32.ネクロゴンド


 無謀だろうが何だろうが、今すぐ魔王に特攻したい気分だ。他に目的地があるわけでもないし、さっそくガイアのつるぎを使ってネクロゴンドの魔王の城に踏み込もうと思う。オーブがまだ一つ足りないが、徒歩で入れるのなら不死鳥に乗って行く必要もない。
 ネクロゴンドにはルーラでは行けないが、アッサラームからだと比較的近い。ガニラスなどを適当にあしらいながら船を進め、火山に着いたら今度は火口までの山登りだ。火口からは今も噴煙が上がっている。勇者オルテガが落ちた火口というのも多分ここのことだろう。色々考えそうになるのを振り切ってガイアのつるぎを投げ込んだ。
 しばらくの沈黙の後、すさまじい地響きがして一気に溶岩が吹き出した。
「うわ!」
 これはここで一回死ぬかと覚悟したが、ありがたいことに溶岩は全部俺とは別方向に流れていった。噴火はすぐにやみ、不自然なほどの早さで溶岩が冷えて固まった。そして今まで通れなかった場所に、溶岩による道ができていた。

 そびえる岩山の向こう側に、城らしきものが小さく見える。どうやらあれが魔王の城のようだ。ネクロゴンドに来たはいいが、あんな場所に徒歩で行けるだろうか。うろうろしていると、岩山の壁面に洞窟の入口があった。
(ここから向こう側に行けるかな)
 中に入ると、しっかり造られて細工なども施された壁や天井が目に入った。ただの洞窟ではなさそうだ。先へ進む。
 魔王の本拠地だけのことはあって、さすがに出てくる魔物は強かった。とはいえ俺のレベルも上がっているので、戦えないというほどでもない。じごくのきしの2回攻撃にも耐えられる…と思ったら、やけつくいきを吐かれて死んだ。麻痺で死ぬのは久しぶりだ。あまりに一瞬なので気づいたら王の間にいて夢かと思った。金を確認。905ゴールドになっていた。強敵だ。
 すぐにまたネクロゴンドに向かう。いちいちアッサラームから船を出さなければならないのがやっかいだ。洞窟に入るまでの道のりにもトロルが出没したりしてあまり楽ではない。
(それにこの洞窟、本当に魔王の城につながってるのかな)
 やはりオーブを集めなければ魔王の城には入れない、というのもありそうな話だ。
 しかし洞窟を進んでいくと、そういう不安がどうでもよくなるものがあった。いくつもの宝箱。そして中にはやいばのよろい、いなづまのけんといった強力な武器、防具が入っていた。
 やいばのよろいは、今装備しているだいちのよろいよりも守備力が高くなる上、襲ってきた敵にダメージを与えることのできる鎧だ。長い間世話になっただいちのよろいともついに別れの日が来た。
 そしていなづまのけん。これも今装備しているくさなぎのけんよりずっと強い。そして戦闘中に使えば呪文の効果がある。くさなぎのけんは使うとルカナンの効果があるからこれは売れないが、いかずちのつえはもう売ってしまってもよさそうだ。
 ありがたい洞窟だ。これなら魔王の城につながっていなかったとしてまったく腹は立たない。機嫌良く歩いていたらまたじごくのきしに遭遇し、やけつくいきで麻痺した。手持ちの金が2653ゴールドになっていた。かなり痛い。ミミックにいくらザラキをかけられても死んだためしがないのに、やけつくいきにはなぜこんなにも耐性がないのか。
 気を取り直してだいちのよろいといかずちのつえを売り、借金を返してから再挑戦。もう宝箱はあらかた取ったので進行方向への最短距離を進むことができる。広い洞窟だが、最短距離が分かるとそれほど道のりの長さは感じない。おどるほうせきに心を躍らせながら進み、とうとう地上に出た。
(…あー)
 洞窟を出た場所から魔王の城を見た。洞窟に入った場所からはずっと近くなったが、やはり地上を歩いて入るのは無理そうだった。城の前には山だけでなく、広い河も横たわっている。
 向こうに渡る手がかりになるものでもないだろうかと歩き回った。当然魔物が出る。そう苦戦はしないが面倒だ。剣を振り回しながらうろついていると、小さな声で呼びかけられた。
「おい。おい、こっちだ」
「……?」
 辺りを見回したが、誰もいない。こんな場所に誰かいるとも思えないし、空耳だろうと歩き出そうとしたら、また聞こえた。
「こっちだ。早くしろ、魔物が気づくだろう!」
 さっきよりは大きく、苛立った声だ。もう一度辺りを見回すと、男が手招きしているのがようやく目に入った。岩山の陰になっている場所に洞窟の入口があり、男はその中にいた。さっき気づかなかったのも無理はない。普段は洞窟の入口をふさいで見えないようにしているのだろう、男は板の隙間から顔と手だけ出して俺に呼びかけていた。

 洞窟に入ると、手招きしていた男は慣れた手つきで穴の中から入口をふさいだ。これで外から見えなくなるのだろう。
「なんと……。ネクロゴンドの外からここまで来る者がいようとは。魔王バラモスが現れて以来、初めてのことだ」
 中に進むと、ここの長らしき老人が出迎えてくれた。洞窟の中はそれなりに広く、かなりの人数が住み暮らしているようだった。どうやら生き残った人間たちの隠れ家らしい。俺は知らなかったが、昔ネクロゴンドには国があって、あの魔王の城も以前はその国の城だったのだそうだ。
 城に入る方法はないかと俺がたずねると、老人は目を瞬いた。
「…わしらの力では無理だが…しかし、ここまで来ることのできたそなたなら…」
 そうつぶやいて立ち上がり、箱を持って戻ってきた。
「これと同じ形の物があと5つ、世界中に散らばっていて、全て集めると空を飛べるという話だ。そなたは他の国々も訪れているはず。これと似たような物を、見たことはないか?」
 話を聞きながら、ふたを開ける。想像はついていたが、中に入っていたのは竜の台座の宝玉だった。ここに来たことは無駄ではなかったんだな、と思った。
「シルバーオーブ…」
「なんと、知っているのか?」
「他の5つはもう集めたので。これで、やっとそろいました」
「…おお…」
 老人は手で顔をおおった。
「そなたなら、きっと魔王を討ち滅ぼしてくれるであろう」
 涙声だ。妙に大仰な物言いに、内心首をかしげた。まわりで遠巻きに見ていた人々が、老人が泣き出したのを見て近づいてきて、口々に言った。
「…王様…」
「王様…」
 驚いて周りを見回した。他の人たちも泣いている。
(…そうだったのか)
 魔王がこの国に現れたのは、一体いつの話なのだろう。ネクロゴンドの王様が城を逃げのびて、生き残りの国民とここで暮らし始めてどれくらいになるのだろう。ふと見ると、洞窟の中にはたくさんの墓標が並ぶ一角があった。生き残ってここに隠れていた人々も、次々とその数を減らしてきたのだろうか。
 人々がすがるように俺を見る。俺はうなずいて立ち上がった。何はさておき、王様に頼みごとをされた時のお約束行為をしなければならない。墓標の前を一通り調べる。すごろくけんと小さなメダルを見つけて袋に入れた。背中に刺さる視線が痛い。これで絶対魔王を倒さなければならなくなったと思うと、今回の収穫は少なかったような気もする。

「私たち」
「私たち」
「この日をどんなに」
「この日をどんなに」
「待ち望んでいたことでしょう」
「さあ、祈りましょう」
「時は来たれり」
「今こそ目覚める時」
「大空はお前のもの」
「舞い上がれ、空高く!」

 祭壇に全てのオーブを捧げると、話に聞いていた通り、巨大な鳥が現れた。心正しき者だけが乗れるなどと脅されたが、特に問題なく乗ることができた。
 ラーミアは羽ばたきもせずに空を行く。大地ははるか下だ。俺は背中の上で寝転がった。あれだけ大きな卵から出てきただけあって背中も広い。実家の俺の部屋くらいの広さだった。あおむけになって空を見ながら考える。
(あとは魔王を倒すだけだ…けど、残りの借金は79万5千ゴールド…)
 返済した金額も大金なのだが、残債に比べると残念な気分にならざるをえない。今更だが、俺を勇者に据えたあの商人たちの選択は間違っていたのではないかという気がする。勇者としての目的は魔王を倒すこと。そして今まさに魔王を倒す直前まで来た。これまでの過程で、金やアイテムをそんなに見逃してきたつもりはない。この残債額に関して、俺に責任はないはずだ。
 まあそんなことを上空で主張してもしょうがない。こうなったらとっとと魔王を倒してしまおう。借金のことを考えると魔王など小さく思えてくるから不思議だ。
(…しかし、気持ちいいなー)
 ラーミアの背中はふわふわしていた。相当な早さで移動しているはずなのだが、不思議と前から来る風も穏やかだ。聞こえるのはその風の音だけ。
(ずっとこうしていられたらいいのになあ…)
 ぼんやりとそんなことを考えていたら、知らないうちにまどろんでいたらしい。魔物の心配がないと緊張がゆるんでしまう。今どこを飛んでいるのだろうと背中から地上を見下ろすと、知っている町が見えた。空の上から見るのは初めてだが、スーのあの町。ルディが牢に入れられている町だ。
(…何だあれ)
 中央の広場に大勢の人が集まっているようだった。革命成功の祭りがまだ続いているとも思えないが、また何かあったのだろうか。
 進行方向を変える時と同様、降りたいと思っただけでラーミアはすぐに高度を下げ始めた。

 町の人たちはみんな広場に集まっていたが、今回は祭り騒ぎをしているわけではなかった。
「では、私がこの町の次期町長に?」
「ええ、あなたに任せたいの」
 広場の中央から声がする。集まった人々はそれを聞いていた。
 聞こえる声の一つはルディのものだった。どうやら牢から出ることができたらしい。しかし声だけでは何が行われているのかわからない。俺は群衆をかきわけて前に進んだ。その途中、人々が囁きあう声も耳に入ってきた。
「…しかしゴールドさんも、厳しかったとはいえこの町を作った人なのにな」
「追い出すようなことになってしまったのは気が引けるよ」
 前に来た時とはずいぶん話が変わっているようだった。革命成功の興奮が去って冷静になったら、町の創始者を牢に入れていることが後ろめたくなってきたのだろうか。
 やっと広場の中央が見える位置に来た。噴水の前にルディと、この場所に最初にいた老人と、見たことのない男がいた。その見たことのない男が、少し不安そうな様子で言った。
「私につとまるでしょうか」
「あなたなら大丈夫。この町の町長として、立派にやれるはずよ」
「そう、お前ならできる。町のみんなも協力する」
 ルディが断言し、老人もそう言った。見ている町の人々からも拍手が起こった。
「わかりました。どこまでやれるかはわかりませんが、せいいっぱい力を尽くします」
 男が力強く答え、拍手がまた高くなった。
 あれが、この町の新しい町長なのか。指名されて戸惑ったような顔をしていたが、内心は違うのだろう。あのターバンの商人が言っていた。
『今も水面下で争いやかけひきの真っ最中だ。そしてそういう争いを有利に動かす上で……言葉は悪いが、彼女にはまだ利用価値があるのですよ。利用される時が、あの牢から出られる時…』
 町の人々がいつのまにかあいつに同情的になっているのも、あいつが牢から出られたのも、そんな動きの一つなのだろう。次の町長を指名して、ルディはこの町を出て行く…。
 突然、後ろから肩を叩かれた。振り返ると、たった今頭に思い浮かんだばかりの顔がそこにあった。
「センドさん。いらしていたとは驚きましたな」
 ターバンの商人だ。なぜ俺はこの町に来るたびにこの男に会うのだろう。もっとも会っていなければ、今でも俺はルディを誤解したままだったのかもしれないが。
「いや絶妙なタイミングでいらっしゃるものです。さすがは勇者」
 相変わらず何の意味もない持ち上げ方をする。やっぱり俺はこの男が苦手だ。勝手に仏頂面になってくるのを感じながら言った。
「…あいつ、牢から出られたんだな。あんたの言ってた通りだ」
「ええ。後腐れのない次期町長指名と、この町からの退去が条件でしょうな。牢の中でもきっちり取引して、金もいくらかせしめたようです。さすがは創始者というところですか」
 俺は黙ってまた広場の中央を見た。なにやら町長の証の継承式らしきことが行われている。ルディは新しい町長に変な勲章のようなものを渡しながら、笑顔で激励の言葉をかけていた。
 あいつは今どんな思いでいるんだろう。自分が作った町であんな目にあって、さらに今、追い出されようとしているのに、どうして笑っていられるんだろう。
「センドさん」
 ターバンの商人がまたなれなれしい口調で話しかけてきた。
「何だよ」
「彼女が去る以上、あなたがこの町に来られる機会も減るでしょうな。私もここを拠点にしているわけではありませんし、もうお会いすることもないかもしれません」
 だから何だ、と思う。俺は完済までこの借金からは逃げられないんだから、別に会う必要などないはずだ。無言のまま横目で見ると、商人は顔の前で手を振った。
「いやいや、一言申し上げておきたいと思っただけです。あなたは誤解しておられるかもしれませんが、センドさん、私はあなたを尊敬しているんですよ。それだけお伝えしたかったんです」
 何が尊敬だ、馬鹿馬鹿しい。俺はため息をついて言った。
「借金の返済が止まってないからか?」
「もちろんそれもありますが、不屈の心を持った立派な勇者だからです」
 それは皮肉かと言おうとした時、周りの群衆が拍手し始めた。どうやら町長の交代は滞りなく終わったようだ。
「では、私からも一言…」
 ルディが群衆の方を向き、話し始める。
「皆さん、今までお世話になりました。それから、私を許してくれて、本当にありがとう。この町を発展させるためとはいえ、皆さんにつらい思い、苦しい思いをさせたことは悔やんでも悔やみきれませんが……」
 そこまで言って、ルディは少し顔をゆがめてくちびるをかんだ。
「…でも新しい町長は、私の誤りも、そのために皆さんがどんな思いをしたのかも、ちゃんと知っている人です。この町はこれから、ますます素晴らしい発展を遂げるでしょう。私はこの町を去りますが、遠い空の下から、いつもこの町の皆さんが笑顔でいられるよう、祈っています」
 話し終わって一礼すると、拍手が巻き起こった。
(私の誤り、か)
 後腐れのない町長交代には、こんなスピーチも必要なのかもしれない。それとも、あれもある意味、ルディの本心なのだろうか。
 拍手する群衆を見回したルディの顔が、こっちを向いて止まった。どうやら俺に気づいたらしい。軽く手を上げると、驚きに見開かれたルディの目が面白そうに輝いた。嫌な予感がした。ここから離れた方が、と考えるより早く、ルディはこっちにきて俺の腕をつかんだ。
「センド! 来てくれたのね!」
 そのまま広場の中央に俺を引きずり出す。
「皆さん、ご紹介します。魔王バラモスを討伐する旅を続けている、勇者センドです」
 群衆がどよめく。そういえば俺は意外と有名だった……いや、この町の人々はそれとは別の意味で俺の名前を知っているはずだ。勘弁してくれと思ったが、ルディは笑顔で続けた。
「皆さん。私はこの町に来る前、魔王に挑む勇者と共に旅をしてきました。この町を作るため、その旅からは離れましたが……この町の新たな門出の日に駆けつけてくれた勇者のために、私は改めて力を尽くしたいと思います!」
 群衆がいっせいにどよめく。俺は慌てた。何を言い出すんだ、一体。
「センド。来てくれてありがとう。私のこの町での経験は、きっとあなたの魔王討伐の旅にも役立てることができると思うわ。また私を、仲間にしてくれる?」
 にこやかに俺を見るルディの目が、一瞬だけやけに鋭くなった。話を合わせろ、ということらしい。いきなりこんな舞台に上がらせておいてそれはない。俺は自分のセリフを必死に考えた。
「…それは俺の方から頼もうと思ってたんだ。いつかこの町が大きくなって、君の手を離れる時は、迎えに来ようと思ってた」
「センド…」
「今日がその日だと思ったから来たんだ。ぜひ、また仲間になってくれ」
 自分で言っててなんだが、ものすごく馬鹿馬鹿しくて恥ずかしい。偶然来ただけのくせに。
「センド、ありがとう。またよろしくね」
 ルディはいつもと違って上品な笑顔で言った。しかし顔が少し赤い。やはり俺と同じく、このくだらない芝居が恥ずかしいのだろう。わあ、とまた広場が盛り上がった。
「勇者さん、がんばって!」
「ゴールドさんもお元気で!」
 ひどい茶番だ。顔が引きつるのを努力で抑える。歓声に手を振って応えながら町の入口へと歩きだした。群衆の中であのターバンの商人も笑いながら拍手していた。なんだかすごく腹が立つ。
「頼む。ゴールドのこと、頼む」
 知っている声が聞こえた。噴水の横で、最初にこの場所にいたあの老人が、必死に手を振りながら叫んでいた。きっと今でも、利用されたことは知らないままなのだろう。ここまできたら、ずっと知らないままでいてほしいと思った。
 町から出て、ラーミアに乗る。ルディは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにもう知ってましたと言わんばかりの表情になり、平然とラーミアに乗った。
 入口まで見送りに来た人々のざわめきの中、ラーミアは飛び立った。いっそう高くなった後ろの歓声が、すぐに遠くなって消えた。

「…何なのよ、この鳥」
「おかげさまでオーブが全部そろって、不死鳥が復活した」
「ふーん…」
 それだけ言って、後は会話もなく黙りこむ。なんだか妙に気まずい。前に牢で会った時のやりとりのせいかもしれない。さっきの芝居で交わした会話の内容も、今更気味悪く恥ずかしい。
「…そういや、さっきあの町の商人から聞いたんだけど…。お前、新しい町長指名するのに金取ったんだってな。さすが創始者ってほめてたぞ」
 何か話題をと考え、ようやく出てきたのはそんな言葉だった。言ってから、他にもっとましな話があっただろうと思ったが、ルディは得意げな表情になってうなずいた。
「まあ、ね。1万ゴールドで手を打ったわ」
「へえ」
 その金額が高いのか安いのかよくわからないが、嫌な思いをしたわりに報われない金額のような気がする。もっとも、俺の金銭感覚はあてにならないと思うが。
「これから口座に振り込んでくれる予定よ。でもあたしの口座、今凍結されちゃってるから引き出せないのよね」
「あー」
 そういえばゴールド銀行の受付がそんなことを言っていたっけ。
「いつ使えるようになるんだ?」
「さあ。解除の手続きって時間かかるから、当分後かもね。まああの町で作った財産は全部差し押さえられたから、口座に残ったのはあんたからの返済と、今回の1万ゴールドだけだけど」 
「今回のは現金でもらえばよかったのに」
「そうね。でも」
 ルディは顔を上げて少し笑った。
「あんたの仲間になるんだったら、使えるお金持ってるわけにいかないでしょ? 取り上げられちゃうもの」
「……え?」
 俺は口を開けてまじまじとルディを見た。まさか、さっきのあれは本気で言っていたのか?
「何よ。悪い? 別に魔王のところまで連れてけってわけじゃないわよ。というかそんなのごめんだわ。魔王の城に行くまでの間、ちょっと旅に同行させろってだけよ」
 そう言われても次に行くのは魔王の城だ。それに目的がさっぱりわからない。
「何だよそれ。何がしたいんだ?」
「あたし、もう商人としてはやっていけないのよ。転職しようと思ってるの」
「転職? ……あ」
 そういえばあのターバンの商人が言っていた。もし牢から出ても、もうルディは商人として再起することはできないだろう、と。
「あくどい商売して、革命起こされて、牢に入れられた、なんて過去があっちゃね。あの町と関わってる商人は今世界中にいるし、あたしが商売できる場所はもうどこにもないのよ」
 けろりとした顔でルディは言った。しかし本気で商人に未練がないとは、俺には思えなかった。引っかかりながらも尋ねる。
「…転職って…何に?」
「うん。あたし、盗賊になろうと思ってるの」
「はあ!?」
 商人から盗賊? やけになったのかと思ったが、ルディは淡々と話し続けた。
「けど転職するにはレベルを20まで上げなきゃいけないし、それに盗賊になって自力でレベルを1から上げるのも面倒なのよね。で、一番手っ取り早いのが、あんたについてって後ろで防御してることかなーと思ったわけよ」
 正直、話の流れについていけない。黙っていると、ルディは俺が渋っていると思ったらしく、伺うように俺の顔を上目で見ながら言った。
「もちろん、ただでとは言わないわ。ねえセンド、あんたレミラーマって知ってる?」


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センド : 勇者
レベル : 38
E やいばのブーメラン/ドラゴンテイル/いなずまのけん
E やいばのよろい
E ふうじんのたて
E オルテガのかぶと
E ほしふるうでわ

財産 : 506 G
返済 : 205000 G
借金 : 795000 G