、回復した時にはすっかり性格が変わっていたそうだよ」
「そうか。よく分からないけどとてもかわいそうだなあ」
「これ。昨日借りた1万円、返す」
「おお、早いじゃん。金ないない言ってたくせに」
「臨時収入があってさ」
「なんで暗い顔で言うんだよ。何、変な金なの? これ」
「かなり……」
「なんだよ。やだなおい。何したんだよ」
「何したとかいうんじゃなくて。送られてきた」
「誰から」
「分かんないんだけど、この手紙と一緒にさ」
「どれ」
今この手紙を開いた時点で、あなたに不幸が始まりました。この手紙は不幸の手紙といって、恨みを増幅させながら、日本を回る死神です。
最初にこれを書いた人間は、2000年10月25日、それを書いた直後に、死にました。この世の全てを恨みながら、死にました。この手紙に力を持たせるための、自殺です。この手紙の指示に従わない者は、次々に不幸になっています。
不幸を止める方法はただ一つ。この手紙と、全く同じ文面の手紙を書き、3万円を同封して、3日以内に5人に送ってください。中野という人が止めたため、年内に死にました。あなたの命が惜しくないのか? ご安心ください。半年で投資額を300パーセントにすることが可能。(ネズミ講ではありません)
「……今度でいいよ、金返すの」
「ええっ」
「きれいな金を返してくれ」
「そんな!」
「あ、あ、ぐらぐらする。頭がぐらぐらする」
「どうしたんだ」
「コンタクトレンズをつけたままメガネをかけてしまった」
「おい大丈夫か。しっかりしろ、さあこの双眼鏡を使え」
「ありがとう、ありがとう。ウワー」
ドシーン
「いたた……」
「ごめーん……あれ?」
「え?」
「わー!」
佐知子と千佐子は仲良し姉妹。でもある日、ぶつかったショックでお互いの中身が入れ替わってしまったからさあ大変!
「ど、どうしよう」
「誰にも言わないでおこうよ」
「そうだね、秘密にしよう」
もともと誰にも見分けがつかない一卵性双生児だった2人は、何事もなかったかのようにそのまま暮らしてしまったのでした!
「……おばあちゃん、おばあちゃん」
「ん? なあに」
「あ、寝てた? ごめん」
「起きてたわよ。ふふ、こないだ死んだ姉さんのことをね、ちょっと思い出してたの」
「ああ、あの双子の」
「そうそう。私と姉さんには2人だけの、ものすごくどうでもいい秘密があってね」
「どうでもいいのに秘密なの?」
「そうなのよ。ふふ。どうでもよすぎてずっと忘れてたんだけど、でも姉さんが死んで80年ぶりくらいに思い出したの」
「80年? おばあちゃん91だよね。今でも秘密なの? 聞きたいなー」
「だめだめ、教えられないわ。……困ったことなんか一度もなかったけど、でも私の方が長生きしちゃって、なんだか悪かったかなと思うのよね」
「えーなにそれー。聞きたいー。聞きたいなー」
「だめだめ、教えられないわ……」
「お、お前は!」
「あの時生きのびたはずの!」
「死んでいたのか!?」
「フフフ。胸ポケットに入れていたロケットが紙製だったため助からなかったというわけよ……」
「そうだったのか、この野郎!」
「安心させやがって!」
「この体重計貸して」
「貸してって何だよ。どこか持ってくの?」
「うん。体重計にボールぶつけたら何キロになるのかなと思って」
「やめろよ、壊れるから」
「もし150以上出たら、150キロの球を投げれるって言い張ろうと思うんだ」
「くだらねー。大体そんなに出ないだろ?」
「出るような気がするんだけどな」
「出ないって」
「出るよ。やってみよう」
「うーん。でも石とかでやるなよ、壊れるから。このゴムボールでやってくれ」
「よし、じゃあ外行こう外」
ガタ
「ここに置いたぞ、この塀の前。もっと離れろ、壊れるから。そうそう、50メートルくらい離れろ。よし、いいぞ、そこから投げろ」
「いくぞー。目盛りをしっかり見てろよー」
「おう」
「せーの!」
ビュッ
グワーン
「あっ壊れた! 体重計壊れた! あーあ、こんなにへこんじゃったよ。あーあ」
「わりい。ごめん。で、何キロ出た?」
「知るか!」
「そんなあいつが甲子園で全国に注目される投手になるなんて、あの時は想像もしなかったね」
「しろよ」
結局、ぼくたちはうまくいかない。
今度こそそれを思い知った。
しばらくの間は傷が残りそうだけど、
幼稚な自分ともこれで決別したいと思う。
「こないだひどいケンカして。こんな手紙来ちゃった」
「えー。別れるの? すごいお似合いだと思ってたのに」
「うーん。でも、この手紙にはちょっと気になる点があるんだよ」
「どこ」
「文の頭をタテに読むとプロポーズになってる」
「……あ。ほんとだ。偶然の可能性もあるけど、彼こういうの好きそうだしね」
「うん、好きそう」
「実はあの手紙は、とか後で言って仲直り、かつ結婚、みたいなね。じゃあ別れましょうと言われる可能性を全然考えてないところが彼らしい」
「うーん。どうリアクションすればいいかなあ」
「自分もそういう手紙で返事書いてみたら?」
「あ、それがいいね。そうしよう」
うんこ
レンジで
チンして
いただきます
「できた」
「偶然の可能性を全く考えてないところがあんたらしい」
ピーポーピーポー
「患者さんはどちらですか」
「わ、私です。急におなかが痛くなって」
「え!? ち、違います。私です」
「ちょ、何言ってるんですか。あなたはさっき私のために救急車呼んでくれて」
「そんな、それはあなたがしてくれたことでしょ……いたたた」
「一体どっちなんですか。悪ふざけは困りますよ」
「私です……痛い。この人は通りすがりの人です」
「違います、私が患者です。この人が通りがかって電話を」
「弱ったな。どちらが本当の患者さんか分かる方、いらっしゃいませんか」
ざわざわ
「そういえばさっきからどっちなのかなあと思ってた」
「私が来た時には2人とも座ってて」
「僕は救急車のサイレンの音が聞こえてから来たから」
「ううん、困ったな」
「お願い、乗せてください」
「私です。私を乗せてください」
「よし。では、2人でこの担架を引っぱり合って、勝った方を乗せましょう」
「は、はい」
「分かりました」
「スタートと言ったら始めてください。いきますよ。よーい……スタート!」
「くっ! 私が患者よ……」
「わ、私が救急車に……」
「渡さないわ……私は、こ、この担架に乗って……」
「う、ぐうう」
ドサッ
「はあ、はあ。勝ちました!」
「よし、決まりだ。さあ早くそっちの人を運ぶんだ」
「えっ! 勝ったのは私なのよ!」
「あなたは偽者だ。真の患者は弱っているのでこのような勝負には耐えられない」
「ハッ!」
「おおっ。名裁き」
「やんややんや」
ピーポーピーポーピーポー
「でも、2人とも乗せればよかったんじゃないかな」
「買ったの?」
「見せて見せて」
「百円でこんなに買えるんだー」
「わ、油とれた。すごい取れた」
「メガネふきにも使えるってさ」
「へえー」
「ねえねえ。顔をふいた紙でメガネをふいたら、見てよこんなに汚れて」
これだけ騒がれればあぶらとり紙も本望だろう