10.イシス


 すごろくの結果に気をよくして、また湖へ向かう。ルビーを取ってすぐ戻ってしまったので、宝箱の取り残しがあるかもしれないからだ。今度は一度も死なずに一番下の階まで行けた。ぎんのロザリオの効果だろうか。様々なものにむやみに心が動くこのロマンチスト状態からは早く脱したいが、役立っているということは認めざるを得ない。
 そういえばこれまで、装備を変更する時は毎回「長い間世話になったこの○○ともついにお別れか…」と思っていたような気がする。つまり、このロザリオとも長いつきあいになる可能性が高いということだ。当分、日暮れ時の空の美しさに感動したりする日が続くのだろう。

 次はいよいよアッサラームから先に進むか、と思った時、突然思い出した。
(忘れてた。カンダタから金の冠を取り戻さなきゃいけないんだった)
 あのルビーも換金不可能だったから、冠も多分そうだろう。取り戻しても「ほうびに勇者として認めよう」だけで終わるかもしれない。しかし俺もこの国の、主に民家でさんざん世話になった身だ。王のご依頼を無視して次に向かい、指名手配でもされたら困る。このレベルで大丈夫なのかどうか不安だが、とりあえず先に進む前に一度挑戦してみよう。
 カザーブから西に進む。なんだか懐かしい道のりだった。懐かしいぐんたいがにが出て、戦う。
(…これがあのぐんたいがにか?)
 俺に1のダメージしか与えられないこの蟹が、あの頃苦戦したあのぐんたいがにだろうか。
 時には以前来た道を歩くのも悪くないものだ。自分がとてつもなく成長したような気分になれる。あの頃倒れたり死んだりしていた自分が少し哀れにもなるが。

 シャンパーニの塔は以前、宝箱を回収するためだけに来たことがある。すでに道は知っているから、盗賊がいる階まで一直線だ。
(戦わなきゃいけないんだろうな)
 あまり気が進まない。苦戦するだろうというのもあるが、俺はここの盗賊のことが嫌いではない。身もふたもないことを言えば俺だってやっていることは盗賊と大して変わらないし、今も世話になっているせいどうのたては、ここの宝箱からいただいたものだ。
 階段を上がると、テーブルを囲んで何やらやっていた奴らがいっせいに振り向いた。 
「おい。変な奴が来たぞ」
 一カ所に集まり、顔を見合わせてうなずく。
「よし、おかしらに知らせに行こう」
 三下感覚丸出しの動きを見せる子分たちを追ってさらに上の階に行くと、盗賊団が一堂に会していた。子分たちは鎧のようなものを着ているが、その後ろで堂々と立っている男はそういう物を身につけていなかった。それどころか覆面・マント・パンツ・ブーツのみという謎のいでたちだった。どうやらこの男が首領らしい。一体何を考えているのか。
「お前がカンダタか」
「そうだ。間違えて来てしまったわけではないらしいな。俺はこんなところで捕まるわけにはいかん。さらばだ」
 笑いながら、カンダタは天井から垂れ下がっている紐を引いた。立っていた床がぱかりと開いて、俺は下の階に落とされた。無駄に凝ったしかけだ。また階段を上る。盗賊たちはすでにいなくなっていたが、空の宝箱だけが残っていることに俺はかっとなった。馬鹿にしやがって。腹を立てた勢いで飛び降りると、下の階にはまた盗賊たちがいた。塔から逃げたと見せかけてここでやりすごすつもりだったのだろうか。
 俺に気づいたカンダタが振り返り、苛立ったように足踏みをした。
「しつこいやつめ。何のつもりだ」
 そんな動きをするとマントがばさばさと揺れ、外観の異様さに拍車がかかる。
「お前の格好こそ何のつもりだ」
「人のこと言えるのか。腰巻きと鞭のくせに」
 誰も指摘しなかったことを言われ、ショックを受けた。ロマンチストだからなおさらだ。俺だって薄々この装備の外観については疑問を持ってはいた。 しかしこんなやつに言われるとは。
「俺には選ぶ自由なんかないんだよ!」
 怒鳴りながらはがねのつるぎに装備を変える。カンダタも迎撃態勢に入りながら怒鳴った。
「だったら人の格好のこともとやかく言うな」
 一瞬納得しそうになるが、お前は好きでやってるんじゃないのか。それ以上のことは言えないまま、戦闘が始まった。
 子分はそんなに強くないのでまず子分から一人ずつ倒す。カンダタはやはり強い。子分にかまっているうちにHPがどんどん減る。ようやく一対一になり、ひたすら攻撃とホイミを繰り返すが、たちまち残りのMPが少くなった。もう一回ホイミを使うと、ルーラができなくなる。そうなったらこいつを倒しても、その後歩いて誘いの洞窟から帰らなければならない。いくらフィールドの敵に強くなったとはいえ、きっと道中で死ぬだろう。
「…ホイミ」
 けど、使わなくてもここで死ぬ。結局いつだって選択の余地はない。カンダタは俺がまだホイミを唱えることができるのが意外だったらしい。しばらく使わなかったから、もうMPが切れたと思っていたようだ。
(切れたようなもんだけどな)
 また攻撃。反撃。MPが尽きるまで回復し、後のない状態で攻撃の応酬。しかし結果は、
「おおセンドよ、死んでしまうとはふがいない」
 駄目だった。王の間で恐縮しながら、ため息を一つつく。
 アイテムを使って戦略を建てながら戦う、なんてことはできないから、分かりやすいと言えば分かりやすい。今の俺ではまだ、あいつは倒せない。手持ちの金は386ゴールドになっていた。

 カンダタをまだ倒せない、となると先に進むしかない。
 アッサラームから南西へ向かう。少し進んだところに妙な建物があった。入ってみると、見覚えのあるマス目の道。すごろく場だった。カザーブだけじゃなかったのか。もしかして世界各地にあるものなのだろうか。券が一枚もないから今はできないが、今後の楽しみが増えたのは嬉しい。券を手に入れたら来ることにしよう。
 ふと、アッサラームのぱふぱふ屋がくれた券のことを思い出した。
(わざわざ行くのも面倒だし!)
 あんなことを言っていたが、わりと近くにあったんじゃないか。知らなかったのだろうか。今度会ったら教えた方がいいのかもしれない。返せと言われたら困るが。

 さらに進んだら、キャットフライとじごくのはさみに遭遇した。マホトーンとスクルトという、まさに地獄の組み合わせだ。逃げられず死んだ。手持ちは201ゴールドになった。
 今度は進む道の選択の余地はないのでまたアッサラームから再スタート。砂漠に入ってしばらく進むとほこらがあり、中にいた老人がまほうのかぎについて教えてくれた。ピラミッドにあるらしい。とうぞくのかぎでは開かない、あの扉を開けることができる鍵だろう。これはどうあっても手に入れなければならない。確かアリアハンの城の宝物庫もあの扉だったはずだ。
 砂漠にはオアシスがあって、そこにイシスの城があるらしい。とりあえずはそこに向かおう。と思ったが、このほこらの壺にすごろくけんが入っていた。一度帰ってさっそくすごろく場へ向かう。11ゴールドを見つけた後落とし穴に落ちた。どうやら前回のあれは奇跡だったらしい。

 再びイシスに向かう。じごくのはさみが出たら逃げ、ようやく到着した。城下町に墓場があったので例によって墓標の前を調べ、収穫を得る。井戸の中に入ってみるとなぜかご立派な宝箱があった。城の中にはとまほうのかぎで開くことができると思われる扉が多く、今後への期待感を煽る。イシスも相当に豊かな国のようだ。
 城の正門から城内まではやたらと距離がある。その間の道を横にそれて探索してみたら、城の地下へと続く階段があった。長い回廊を進むと宝箱がある。入っていたのはほしふるうでわ。素早さが倍になるという驚異的な効果を持つ装飾品だ。素早さが上がれば守備力も上がる。意外に早くロマンチストからはおさらばすることになった。
 さっそく装備していると、箱の後ろから妙な影がもやのように立ち、それが人の形をとった。
「私の眠りを覚ましたのはお前か」
 少し驚くが、この感覚には覚えがあった。カザーブの墓場にいた武闘家も、こんなふうにぼやけた輪郭だった。どうやら幽霊らしい。
「…はあ、多分」
「ではその宝箱の中身を取ったのもお前か」
「はい」
 そう答えざるをえない。すでに腕につけているのだ。しかし怒るかと思った幽霊は面白そうに笑った。
「お前は正直者だな。よろしい。どうせもう私には用のないもの。お前にくれてやろう」
「え…。ありがとうございます」
 礼を言うと、いやいや、と幽霊は手を振った。カザーブの武闘家もそうだったが、幽霊とは意外に気さくなものなのかもしれない。
「ほしふるうでわもおうごんのつめも、命あってこその宝だ。命ある者が役立てればよい」
「おうごんのつめ?」
 黄金、というところに思わず食いつく。幽霊はまた笑った。
「今はピラミッドの地下に眠り、王の財宝を守っておる。しかしお前に必要なものなら、持って行くがいい。たとえ王であろうとも、命なき者に財宝はさして意味はない」
 では、と言い残し、幽霊は薄れて消えた。
(まほうのかぎ。おうごんのつめ)
 心の中で復唱する。ピラミッドは、この旅のターニングポイントになるかもしれない。

 物色して手に入れたアイテムの中にすごろくけんがあったので、またアッサラームのすごろく場に行った。
 ちからのたねを手に入れ、100ゴールドを落とした。その後落とし穴に落ちた。
 いつものことではあるが、いつものことだから情けない。
(どうせもう私には用のないもの)
 あの幽霊の言葉をなんとなく思い出した。
 命ある俺は、どんなアイテムにも用があるのにな…。
 天井にあいている、自分が落ちてきた穴を見ながら、そんなことを考えた。


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センド : 勇者
レベル : 18
E とげのむち/はがねのつるぎ
E かわのこしまき
E せいどうのたて
E きのぼうし
E ほしふるうでわ

財産 : 52 G
返済 : 16000 G
借金 : 984000 G