05.ロマリア


 気がつくと、知らない場所にいた。
 飛び込んだのと同じような、青く光る泉のそばだった。どうやら飛び込んで正解だったらしいが、海を越えた遠い場所に来たという実感はまるでない。
 建物の中ではあったが、壁にも天井にもひびが入って、風化の最中という趣だった。長い間誰も訪れていないらしい。外に出た。海のそばの小さなほこらだった。
(どこだろう、ここ)
 例の地図を広げて適当に触ってみた。色が変わった場所を見てぎょっとする。
(…え…ここか!?)
 海も陸も越えた、はるかに遠い場所だった。あの泉でこんなところまで飛んだのか。見回すと、城の尖塔らしいものが目に入った。行ってみるか。

「もしやアリアハンから参られたお方では? おお、お待ちしていました!」
 城下町に着いてロマリアという国の名を知り、直後にそんなふうに言われた。その言葉で、俺の中にある何かのスイッチが入る。
(どうやらこの国でも、家の中をあさってめぼしいものを取っていいらしい)
 そんなことは誰も言っていない。だがまぎれもなく、それが許される空気を感じた。とりあえず城に向かい、王様に謁見を願う。
「よくぞ来た! 勇者オルテガの噂は聞き及んでおるぞよ」
 ロマリア王は玉座から身を乗り出すようにして歓迎してくれた。そして金の冠が盗賊に盗まれたから取り戻してくれと王直々のご依頼を受けた。これはいよいよ大丈夫だ。
「それを取り戻せたなら、そなたを勇者と認めよう!」
 どうやら今は勇者と認められてはいないようだが、そこは聞かなかったことにして町や城をあさった。驚くほどの収穫だった。あさったものを換金しただけで351ゴールド増えた。王様は盗賊の被害に頭を痛めているようだったが、俺だって盗賊になるならこんな国を拠点にしたい。
 かわのぼうしも見つけたが、これはまだ換金しない。誘いの洞窟で手に入れたせいなるナイフと一緒に、千ゴールドに届きそうになった時に売ろうと思う。
 あと「すごろくけん」と書いてある券があって、これは換金できそうだが、どういうわけか袋の奥にしまうことができた。ちいさなメダルと似た雰囲気がある。こっちはどういうものだろう。町はずれに犬が座り込んでどかない場所があったので、夜を待ってその場所を掘ってみたらそこにあったのもすごろくけんだった。
 この場所は犬が自分の大切なものをしまいこむ場所だったらしく、その他にも酒瓶か何かのかけらやら、ほつれた毛糸の玉やら、色々なものが埋まっていた。すごろくけんだけ取ったが、なぜか人の家のタンスから何か取っていくのよりもずっと心が痛んだ。
(ごめん)
 穴に向かって頭を下げ、元通りに土を盛った。もし俺に同行する仲間がいたら、犬の物をあさるなんて勇者としてどうなんだと怒られたりしただろうか。

 回復のため、海を越えてアリアハンに寝に帰る。近くても遠くても、ルーラの感覚はあまり変わらない。寝て起きて、ルーラでまたロマリア。当然だが、ロマリアに着くといつもルーラ1回分足りないMPになる。これはちょっと痛い。しかも回復するにはいつもルーラ1回分のMPを残しておかなければならない。実質使えるのはホイミ2回とメラ1回くらいのものだ。
 ロマリアから北に歩いていくと変な建物が見えたが、着く前に早くも余裕がなくなってアリアハンへ飛んだ。これがレベル10の人間の行動だろうかと情けなくなるが、キャタピラー相手にそう何度も戦うことなどできない。
 もう一度ロマリアに飛び、また北へと歩き出す。今度は建物にたどり着くことができた。前回より強くなったからではない。魔物が1回も出なかったからだ。
 一見城のようにも見えるその建物は、「すごろく場」という名前がついていた。ここで使うのか、と袋の奥のすごろくけんを思い出しながら納得した。
「おやりになりますか?」
 スタート地点の男に聞かれてうなずく。
「ではすごろくけんを一枚いただきます」
 手を出されて、少し躊躇した。自分がアイテムを人に渡せない状態だということを思い出したからだ。しかし俺が袋から出した券を、男は簡単に受け取った。やはり小さなメダルの時と同じだった。
「ここではサイコロを10回振ることができます。がんばってくださいね」
 すごろく場にも1枚すごろくけんが落ちていたので挑戦できるのは3回。なんだかわくわくする。

 1回目。6ゴールド拾ったが、能力値が変わるマスで体力6ポイント減。直後落とし穴に落ちる。
 2回目。かわのぼうしといのちのきのみを拾うが50ゴールドを失う。その後落とし穴。
 3回目。100ゴールドを失い落とし穴。

 俺はすごろくには向いていないのかもしれない。体力6ポイントは凄まじい損失だ。健康は金では買えないというが、体力だって似たようなものではないだろうか。俺にだって、金で買えないものを失ったことに意気消沈する心くらいは残っている。正直言って100ゴールド落としたことはそれほどショックでもなかった。
 失意のうちにさらに北に向かった。1回1回の戦闘が厳しい。またもや町に着かないうちにMPが危険になり、アリアハンに戻った。せいなるナイフと、すごろくで拾ったいのちのきのみを換金したら千ゴールドに届いた。
「いらっしゃいませ。ご返済ですか?」
 無言でうなずき、カウンターに金袋を乗せた。返済のたびに感じる達成感は、なくなったわけではないがもうだいぶ薄れている。


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センド : 勇者
レベル : 10
E とげのむち
E たびびとのふく
E きのぼうし

財産 : 48 G
返済 : 3000 G
借金 : 997000 G