05. メル
「ねえねえ、レオナード!」
真っ赤な髪を揺らしながら、メルが嬉しそうに入ってきた。
「お誕生日なんだってね! おめでとう!」
「おー。ありがとよ」
また来やがった、と思いながら立ち上がる。祝われるのにもさすがに慣れてきた。冷蔵庫から箱を出し、テーブルに置くという流れにも慣れてきた。
「何? これ」
「ケーキ。わざわざ祝いに来たんだから食ってけや」
「わあ、いいの? やったあ! じゃあ僕これ。アップルパイもらうね」
「ん? アップルパイなんて入ってたのか。冷たいままでイイのかよ」
「うん、冷たいのも好きだよ。あ、でもあっためてくれるんだったらそっちの方がいいな」
「……ヘイヘイ」
よけいなことを言わなければよかったと一瞬思ったが、考えてみれば飲み物をいれるついでにオーブンであたためればいいだけだ。
「なんか飲みたいモンあるか」
「えーとね、ココアが飲みたい」
あたためたアップルパイとココアを一緒に持っていくと、メルがぱちぱちと手を叩いた。体は大きいのにその仕草はまるっきり子供で、何度見てもやはり違和感がある。
「いただきまーす! ……うん、おいしいー!」
出会って間もない頃は、メルはレオナードを露骨に恐れ、こんな笑顔を見せることはほとんどなかった。その態度が変わったのは、蜂に追われて宮殿の中庭をくるくる回っていたメルを見かけて、レオナードが何やってんだよと笑いながらその蜂を追い払ってやった時からだ。
(ごめん、僕レオナードを誤解してた! ほんとはいい人だったんだね!)
目を潤ませてそう叫んだメルは、以来すっかりレオナードになついてしまった。
「誕生日かあ。ねえレオナード、これから1年の運勢を占ってあげようか」
「いらねェ」
ぶっきらぼうに返しても、一度覆った評価はもう動かないらしい。アップルパイをほおばりながら、続けざまに話しかけてくる。
「じゃあ、恋のおまじないにする?」
「いらねェっての。じゃあって何だよ」
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レオナードがメルの執務室にいた時におまじないについて聞いているのは何なんだろう
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