38.岩山の洞窟
自分でゾーマを倒すことも視野に入れるとなると、さすがに今のままの力では色々無理がある。アレフガルドをうろついているうちにそれなりにレベルも上がってきたが、あの大魔王を倒せるほどとはとても思えない。
(手っ取り早く強くなるには…)
やはり装備だろう。バスタードソードをもらって以来、装備が全く変わっていない。俺は久しぶりにマイラのすごろく場に行った。すごろく場のゴールの賞品は毎回装備品だ。ここの賞品次第では装備の変更も可能かもしれない。
1回目。特に何事もなく進み、電磁波で終了。
2回目。500ゴールドを落とした後で合計132ゴールドを拾う。 ドラゴンテイルを拾った。落とし穴で終了。
3回目。合計703ゴールドとふしぎなきのみを拾う。サイコロが切れて終わり。
4回目。53ゴールドを拾った。落とし穴。
5回目。合計621ゴールドを拾ったが千ゴールド落とした。すばやさのたねを拾った。落とし穴。
6回目。落とし穴。
7回目。合計2596ゴールドを拾った。500ゴールドを落とした。HPが2増えた。サイコロ切れ。
8回目。合計1863ゴールドを拾った。HPが1増えた。落とし穴。
疲れたのでここでひとまずあきらめた。またゴールできなかった。本当に俺はすごろく運がないと思う。すごろくに限らず運自体がないのかもしれないが。
すごろくけんはまだ残っているから、他を当たってからまた来ることにしよう。
アレフガルドの地図も大体色が付いた。あと行っていないのは、マイラの西にある塔とドムドーラの北にある洞窟、そしてゾーマ城だけだ。
(まずは洞窟からかな)
アレフガルドはどこに行ってもさほど魔物の強さに差はないようだから、順番はあまり重要ではない。深く考えずに順番を決め、洞窟に向かった。
洞窟はむやみに広かった。探索するだけで疲れてくる。そういえば、この洞窟については町でも誰も噂をしていなかった気がする。やまびこの笛があった塔のようなものだ。装備変更できるかどうかはともかく、魔の島に渡るための重要アイテムなどは期待できないかもしれない。入ってから考えてもしかたないのだが。
置いてある宝箱はかなりの数だった。しかし入っていたのはどう見ても呪われているようにしか見えない武器や防具ばかりだった。小さなメダルもあったが、他には何もない。
(何だ、ここ…)
重要アイテムが本当に何もない。やまびこの笛の塔以上の何もなさだ。なんだか新鮮な気さえする。何か見落としているのかとくまなく見回ったが、やはり見つからなかった。釈然としない思いを抱きながらも、メダルを取ったのでアリアハンに戻った。
「よし! これでセンドは90枚メダルを集めたので、ほうびにしんぴのビキニを与えよう!」
また女性専用装備だった。大魔王が出現してから俺の装備は変化していないが、その間にゆうわくのけん、まほうのビキニ、そして今回のしんぴのビキニと、女だったら装備できたものを3度ももらっている。しかも防具の方は両方やいばのよろいより防御力が上だ。前々から気になってはいたが、一体この差別的扱いは何なのだろう。金を普通に使えればこれほどは気にならないのだろうか。少し苛立ちながらも道具屋で換金した。2万4千ゴールドで引き取ってくれて驚いたが、洞窟で手に入れた呪いの武器の換金額にはさらに驚いた。
破壊の剣。換金額、33750ゴールド。ここまで高いと実は呪われていないのではないかと疑いたくなるが、刀身に顔が浮き出て呻き声をあげているような剣が呪われていないわけがない。少し気にはなったがそのまま換金し、いつも通り返済した。
一気に7万ゴールド越えの返済は初めてだ。借金返済のための洞窟だったような気がしてきた。
「残り47万3千ゴールドです。がんばってくださいね」
百万ゴールドあった借金は、とうとう半分以下になった。父さんに戻る予定の負担が減っていくのはあまり喜べないが、ここまでの過程を思えばやはり感慨深い。
返済的には充実した洞窟だったが、装備はまったく変わらなかった。俺はまたマイラのすごろく場に挑むことにした。
1回目。千ゴールドを落として25ゴールドを拾った。すばやさが2下がった。落とし穴。
2回目。49ゴールドを拾った。落とし穴。
3回目。合計4161ゴールドを拾い、千ゴールドを落とした。サイコロ切れで終了。
4回目。うさみみバンドといしのかつらを拾った。電磁波で終了。
5回目。合計96ゴールドを拾い、合計1500ゴールドを落とした。いしのかつらを拾った。かしこさが1下がった。落とし穴。
ここで今回はまたあきらめた。手持ちのすごろくけんがだんだん心細くなってきた。
(…くそ…)
ここのすごろく場のゴールは2つあるようだが、まだどちらにも着いていない。本当に俺はすごろくに向いていないようだ。
すごろくで拾ったアイテムの換金のために道具屋に行った。この間オリハルコンを買い取ってくれた、あの店だ。
「すみません、これ換金…」
主人にそう言いかけ、俺は目を見張った。主人の後ろの壁に、一振りの剣が架かっている。
「はい、換金ですね。うさみみバンドと、いしのかつらですか」
「あ……はい」
換金してもらっている間も、俺の目は剣に釘付けだった。武器屋にあってさえ目を引くような剣が、なぜか道具屋にある。前に来た時には、こんな剣はなかった。他の店でも見たことがない。それなのに、どこかで見たことがあるような気がした。
「…あの……そこに架かってる剣は?」
店の商品について何か聞くなんて、旅に出てから初めてかもしれない。店に並んでいる品物はいつも、店に並んでいるというだけで、俺には縁のないものと決まっていた。
「ああ、これですか」
道具屋の主人は剣を見やって誇らしげに目を細めた。
「先日、お客さんからオリハルコンを引き取らせていただいたでしょう」
「…ええ」
「あれを鍛えて作ったんですよ。いい剣になりました」
私の本職は刀鍛冶でね、と主人は少し胸を張って言った。
「王者の剣と名付けました。かつてラダトームの城にあったという剣の名です。本物は魔王に奪われ、粉々に砕かれたと聞きますが、あれもオリハルコンでできていたんですよ」
「…………」
「刀鍛冶のはしくれとして、王者の剣にはずっと興味を持っていましてね。本物を知る人に話を聞いたり、古い文献を読みあさったりして……そして、もしオリハルコンがまとまって手に入ったら、王者の剣を復元するのが、私の長年の夢だったんです。完璧に近い形で復元できたと思います。だから同じ名を付けたんです」
その言葉がうぬぼれから出たものではないことは、剣を見ているだけで分かった。主人は自分が打ったその剣に、畏敬の念さえ抱いているようだった。
「…もしかしたらあのオリハルコンは、砕かれた王者の剣だったのかもしれません。打っている間もずっと剣に導かれていたような、本来の形に戻ろうとするのを助けただけのような……そんな感覚があったんです」
ラダトーム城の宝物庫は、今も空のままだ。俺があの城で太陽の石を探していた時、その宝物庫のそばにいた兵士は、大魔王を倒すなど夢物語だと言いながらも、半ばあきらめたように続けた。
(しかし、かつてこの城にあった、王者の剣、勇者の盾、光のよろい。その3つをそろえれば、あるいは……)
今なら、その意味がわかるような気がする。この剣。そしてそれに並ぶほどの鎧や盾。
「お気に召したようですね。お客さんならきっと使いこなせるでしょう。3万5千ゴールドですが、いかがですか」
黙って剣を見ている俺に、道具屋の主人はにこにこして言った。どうやら俺の『とりたて』は見えていないようだ。刀鍛冶が本職だという彼は、多分商人というより職人なのだろう。
オリハルコンを3万ゴールドで引き取ってくれたことを考えれば、この剣の売値が高いとは思えなかった。だが、たとえいくらであっても、俺に買えないという点では同じだ。
(……どうしたらいい)
しかし俺は、今までのようにその剣をあきらめることができなかった。自分が持っていた物を材料にしてできた剣だからかもしれない。あの時、もっとこの人の話を聞いて、オリハルコンを換金するのではなく別の形で交渉していたら、俺はこの剣を手に入れることができたかもしれないのだ。
大魔王を倒すには、きっとこの剣が必要だ。使うのが俺であっても、他の誰であっても。
道具屋の主人は、剣を復元できたことで満足していて、誰がそれを買っていくかにはそれほど興味を持っていないようだった。3万5千ゴールド。この剣を買おうという客は現れるだろうか。そしてその誰かは、大魔王ゾーマに挑むだろうか。
(何とかしないと)
自分がどうしたいのか、はっきりとはわからなかった。ただ、あまたの者が魔王の城を目指して旅立ったが誰も戻ってはこなかったという、ラダトームの大臣の言葉がなぜか頭に蘇った。
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センド : 勇者
レベル : 53
E やいばのブーメラン/ドラゴンテイル/バスタードソード
E やいばのよろい
E ふうじんのたて
E オルテガのかぶと
E ほしふるうでわ
財産 : 487 G
返済 : 529000 G
借金 : 471000 G