18.人さらいのアジト


 他に行くところもなくなり、再びバハラタの2人を救出に行くことにした。
 アジトに乗り込む。今度は子分の姿もなく、がらんとしていた。牢に近寄ると、グプタが嬉しそうに中から叫んだ。
「やっぱりまた助けに来てくれたんだね!」
 一体あの後どういう状況だったのだろう。あまり考えない方がいいのかもしれない。レバーを上げて牢を開くと、恋人たちがまた抱き合って回り出した。前のぬか喜びを忘れたのだろうか。そういうのは町に帰ってからにしてほしい。
「ありがとう、勇者さん!」
 手に手を取って駆けていき、
「キャーッ」
「俺様が戻ってきたからには…」
 また前回同様、いいタイミングで連中が帰ってきたらしい。今度は戦わなくて済むのではないかという希望はむなしいものだった。無言で近づくとカンダタが怒ったように言った。
「またお前か!」
 自分でもそう思う。しかし、お互い様でもある。何度目か数えるのが面倒になってきたカンダタとの戦闘が始まった。兜のおかげか、だいぶダメージが減っていた。しかしそこに子分のルカナン。一気に不利になってまたたくまに死亡。いつものようにアリアハンの王の間でかしこまりながら、手持ちの金を数えた。256ゴールドだった。

 やはり困るのはルカナンだ。あれがなければなんとかなる。
 ポルトガで手に入れたまふうじのつえを試してみることにした。効かなかったらその時は…。今まではやいばのブーメランで全体攻撃をしていたが、はがねのつるぎで先に子分を倒してみよう。何とかなるかもしれない。時間をおかず、さっそくアジトに突撃した。
「やっぱりまた助けに来てくれたんだね」
 やかましい、という気持ちになる。前回と同じ展開になり、またカンダタと対峙した。
 まふうじのつえは効果があった。全員の魔法を封じるのには4ターンかかったが、これでもう怖くない。ブーメランを投げ続け、シャンパーニの塔の時と同じく最後はカンダタとの一騎打ちだ。
「やるな! 腰巻き!」
 まだ言うか。しかしルカナンがなくてもカンダタは強い。繰り返し回復するうちにMPが乏しくなってきた。
(だめかな、これは)
 そう思い始めた時。カンダタが突然土下座した。
「参った! やっぱりあんたにゃかなわねえや…」
 内心驚く。が、よけいなことは言わず、とりあえず余裕の顔を作った。
「頼む! これっきり心を入れ替えるから許してくれよ! な!?」
 許さないと言ったらどうなるのだろう。この一味に会うのは2回目。また同じようなことが起こる可能性を考えると、本当はあまり見逃したくない。
 しかし許さないと言ったらまた襲いかかってきそうな気がする。そうでなかったとしても、この一味をどこかに突き出したりする元気は俺にはない。
「分かった。もう二度とするなよ」
 どうでもよくなってきてそう言うと、カンダタと一味は飛び上がるようにして「ありがてえ!」と喜び、駆け去っていった。やっぱり元気だ。許してよかった。
 グプタとタニアも送り出し、俺はその場に座って少し休んだ。MPはルーラ一回分しか残っていないから、洞窟を出るまでは歩いていかなければならない。それすら億劫だった。
(間違えてアリアハン以外にルーラしたら死ぬなあ。気をつけないと)
 そんなことをぼんやり思った。

「ただいま…」
 アリアハンに戻り、よろよろと家に入る。相変わらずこっそり入ることの方が多いが、これだけ疲れているとそういう余裕もない。
「まあ、センド。おかえりなさ…」
 出迎えてくれた声が止まった。階段を上りながら振り返ると、母さんは俺を見て硬直していた。
「どうかした?」
「…センド…。その、兜…」
 言われてようやく気づく。俺が今装備しているのは、ムオルでもらった父さんの兜だ。
「その兜…どうしたの?」
「…父さんから預かってたって人がいて、俺にくれた」
「…………」
「俺が父さんと似てるから、すぐ子供だってわかったってさ」
 本当とも嘘ともつかないことを言った。ひどく疲れていて、あの村の出来事を正確に思い出すのが面倒だった。母さんは黙って、ただ兜をじっと見ている。
「ごめん、寝る…。明日話すよ」
「…あ…ごめんなさい。おやすみ、センド」

 カーテンの開く音で目が覚めた。横になったまま目だけ開けると、母さんがカーテンに手をかけたまま、机の上の兜を見ていた。が、すぐに目を開けている俺に気づいてこちらを向いた。
「あら。起きたの、センド。おはよう」
「…おはよう」
「この兜ね…」
 母さんは少し笑って、兜にそっと触れた。
「あの人が旅立つ時に、この町の人たちに贈られたものなのよ。あなたはまだ小さくて、やっと歩けるようになったばかりだったわね…」
 母さんは懐かしそうに話した。こんなふうに父さんのことを話す母さんを見るのは初めてだった。母さんは、あまり父さんの話をしない。昔はしていたような気もするが、父さんの借金を俺が返すことになってからは、まったくしなくなったと思う。
「眠りや幻や防御力低下の呪文にかかりにくくなるんですって」
 そんな効果があったのか。一人旅でその効果はありがたいどころではない。
「なんで父さん、それを人に預けていったりしたんだろう…」
「そうねえ。元々防具はあまり身につけない、身軽なのが一番、ていう人だったから…。本当に危険なところに行く時には、持っていかなかったのかもしれないわね。この兜のことはとても大切にしていたから、信頼できる人に預けた方がいいと思ったんじゃないかしら」
 話を聞いていたら、ため息と苦笑が同時に出た。
「…宝の持ち腐れだなあ」
「本当ね」
 母さんも笑った。
「あなたはその兜、役立ててね」
 俺がこれを売り払ったら、母さんはどう思うだろう。そんなことをつい考え、急いでそれを打ち消した。いつかは売る。今までの、他の装備と同じように。大体、父さんの借金を返すのに父さんの持ち物を売って何が悪いというんだ。そう思っても、よけいなことを考えてしまう。
 危険なところに行くから、兜をムオルに置いていったのか。父さんが死んだのは5年前。ムオルにいたのも5年前。傷ついた体をあの村で休めながら、さらに危険な場所に行く決意をしていたのだろうか。そして父さんは、あの村にいる間……。
(ポカパマズさんにいっぱい遊んでもらったもん)
(まるで残してきた息子といるようだ、と…)
 また頭の中のものを打ち消す。なぜ俺は、考えなくてもいいことを考えてしまうのだろう。

 バハラタに行き、こしょう屋に向かった。大丈夫だとは思うが、あの2人が戻っているかどうか、一応確認しておこうと思った。あの老人が待ちかねて寝込んでいないかどうかも気になる。
 大通りからこしょう屋へ向かう道を曲がったところで、見覚えのある相手にばったり会った。
「おお、君は」
 向こうも俺を覚えていた。ずっと閉まっている、とこしょう屋の前で嘆いていた、あの旅装の男だった。笑いながら革袋を持った手を上げた。
「やっと営業再開だ。助かったよ」
 どうやら心配はなさそうだ。
 こしょう屋に行ってみると、グプタがカウンターにいた。俺に気づいて飛び出してくる。
「勇者さん! ありがとうございました、おかげで戻ってこれました!」
「いや…どうしたしまして」
「是非、上がってください。祖父が、あなたが来られるのをずっと待っているんです」
 押されるようにして2階に上がると、老人がはじかれたように椅子から立ち上がった。
「おお、おお。勇者殿! ありがとうございます、2人とも無事に戻ってきました」
「いや。約束したのに遅くなってしまって」
「とんでもない! ああ、そうじゃ。お約束のものをお渡しせねば」
 老人はいそいそと革の袋を出してきて、テーブルに置いた。
「最高のくろこしょうです。これで礼になるかどうかはわかりませんが、どうかおおさめくだされ」
「ああ…。どうも」
 俺はテーブルの上のそれに手を触れず、ただじっと見た。
 受け取ったら、俺はこれを換金しに行ってしまうだろう。なんとかポルトガの王様に届ける方法はないものか。考えていると、老人はにこにこしながら付け加えた。 
「それは店で扱うことのできない物ですじゃ。それならばあんたも自分で召し上がることもできるし、西への土産にすることもできましょう」
「……え?」
 俺は驚いて老人を見た。老人が妙な顔をした。
「換金できる物の方がよろしかったですかな? こしょうを、とおっしゃったのでそのままお使いいただける物をと思ったのですが……」
「あ、いえ。これをいただきます」
 あわてて答えながら、そうか、と思った。忘れていたが、この老人はくろこしょう屋を営む商人だった。言わなかっただけで、俺に『とりたて』がかかっているのは、最初に会った時からわかっていたのだろう。そういえば、こしょうを下さいと俺が言った時、不思議そうな顔をしていた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いやいや、それはこちらの言うことですじゃ」
 これで、ポルトガの王様にこしょうを持っていくことができる。しかし、この革袋の中身は少し気になった。
「…店で扱わないこしょうって、どういうものなんですか?」
「ははは、売り物にならんような物を恩人に差し上げたりはしませんわい。それは元々、ダーマ神殿への献上品にするために用意したものでしてな」
「献上品?」
「この町で商売をしている者は、毎年一回、ダーマ神殿におわす職業を司る神へ贈り物をするのです。自分の商う品物の、その年手に入る最高のものを…。これは店での売買はできません。なにしろ神への贈り物ですからな」
「…そんな物をもらっていいんですか?」
「今までにも、バハラタから神殿への献上品が盗賊に奪われることは何度もありました。やつらがあの場所に巣くっていたのはそれが目的でもあったのでな。これからそんなこともなくなるのなら、職業の神も見逃してくれましょう。このくろこしょうが、最後の被害だったということで」
 老人は楽しそうに笑った。いいのかな、と思いながらも、俺はありがたくくろこしょうを受け取った。
「…ところで、そのこしょうはどなたかへの土産ですか? あんたが食べたいというわけではなさそうじゃが」
「ええ。西の国で頼まれたんですよ、こしょうを持ってきてくれと」
「ほほう。どんな方ですかな? 勇者を東によこすほど、こしょうをご所望な方というのは…」
 老人は身を乗り出した。俺は思わず笑った。今までの気落ちした表情が消えると、そこにあったのはしたたかそうな商人の顔だった。


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センド : 勇者
レベル : 24
E やいばのブーメラン/はがねのつるぎ
E かわのこしまき
E せいどうのたて
E オルテガのかぶと
E ほしふるうでわ

財産 : 571 G
返済 : 62000 G
借金 : 938000 G