35.マイラ
大魔王ゾーマ打倒より、さらに優先すべき目的ができた。オルテガを見つけ出し、借金のことを思い出させる。勇者の称号も借金も、全部正しい持ち主に返さなければならない。
これまで俺が返した分に関しては、一万歩譲って不問にしてもいい。残りの分は絶対に自分で払ってもらう。大体あと70万ゴールドなど、俺一人で返せるわけがないのだ。払わなくてもすみそうだという希望が出てくると、なるべく意識しないようにしていた金額の大きさを実感する。
さて、問題はオルテガの所在地だ。ラダトームでも死亡扱いされているところをみると、一度出て行ってそのまま帰ってきていないらしい。今一体どこにいるのだろう。
(くまなく探すしかないか)
もらった地図をにらみながら考えた。この地図に全て色がつく頃には、きっと見つかるだろう。絶対に逃がすものか。
とりあえず、徒歩で北へ向かった。洞窟を見つけたので入ってみたが、ピラミッドの地下と同じく魔法がかき消される洞窟だった。しかも魔物が強い。とりあえず行けるところまで、とHPが半分になるまで進み、そこから引き返したが、どうやら帰りに襲ってきた魔物の方が強かったらしくて死んでしまった。バラモス討伐後、初の死亡だ。
「おおセンドよ、死んでしまうとはふがいない」
いつもの通り、目が覚めるとアリアハンの王の間だった。いつもと違うのは、説教をするのが王様ではなく大臣になったことだった。王様はもう説教する元気もないようだ。借金返済の件で未来に希望が出てきた自分の状況が、なんとなく後ろめたくなってくる。
(けど、陛下。大魔王もきっと勇者オルテガが倒してくれるはずです)
心の中でそう言って、王の間を出た。オルテガに全てを思い出させた暁には、多分ここに親子揃ってまた来ることになるのだろう。
もう一度、ラダトームから北へ向かった。
(こっちの世界の方が狭いみたいだな)
地図の色がついた部分を確認しながら思った。きっと町の数も少ないだろう。ますます70万ゴールドは無理だ。一刻も早くオルテガを見つけ出したい。
ガライ、という男が住んでいた家があった。ガライは銀のたてごとという物を持っているらしい。聞いただけでは何に使うアイテムなのか分からない。それにしても、「銀の」とか「金の」とかいう言葉が頭につくアイテム名に、つい癖で反応する自分が情けない。
歩けるところまで歩いたが、どうも船でないとそれ以上行けないようだ。HPも少なくなってきたので、ルーラでアリアハンに飛び、返済してから家に帰った。
「まあ、センド! お帰りなさい。魔王を倒したって聞いたのに、ちっとも帰ってこないから、どうしたのかと思ったわ」
そういえば、バラモスを倒した後は家に帰っていなかった。あの時は先に城に行き、城であんなことがあって、そのままアリアハンを出てしまったのだ。
「それにしても、魔王を倒すとは! よくやったのう、センド。さすがはわしの孫じゃ!」
「ほんとに……母さんも嬉しくて嬉しくて」
母さんもじいちゃんも、笑顔でほめてくれる。2人とも、俺の旅の目的が魔王討伐ではないことくらい分かっているはずなのに。魔王を倒した後になかなか帰ってこなかったのも、きっと返済の方で大変なのだろうくらいに思っていたのかもしれない。
(そう思ってもらってた方がいいかな)
大魔王ゾーマのことは秘密にな、という王様の弱々しい言葉を思い出す。
夕食は豪華だった。俺はバラモスとの戦いの話をした。何度も死んだ部分は当然省くので、話すのは一番最後の戦いだけだ。じいちゃんは身を乗り出して興奮していた。
異変に気づいたのは、朝起きて着替え終わった時だった。
(……昨日のままだ)
HPもMPも、回復していなかった。しっかり睡眠は取ったのに。
なぜだ。バラモスを倒したからか。でもまだ終わったわけではない。どうなってるんだ。いや、原因の究明より、今後どうするかだ。このままでは、回復するために死ななければならないということにもなりかねない…。
焦ったが、そこでラダトームの城にいたMPを回復してくれる老人の存在を思い出した。ほっとした。いくらなんでも回復のたびに死ぬのはつらすぎる。
旅装で朝の食卓につくと、母さんがじっと俺を見てからぽつりと言った。
「センド。あなたの旅はまだ終わらないの?」
「…うん」
むしろ俺の本当の旅は、つい最近始まったような気がする。父さんを見つけ出し、借金のことを思い出させるというはっきりとした目的ができた。
「そう…」
母さんは顔を曇らせ、じいちゃんは気がかりそうに言った。
「なあ、センド。今、どういう……状態なんじゃ。わしに何かできることがあれば……」
「大丈夫だよ、じいちゃん」
俺は笑って答えた。俺の借金は、多分もうすぐなくなる。じいちゃんにとっては息子の借金が孫に行って、それがまた息子に戻るだけだから別にめでたくもないだろうが。
(母さんとじいちゃんに、言った方がいいかな)
実は父さんが生きている、ということ。少し迷ったが、やはりまだ言わないことにした。同じ名前の他人という可能性もまったくないわけではない。ほとんどないとは思うが。
ラダトームの城でMPを回復してもらい、船で北へ向かった。
地図を塗りながら陸沿いに進むと、町があった。マイラという町だ。温泉があり、闇の世界ではあるが比較的明るい雰囲気だった。
そしてこの町にはすごろく場があった。すごろく場には長い間ご無沙汰だったので、いつのまにかすごろくけんも大量にたまっている。
1回目。ちいさなメダルとせかいじゅのはを拾い、ミミックにあった。合計61ゴールドを拾う。落とし穴で終了。
2回目。いのちのきのみ、にげにげリング、ちからのひみつ、うさみみバンド、500ゴールドを拾う。 落とし穴。
3回目。合計3242ゴールドを拾い、4131ゴールドを落とした。ひどい収支だ。運が1ポイント下がり、最大HPが3ポイント下がった。サイコロが切れて終了。
4回目。くろしょうぞく、ちいさなメダル、いのちのきのみ、やみのころもを拾った。ゾーマのやつとは別物らしい。合計575ゴールドを拾った。落とし穴。
5回目。合計3523ゴールドを拾った。ターバン、スタミナのたねを拾った。かしこさが3ポイント下がった。落とし穴。
ここのすごろくは2階に渡っていて、上の階の落とし穴に落ちても終了にはならない。1階に戻るだけだ。そのせいかいつも以上に何度も落ちている気がする。1回のすごろくにかかる時間も長く、たった5回でやたらと時間をくってしまった。だがその分アイテムもたくさん手に入った。
すごろくけんはまだまだ残っているが、今回はここでやめた。メダルを拾ったのでメダルおじさんに届けに行った。
「よし! これでセンドは80枚メダルを集めたので、ほうびにドラゴンクロウを与えよう!」
すごろく場で拾ったアイテムと一緒に換金し、いつものようにゴールド銀行に返済に行く。今回の返済額は3万8千ゴールドだった。
マイラのすごろく場は今までのものよりずっと大きく、しかも見たところ、ゴールらしきものが2つあるようだった。すごろくけんはまだ17枚ある。もしかしたら、あの狭い世界で残りの借金を返すことも、不可能ではないのかもしれない。せっかく返さなくてもすみそうなのに。
(…父さんに会った時に、全部返済し終わってたらどうしよう)
今までにない種類の不安が、ふと胸をよぎった。
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センド : 勇者
レベル : 48
E やいばのブーメラン/ドラゴンテイル/バスタードソード
E やいばのよろい
E ふうじんのたて
E オルテガのかぶと
E ほしふるうでわ
財産 : 473 G
返済 : 340000 G
借金 : 660000 G