34.ラダトーム


 地鳴りの音がトランペットをかき消した。いつのまにか、王の間が真っ暗になっている。
(何か、いる)
 闇の中に気配があったが、俺は一歩も動けなかった。気配が実態なのか幻なのかも分からない。ただ気圧され、棒立ちになっているだけだった。
 地鳴りの音も王の間が闇に包まれたのも、それほど長い時間ではなかっただろう。その闇の中に、灰色の閃光が走った。一瞬の光の中、トランペットを吹いていた兵士の苦悶の表情が見えたような気がした。
 何が起こったのか分からない。息をするのも忘れる静寂の後、地の底から響くような笑い声が聞こえた。
「…喜びの一時に少し驚かせたようだな…」
 全身総毛立つ。何だ、これは。何が来たんだ。 
「我が名はゾーマ。闇の世界を支配する者。このわしがいる限り、やがてこの世界も闇に閉ざされるであろう」
 王の間は、まさにその闇の中にあった。何も見えず、その声以外、何も聞こえない。
「さあ苦しみ、悩むがよい。そなたらの苦しみは、わしの喜び……。命ある者すべてを我が生贄とし、絶望で世界をおおいつくしてやろう。そなたらが、我が生贄になる日を、楽しみにしておるぞ」
 また笑い声が聞こえ、しばらくして王の間は元通り明るくなった。
 まるで悪夢のようだった。しかしそこにあった光景は、今の出来事が夢ではなかったことを示していた。並んでトランペットを構えていた兵士は、誰一人生きてそこにはいなかった。あの闇の中からの一撃がどんなものだったのか、体がほとんどなくなってしまっている兵士もいた。
「何ということじゃ……。やっと平和が取り戻せると思ったのに……。闇の世界が来るなど、皆にどうして言えよう……」
 王様のうつろな声が響く。俺は兵士にザオラルをかけてみたが、まったく反応はなかった。
「蘇生の呪文か。しかし、無理だ。そこまでひどい状態では…。蘇生の呪文が効果があるのは、少しでも生命力が残っている体だけだ」
 いつも王様の隣にいる大臣が、苦しそうに言う。 俺は立ち上がって王様を見た。王様はうちひしがれた目を俺に向けて、蚊の鳴くような声で言った。
「センドよ…。大魔王ゾーマのこと、くれぐれも秘密にな…」
 ゾーマを倒してくれ、と言われるのかと思ったが、王様はそうは言わなかった。
「もう疲れた…。さがってよいぞ……」
 バラモスが倒れたという知らせに喜んだ直後のことだ。衝撃も大きかったのだろう。俺だってさっきのを見て「今度はあれを倒しに行きます」などととても言えない。
 黙って王の間を去り、城から出ると、町ではお祝いの騒ぎがまだ続いていた。それを避けて町を出て、ラーミアの背中に乗って空へと逃げた。

(これから、どうしたらいい)
 こんなことになるなんて、思ってもみなかった。ラーミアの背中に寝転がって目を閉じると、王の間の闇が目の前に蘇り、あわててまた目を開けた。空が青い。今さら体が震えた。
 怖かった。体がまったく動かない、あの闇の圧迫。何が起こったのかすら分からない、あの一撃。
(これから、どうしたらいい)
 もう一度考えた。空の上は静かで、ラーミアの背中は心地いい。何もかも忘れられるようで、変に落ち着いて今の状況を考えさせる場所でもあった。
 もしこのまま旅を続ければ、いずれはあれと戦うことになるのか。あんなのとまともに戦えるはずがない。
(…だけど)
 本当に空の上は、変に落ち着く。さっきまではまったくなかった余裕が、いつまのにか少しずつ生まれ始めている。
(きっと俺なら、あの兵士みたいな状態になっても生き返れるだろう)
 原形をとどめないほどに殺したとバラモスは言っていた。相手が大魔王になっても、そんなには違わないだろう。あの闇は恐ろしいし、今の俺に勝てるはずはないけど。
(けど、俺は生き返れても、あの人たちは生き返れないんだ)
 そして、一番重要なことを思い出す。俺の旅はもともと、バラモスを倒すことが目的ではなかったということだ。他にすることがなくなったから倒したけど、本当は。
(行こう)
 大魔王ゾーマを倒しに行こう。旅を続けよう。
 旅が続けば、金が手に入る。そもそもの旅の目的だった借金は、まだ70万ゴールド以上残っていた。あの大魔王の存在は、俺にとってはある意味、好都合のはずだ。

 しかし、大魔王ゾーマに挑むと決めたものの、ゾーマのいる「闇の世界」というのがどこなのかも分からない。ラーミアに乗ってあちこちうろついてみたが、 手がかりは見つからなかった。ポルトガで、ゆうわくのけんという武器をもらったのが唯一の収穫だ。今まで呪いをかけられていたが、バラモスが死んで呪いが 解けたからその礼だそうだ。女にしか使えない武器らしい。ありがたく換金させてもらった。
 闇の世界か。この世界のどこかにあるわけではなく、この世界とは全く別の場所なのだろうか。
(バラモスもその闇の世界から来たのか? どうやってこっちの世界に…)
 そう思った時、さいごのかぎがあった神殿で聞いた言葉を思い出した。
『イシス砂漠の南、ネクロゴンドの山奥にギアガの大穴ありき。すべての災いは、その大穴より出づるものなり』

「おお。よく来たな、勇者よ」
 ネクロゴンドの王様は、まだあの隠れ家の洞窟にいた。バラモスがいなくなっても、ネクロゴンドのあの城は相変わらず魔物の巣のままで、王様が戻ることはできないらしい。
「まあ地形も変わっておるし、すぐには無理だろう。しかし魔王を失って魔物たちも混乱しておる。いずれは奪還して、町も道も元通りにせんとな」
 王様は、前に会った時よりずっと元気そうだった。人々も少しずつ洞窟の外に町を作り始めている。
 バラモスはきっとゾーマの部下だったのだろう。バラモスが死んだとなれば、きっとゾーマはまた同じような魔王を送り込んでくる。それとも次はゾーマ自ら来るだろうか。いずれにせよ、バラモスがギアガの大穴から来たとすれば、次の魔王もそこから来るに違いない。
「して、今日はいかがいたした? この地にまだ何か不穏なことでも…?」
 王様が心配そうに眉をひそめる。どこまで言っていいものかと迷いながら、とりあえず大穴のことを聞いた。
「ネクロゴンドに、ギアガの大穴というのがあると聞きました。多分バラモスもそこから現れたと思うんですが」
「ギアガの大穴…。なんと、そうであったか」
 王様は呻いた。聞くとギアガの大穴は、魔王が現れるずっと以前から底の知れない穴として名高く、まだ平和だった頃のネクロゴンドの観光名所でもあったらしい。その頃から別の世界につながっているという言い伝えがあり、自殺の名所としても有名だった。
「そなたがバラモスを倒してから数日後、この地に地震があった。その際にギアガの大穴の裂け目はさらに大きくなり、穴を見張っていた者が一人飲み込まれたというが…」
 きっとあの時だ、と俺は腹の中でつぶやいた。ゾーマがアリアハンに来て兵士たちを殺していった時に違いない。来たといっても、あれはゾーマの実体ではないだろうが。
「バラモスは、あの穴から現れたと…?」
「はい。別の世界につながっているというのは、ただの言い伝えではないと思います。バラモスはいなくなりましたが、もうこんなことが起こらないかどうか、そっちの世界も見てみないと分かりません」
「ではそなたは……また魔王バラモスのような者が現れぬよう、あの穴から別の世界の様子を見に行くというのか?」
「そう、ですね…。そんなところです」
「おお、センドよ。そなたはなんと偉大な勇者なのだ…!」
 何か感激したらしく、王様は目を潤ませた。実際のところ、事態はもう少しさしせまっているのだが、バラモスよりもっと恐ろしい魔王が同じ穴から近日中に、などと残酷なことは俺には結局言えなかった。

 ギアガの大穴は穴というより地割れに見えた。どうやら先日の地震で相当広がったらしい。
(ここから飛び降りるのか…)
 塔などからどんどん飛び降りていた身でも、底が見えないのはさすがに躊躇する。別の世界につながっていなかったら転落死するかもしれないし、つながっていたとしても転落死の可能性はある。
(まあ、多分それでも生き返る…よな)
 立ち止まっていても仕方ない。思い切って飛び込んだ。が、覚悟するほどのこともなく、すぐに地面に着地した。
 拍子抜けしたような気分であたりを見回す。小さな島のようだった。近くに小屋が一つ建っている。空が暗く、星もない。ここがゾーマの言っていた闇の世界なのだろうか。
 落ちてきた気配に気づいたのか、小屋から男が出てきた。
「おい、何だお前」
 持っているランプを俺に向け、不審そうに尋ねる。俺はそれに聞き返した。
「ここ、どこですか?」
「はあ? …ああそうか、また上の世界から落ちてきたんだな。ここは闇の世界、アレフガルドっていうんだ」
 確かにここだ。大魔王ゾーマのいる世界。
(闇の世界、か)
 今なら分かる。竜の女王様が言っていた「闇の衣を身にまとっている魔王」とは、バラモスではなくゾーマのことだ。もしかしたらあの女王の目には、もともとバラモスなど映っていなかったのかもしれない。
 男はじろじろと俺を見て首をかしげた。
「最近落ちてくる奴が増えたなあ。ここ一週間で3人目だ。もっとも、あの2人はうっかり落ちてきたようだったが…。お前さんは落ち着いてるな。わざと落ちてきたのか?」
「あ…はい」
「へえー。何か目的があるってわけか。これからどこに行くつもりだ?」
「そうですね。…一応、大魔王ゾーマを倒しに来たんですが、どこにいるか分かりますか?」
「……ははっ」
 男が目を丸くして、それから腹を抱えて笑った。
「こんな景気のいい話は久しぶりだぜ! 気に入った! しかし『一応』ってのは何だ?」
「今の俺の力じゃ倒せそうにないので…。この近くだとしても、すぐには無理なんです」
「今の力じゃ、か! いいな、ますます気に入った!」
 男は楽しそうに大声で言い、俺の肩を叩いた。
「魔王の居場所はな、近いと言やあ近いが、どうせすぐには行けねえよ。この近くにラダトームの町があるからそこで色々聞いてみろ。余ってる船をやるから、それを使えよ」
「船!?」
 驚いた。胡椒と引き替えにもらった時にも驚いたが、今度は無償だ。
「まあ、船ってもボロいぞ。遠洋航海にゃ向かねえ。あんまり陸から離れるなよ」
「どうもすみません。ありがとう」
 泊まっていた船は、古びてはいたがきちんと手入れされていた。確かに長期航海には向かないだろうが、途中で浸水するようなこともなさそうだった。

 小島から向こう岸に渡り、教えられた通りに東に歩くと、すぐにラダトームの城が見えてきた。そこまでに出た魔物は、赤いスライムだけだった。色が違うだけで強さは青いやつと同じくらいだ。
 ラダトームは海のそばにあり、その沖、というほどでもないすぐ近くに島らしき陸地が見えた。そこにも城が建っているのが見えるほどの近さだ。対岸の城はラダトームの城よりずっと大きく、なにやら禍々しい雰囲気で見る者を圧する。城の周囲を毒の沼地が囲んでいた。
(まさか、あれが…?)
 アリアハンからバラモス城までの長い道のりを考えると、目の前にある城がそうだとは信じられない。しかしラダトームの町に入って聞いてみて、あれがまぎれもなく大魔王のいるゾーマ城だと教えられた。目の前にそんなものがあるせいか、町の人々の表情は太陽のないこの国の空よりも暗く見えた。町をうろついていると、だんだん気が滅入ってくる。
「おお!? あんたは!」
 しかし町の中にある牢に入った時、この町にそぐわない大声で迎えられた。驚いたが、牢の中の男の顔に見覚えはなかった。当然だ。来たばかりの世界で見覚えのある顔に会うはずがない。人違いだと言おうとすると、男は嬉しそうに鉄格子を叩いた。
「俺ですよ、カンダタです! いやあ奇遇ですねえ!」
「カンダタ!?」
 見覚えがないのも当然だ。これまでカンダタは覆面をしていたから、俺は素顔を見たことがなかった。2度も戦った相手だが、カンダタの素顔はそれほど凶悪そうでもなく、むしろ意外と人なつこそうに見えた。見るたびに半裸だったが、今は囚人服らしい地味な服を身につけている。
「…あの格好、やめたんだな」
「へっへっ、あんたも腰巻きはやめたようで」
 昔のことをいつまでも、と苛立ったが、話を振った俺が怒るのも妙だ。なぜこちらに来たのか聞くと、カンダタはへらへら笑いながら答えた。
「いやあ、バラモスが死んでネクロゴンドの国が元通りになったと聞いたもんでね。めでたい記念にひとつ仕事をしようと思って行ってみたんですよ」
「そんなに早く元通りになるわけないだろ」
「そうそう、その通りでね。なんのこたあない、今でも魔物だらけのままで、逃げてるうちに妙な穴に落ちたってわけです。これも悪事の報いと思って、今じゃ真面目にやってますよ」
 確かに、こんなところにいれば盗みもできないだろう。しかし、真面目にやってたらこんなところに入れられることもないのではないか。俺の疑問に気づいたらしく、カンダタは手を振って言った。
「いや、違うんですよ。実はあのラダトームの城にね、太陽の石って物があると聞いたんです」
「太陽の石?」
「そう、太陽ですよ。今、この国のやつらが一番見たがってる物だ。そんなものを城の奥に押し込めてちゃいけねえや。言ってみりゃ俺は義の心で」
「それを盗もうとしたのか」
「へっへっへっ」
 カンダタは悪びれもせずに笑った。しかしこれまでやってきたことを考えれば、俺もこの男とたいして変わらない。現に今も、その太陽の石という物に興味を持ち始めている。

 ラダトームの城に行き、王様に挨拶する前に太陽の石を探した。何の役に立つものかもわからないが、あると聞くとそっちが優先になるのはどうにもならない。
 宝物庫らしき場所に行ってみたが、 城の宝だった武器と防具が盗まれたとかで今は空になっていた。カンダタが盗み出したわけではなく、それよりずっと前の話らしい。宝物庫にないとなると、一体どこにあるのか…。
「おや、初めてお目にかかりますな」
 バルコニーで話しかけられた。きょろきょろしながら城内をうろついている怪しさをとがめられたのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
「あなたはもしや、上の世界から来られたのでは?」
「ええ、そうです」
「やはり。日に焼けておられるからすぐに分かりました。どうです、これから他の町に行くご予定などおありですか」
 予定など聞かれるとは思わなかった。予定といえば、大魔王ゾーマを倒すこと。そしてその過程でできるだけたくさん借金を返すことだが、他にも町があるならば当然寄っておきたい。
「他にも町があるんですか」
「ああ、やはりこちらに来られたばかりなのですね。ではこれを差し上げましょう」
 男が差し出したのは地図だった。見覚えのない形の灰色の陸地を見て、やはりここは別の世界なのだなと思いながら何気なく指で触ると、陸の一部の色が変わった。
「あ、これは」
 つい最近俺が色塗りを終えたばかりの地図と同じだ。男はにこにこしている。
「ようせいのちず、といいます。面白いでしょう。旅人にはもってこいの地図ですよ」
 俺は礼を言ってそれを受け取った。
 さらに城の中をうろついているうちに、不自然な空間があることに気づいた。壁を押してみるとぐるりと裏返しになって、その奥に隠し部屋があった。部屋の中央に宝箱がある。
 入っていたのは赤い宝石だった。太陽の石とはこれのことだろうとは分かったが、太陽の名は付いていても、この国の人々が見て喜ぶようなものではなさそうだった。換金もできないからここにそのまま置いておいてもいいのだが、何かの役に立つかもしれないので持って行くことにした。これから王様に会う。怒られそうならこっそり返しておこう。

「よく来たな。わしがこの国の王じゃ」
 ラダトームの王様は淡々とした調子で話す穏和な表情の老人だった。俺は太陽の石をこのまま持っていることに決めた。
「上の世界から来たそうだな?」
「はい」
 さっき地図をくれた男が報告したのだろうか。王様は表情を変えずに言葉を続けた。
「大魔王ゾーマを倒すためにか?」
「…はい」
「そうか」
 王様はなぜか悲しそうに笑ってため息をついた。
「大魔王の闇に包まれ、このアレフガルドには希望はない。が、そなたが魔王を倒すというなら、待つことにしよう」
 激励の言葉ともとれなくはないが、投げやりな感じもした。俺が一礼して王の間を出ると、少し歩いたところで後ろから声をかけられた。振り返ると、さっき王様のそばにいた大臣がいた。
「気を悪くしないでくれ。陛下もおつらいのだ」
 わざわざそんなことを言うために追ってきたのだろうか。俺のためなのか王様のためなのか、どちらにしてもずいぶんと気を遣う人だ。
「いえ、別に気にしては…」
「そうか、ならばいいのだが。陛下はいつも心を痛めておられてな…。これまでにも、あまたの者が大魔王を倒さんと旅に出た。しかし、帰ってきた者は誰もおらぬ。そう、あのオルテガさえも……」
 ……?
 今何か聞き覚えのある…しかしこんなところで聞くはずのない名前が聞こえたような。
「どうした」
 固まった俺の顔を、大臣は不審そうに見た。
「……今、誰が帰ってこなかったって言いましたか?」
「ん? オルテガさえ帰ってはこなかったと…」
 そこまで言って、俺を見る大臣の目が見開かれた。
「…もしや、そなたはオルテガの係累の者か? そういえば顔も似ておるが」
「オルテガ様の!?」
 横から声が上がった。下働きらしい若い女が驚いた顔で駆け寄ってくる。大臣が彼女に声をかけた。
「おお、そなたは確か、オルテガがこの城に来た時に傷の手当てをしたはずだな」
「は、はい。私がオルテガ様のお世話をしたんです。ひどい火傷をしてお城の外に倒れていて…」
 火傷。オルテガは火山の火口に落ちたはずだ。それでも死ぬことなく、こっちの世界に来ていたのか。
 うまく働かない頭で考えていると、彼女の言葉の続きが耳に入った。
「…記憶をなくされたらしく、ついにご自分の名前以外思い出されなかったんです」

 自分が何と言ってそこを立ち去ったか、よく覚えていない。ラダトームの城からも町からも急いで離れた。どこか行くあてがあったわけではない。人のいない場所で大声を出したかっただけだ。
「------------!!」
 生きていた。勇者オルテガは、父さんは、生きていた。
 そうだ。勇者の称号を持っているオルテガが死ぬわけがなかったんだ。火山の火口に落ちたという死に方が特殊なのかと最初は思っていたし、多分王様や他の人々もきっとそう思ったのだろう。けど俺は、自分がさんざん死んで生き返ってるうちに、心のどこかで何かおかしいような気はしていた。
(生きてたのか。しかも)
 記憶をなくしただと!? ふざけやがって!
 記憶がないくせに、こっちでもまた大魔王を倒しに旅立ったっていうのか。勇者としての意志は残ってるっていうのか。じゃあ何の記憶をなくしたんだ。借金か。借金のことだけ忘れたのか。
(絶対見つけ出してやる)
 死んだわけでもなく、しかもどうやら大魔王を倒そうとするくらいに元気らしい。そんな奴からなんで勇者の称号とか借金とか、世襲しなくちゃいけないんだ。
 オルテガほどではないにしても、俺も相当強くなったはずだ。いざとなったら決闘して、頭に激しい打撃を加えたりしてでも思い出させてやる。勇者活動も大切かもしれないが、もっと大切なこともこの世にはあるんだ。
 借りたものは、自分で返せ!!


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センド : 勇者
レベル : 45
E やいばのブーメラン/ドラゴンテイル/バスタードソード
E やいばのよろい
E ふうじんのたて
E オルテガのかぶと
E ほしふるうでわ

財産 : 281 G
返済 : 289000 G
借金 : 711000 G