01. レイチェル
「やっほーレオナード!」
よく通るその声を聞いた瞬間、レオナードは顔をしかめた。
女王補佐官、レイチェルだ。
「ンだよ、また説教かァ?」
「何よ、また説教されるようなことしたの? だったら早めに吐きなさいよね」
「心当たりなくても説教しに来るじゃねェかよ、補佐官様は」
「自業自得でしょ? ……と、今日はそんな用事じゃないんだった」
レイチェルは来客用のソファに座り、持ってきた紙袋をテーブルの上に置きながらレオナードを見上げて笑った。
「アナタ、今日誕生日なんだって? さっきエンジュに聞いたよ。おめでとう」
「げ。あいつマジで触れ回ってやがんのか……」
「ということで、ワタシからプレゼント。はい、これ」
紙袋の中から2つの箱を取り出し、開ける。中には色とりどりの小さなケーキがそれぞれ6個ずつ。
「……何だ、こりゃ」
「見りゃわかるでしょ、ケーキよケーキ。セレスティアに最近できたおいしいお店があってねー。ダースで買うとちょっとお得で」
「そうじゃねェ。食えってのかよ、こんなに」
「違うってば、これは来客用。まあアナタだって食べたきゃ食べればいいけどさ」
「来客だァ?」
「エンジュが宣伝してるからね。今日はここに守護聖の皆様がお祝いに訪れることが予想されるわけ。せっかくだからこのケーキと、それにアナタの入れるおいしーいコーヒーや紅茶でもてなして、ちょっとは親密になりなさいっていう女王補佐官としての気遣いよ」
いやな予感が当たった。こんな形を取るとは思っていなかったが。
「アイツらがわざわざ祝いになんぞ来ると思ってんのか?」
「来るよ。エンジュの宣伝だもん」
自信満々にレイチェルが断言する。
「甘いもの苦手って人もいるかもしれないけどね。この豆ケーキなんか甘さひかえめよ」
「誰が食うんだ、こんなモン」
「ま、全員来るとしてもちょっと余るから、ワタシが今、数を減らすのに協力しようかな? 実は店に入った時からこのミルフィーユが気になっててさ」
「最初からそのつもりだったんじゃねェか」
「コーヒーお願いね」
「あぁ!?」
「何よ。ワタシだってお祝いに来たんだからもてなしてよ」
「だから、何でそんな話にナンだよ? 俺は一言も承知した覚えはねェぞ」
「そんな悲しいこと言わないで。前のお茶会で飲んだアナタのコーヒーがすごく美味しかったからさー、また飲みたいなってずっと思ってたんだよ。ねぇ、こんな機会そんなにないんだし、いいじゃないのレオナード。アナタのが、飲みたいんだよ」
「おいっ」
数十分後。上機嫌で部屋を立ち去る女王補佐官の背中を見送りながら、レオナードはこの後のことを考えて暗澹たるため息をついた。
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ケーキ配給。なんだかんだ言っても美味しいと喜ばれると嬉しくなってしまうといい
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