42.ゾーマ城 -- 1
光のよろいは守備力が高いだけではなく、身につけているだけでHPが少しずつ回復するという特殊効果もある。
(となると、これはいらないな…)
リムルダールでもらったいのちのゆびわ。もともとあまり使ってもいない。すごろくの景品で同じ物をもらったが、そっちはもう換金済だ。こっちも換金するか。オルテガが持っていたというだけでなぜか手放すのに気が引けるが、何かいわくのある物ではないし、俺に託されたというわけでもない。
オルテガの持ち物は兜だけで十分だ。もう用済みになった残りのすごろくけんとともに、指輪も換金した。なんとなく嫌な気分になったが、金をゴールド銀行のカウンターに置いたらそれも消えた。
「よくぞ来た! 今こそ雨と太陽が合わさる時!」
聖なるほこらの老人は、前に来た時とはうってかわった態度で出迎えてくれた。別に聖なるまもりを見せたわけでもないのだが、入った瞬間に分かるものらしい。
せかすように手を出され、太陽の石と雨雲の杖を渡した。厳かにうなずいた老人が、右手に石、左手に杖を持ってなにやらぶつぶつつぶやく。すると太陽の石と雨雲の杖が光を放ち、床に何か落ちた音がした。足下を見ると、虹色の小さな石が転がっている。老人が満足そうに言った。
「さあ、その虹のしずくを持って行くがよい。魔の島への架け橋となろうぞ」
「架け橋、ですか」
「魔の島に最も近い場所で、それを空にかかげるのだ。必ずや精霊ルビス様のご加護があろう」
最も近い場所…。いのちのゆびわをくれたあの男が言っていた、リムルダール北西の岬のことだろうか。オルテガが飛び込みと遠泳をあきらめたという場所でもある。
切り立った崖も、はるか下に見える暗く荒れた海も、前に来た時と変わらなかった。飛び込みをしている男の姿は見あたらない。今はどこから挑戦しているのだろう。
岬に立ち、言われた通り虹のしずくを空にかかげた。石の中にあった七色の輝きがあたりに飛び散り、一つになって向こう岸に渡った。しばらくして光は消えたが、光がそのまま形になったような、丸いつるりとした橋がそこに架かっていた。
一瞬で架かった橋を渡るのはどうも不安だったが、他に手段はないので急いで渡った。しかし吊り橋のように揺れることもない、しっかりした橋だった。さすがルビス様だ、とおそらく見当違いなことを考えながら城に向かう。ラダトームから見た時と同様、見る者を威圧する迫力に満ちた城だが、城門は開かれて門番一人いない。あっさりと正面から侵入できた。
バラモス城と同じく、ゾーマ城も当然のように魔物が現れる。しかし進むのに難儀するほどの魔物は現われなかった。だいまじん6匹に襲われる部屋もなんなく抜け、玉座のある部屋に着く。誰もいない玉座を調べると、後ろから不自然な風が吹きこんでくるのを感じた。後ろに回ってバリアの床を叩く。隠し階段があった。
さらに地下に進む。菱形の模様が続いている床があったが、塔で鍛錬した俺にはもはや普通の床に等しい。抜ければまた普通の床の通路だ。バラモス城よりずっと広い城ではあるが、そう複雑な迷路になっているわけでもないし、レベルが上がった今の俺ならば、野を行くように先に進める……と思ったらソードイドが痛恨の一撃を浴びせてきて久々に死んでしまった。不覚だ。
「おおセンドよ、死んでしまうとはふがいない」
アリアハンの王の間で、いつものように大臣に説教される。どこで戦っているかも知らないで、いい気なものだ。適当に聞き流してまたリムルダールへと舞い戻った。橋を渡り、城に侵入する。
この城の魔物相手に死ぬことが、そう頻繁にあるとは思えなかった。死ぬとすれば、やはりゾーマを相手にした時になるだろう。そしてゾーマ相手には、また何度も死にそうな気がする。この巨大な城の長い通路を、何度も通わなければならないのか。
(……? 音が)
城のどこかから、何かぶつかり合う鋭い音がした。斬撃の響き。魔物の吠え声。戦いの音だと気づいてはっとした。
この城で戦いが起こっている。魔物同士の仲間割れでなければ、誰か俺以外に侵入した人間がいるということだ。そしてそんなことをしそうな人間は、俺が知る限り一人だけしかいない。音のする方に急いで向かった。
(…あれか!)
ヒドラに似ているが、ヒドラの何倍もの大きさの魔物が見えた。いくつかある頭の一つが炎を吐き、別の一つが鋭い牙で攻撃しているようだった。
のしかかる巨体の隙間から跳躍し、ヒドラに反撃している男が見えた。やはり人間だ。攻撃をある程度いなしてはいるが、苦戦しているようだった。男のHPがほとんど残っていないのが見える。というより、あれは。
(HP、なくなってるんじゃないのか!?)
まっすぐ戦いの場へ走る。しかしそのまま戦闘に参加するというわけにはいかなかった。戦いは目に見える場所で起こっているのに、そこまでの通路がない。俺がいる場所は吹き抜けを見下ろすバルコニーのようになっていて、戦闘はその向こう側で起こっていた。
(くそっ)
飛べるような距離でもない。毒づきながら架け橋を探す。探している間にも、視界の端で戦闘は続いていた。男のHPがゼロになっているのははっきり分かった。にもかかわらず戦い続けている。なぜそんなことができるのかは、俺にはわからない。本物の勇者だからだろうか。俺ならば今頃もう、アリアハンの王の間に飛んでいるはずだ。
遠回りをしながらも、ようやく見つけた架け橋を走った。ヒドラの巨体がゆっくりと去っていくのが見えた。もう戦いの音はやんでいる。橋を渡りきったところで、そのたもとに人間が倒れているのに気づいた。
「あ……」
それ以上言葉が出ない。人の形はしているが、四肢は傷のない部分が見あたらないほどぼろぼろだった。何か考える前に回復呪文をかける。しかし、いくつあるかわからない体の傷は、呪文に全く反応しなかった。もう一度唱える。やはり効果はない。もう一度かけようとして、気づいた。
(そうだ。この人のHPはもうゼロになっているんだった)
蘇生呪文でなければ効果がない。そして、蘇生呪文なら効果があるはずだ。ザオラルを唱える。しかし、何も起こらなかった。失敗したわけではない。そこに何もないかのように、呪文が体を素通りした。
あの時と同じだ。ゾーマがアリアハンの城に来て、兵士を殺していった時。体が半分消し飛んでしまっていた兵士に俺はザオラルをかけたが、何の反応もなかった。見ていた大臣が痛ましそうに言った。
(蘇生の呪文か。しかし、無理だ。そこまでひどい状態では…。蘇生の呪文が効果があるのは、少しでも生命力が残っている体だけだ)
あの兵士と同じ状態だというのか? そんな馬鹿な。この人はさっきまで戦っていたのに。
(……それとも)
戦っていたから、そうなったのか? HPがゼロになっても、激しい戦いを続けていた。普通では考えられない状態だった。あんな状態で戦い続けていたから、本当に生命力が尽きてしまったのか。またザオラルを唱えた。すぐそこに体があるのに、呪文の光はどこに向かっていいのかわからないというように床に向かってまた消えた。
俺の体は、勝手にがたがた震えだした。落ち着け。本当に死ぬわけがないんだ。ザオラルで生き返らないとしても、この人は俺と同じ勇者なんだから。
「だ、誰か……そこにいるのか……?」
「……あ」
まるで生気のない体が動き、目が見開かれた。動いてもその体には、全く生気はないままだ。旅先で何度も会った亡霊たちと、同じような気配がした。
「私にはもう、何も見えぬ。何も聞こえぬ…」
「やめろ、しゃべるな。い、今、なんとかするから。じっとしててくれ」
あわてて止めた。言っている内容までがまるで亡霊のようだと思った。
「も、もし、誰かいるのなら……どうか伝えてほしい……」
頼む。やめてくれ。
この人が何か言うたびに、どんどん事態が悪化するような気がした。回復呪文はきかない。蘇生呪文もきかない。それに……。
しゃべってるけど、さっきは戦っていたけど、この人のHPはゼロだ。俺だったらもうとっくに、王の間に戻っているはずなんだ。どうしてこの人は、このままここにいる?
「……私はアリアハンのオルテガ。今、全てを思い出した……」
「え、あ……」
やっと思い出したのか。
そうだ、あんたはアリアハンの勇者で、借金してて、勇者も借金も、俺が継ぐことになった。ふざけるな。自分で払え。生きてるんなら自分で全部片をつけろ。借金も、勇者の仕事も……。
記憶のないオルテガにぶつけるつもりだった言葉は、言う相手を失って自分の中に戻り、そしてその時に俺はようやく気づいた。
(勇者も借金も、俺が継いだ)
あの旅立ちの日。アリアハンの王様に、オルテガの名を汚さぬようにという言葉とともに、俺は勇者の称号を授けられた。
「…もし……そなたがアリアハンに行くことがあったなら……その国にいるセンドを訪ね、オルテガがこう言っていたと伝えてくれ」
そうだった。
あの日、オルテガは勇者の称号を失ったのだ。
「平和な世にできなかった、この父を許してくれ……とな……」
「待っ…」
言葉がとぎれた。目を見開いたまま、オルテガはこときれていた。
体は消えずにそこにある。城に戻ったりはしない。彼はもう、勇者ではないから。
「……あ……ぐ……」
自分の喉からもれる、声にならない声が聞こえた。
オルテガが死んだ。父さんが死んだ。
自分が何を考えているのか分からない。怒りでも悲しみでもないような気がした。ただ苦しいだけだ。体中が痛んでいるようだった。
(落ち着け…)
自分に言い聞かせ、呼吸を整える。俺にとっては、たいして知らない父親だ。迷惑な借金を遺してくれただけの父親だ。その父親が死んで、借金はやっぱり俺が払わなければならなくなった。それが予定外で、残念で、苦しいだけだ。
「何が……許してくれ、だ…」
平和な世にできなかった? 謝るところが違うだろ。あんなふざけた額の借金を遺したことを謝れよ。本当に、全部思い出したのか? 借金のことだけ忘れたままなんだったら、いい根性してるよ。それともあんたにとって、借金なんてどうでもいいものだったのかな。
呪文をかけるためにつかんでいた手を離すと、オルテガの腕は力なく床に落ちた。
その先の道は、何か呆然としながら進んだような気がする。もう俺のレベルはずいぶん上がっていて、そんな状態でも戦闘でおくれを取ることはなかった。ようやく我に返ったのは、その後いくつかの宝箱を経て、初の回復アイテムである賢者の石を手に入れ、短い階段を上って、その先の暗闇に目をこらした時だった。
闇の奥で灯りがともり、何かがゆっくりと近づいてきた。
「センドよ! 我が生贄の祭壇によくぞ来た!」
大魔王ゾーマだった。
アリアハンに現れた時、俺は恐怖に身動きすらできなかった。あのゾーマが近づいてくる。思わず後ずさろうとして気づいた。俺が立っているのは祭壇の上だった。
「我こそは全てを滅ぼす者! 全ての生命を我が生贄とし、絶望で世界を覆いつくしてやろう!」
大魔王ゾーマが、目の前にいた。アリアハンの時とは違う。本当に目の前だ。
(…駄目だ)
一瞬で、気力が全てなくなりそうになった。殺されるのはそれほど怖くない。しかし世界を闇で包んだこの大魔王は、俺がどれほどレベルを上げても勝てそうにない相手だった。
「センドよ! 我が生贄となれい!」
俺の表情に満足したように、ゾーマは顔をゆがめて言った。
「いでよ、我がしもべたち! こやつを滅ぼしその苦しみをわしに捧げよ!」
地を這うような大魔王の呼び声とともに、巨体の魔物が現れた。
キングヒドラ。初めて見る魔物ではなかった。ついさっき見たばかりだ。オルテガが戦っていた相手。あの場から去っていった後ろ姿。オルテガを殺した魔物だ。
「何だ…? お前、さっきの男に似ているな?」
キングヒドラの頭の一つが口を開いた。背筋を嫌な感覚が走る。黙って剣を抜いた。ゾーマと直接対峙したことで失せた気力は、その嫌な感覚とともにあっさりと戻った。
「しかし、あの男と違ってこいつはずいぶん元気だぞ」
別の頭が言い、そして他の頭たちも会話するようにいっぺんにしゃべりだした。
「あの男は泳いで海を渡ったせいでだいぶ疲れていたようだが」
「ドムドーラの北の岬から泳いだと言っていたな」
「さっき地図見て笑ったよ」
「馬鹿なやつがいるもんだ」
息子としては、その言葉の内容に怒ったりしなければならないのかもしれないが、俺の心はかえって平静になった。あざけるような語調ではなかったこともあるが、話された内容のせいもあった。
(…あの橋、使ったわけじゃなかったのか)
虹のしずくで橋をかけた後、俺は一度ソードイド相手に死んだ。その間にオルテガがあの橋を見つけ、渡ってきた可能性もあった。しかし、あの橋を使ったわけではなかった。俺が橋を架けたせいでここに来て死んだわけではなかった。
(俺はやっぱり、ちっとも勇者の息子らしくない)
こんなことで、少しほっとしている。俺があの戦いに間に合わなかったという結果は同じなのに。オルテガは最後まで、平和な世の中にすることばかり考えていたのに、俺は自分のことばかり考えている。
(まあ、いいか)
しょせん、借金返済が目的の勇者だ。それくらいの人格でちょうどいい。結局借金は俺が払うことになった。返し終わるまで、借金のことだけ考えて動いていればいい。
いつのまにか、自分でも不思議なくらい落ち着いていた。キングヒドラに向かって剣を構えながら言った。
「俺は、さっきの男の息子だよ」
「ふん……俺は仇というわけか」
仇だのなんだの言うような父親ではなかったけど、俺はこいつを恨む資格が十分にある。こいつがオルテガを殺したから、借金は全部俺が払うことになったのだ。
「まあな。恨みを思い知れ」
自分の口から出た言葉は、空々しく冷たかった。
キングヒドラにはたいして苦戦することもなく勝つことができた。オルテガが疲れていて本来の力を出せなかったのか、オルテガとの戦いでできた傷を、キングヒドラが回復していなかったせいなのかはわからない。
だが、それで終わりではなかった。次に現れたのはバラモスブロス。魔王バラモスとそっくりな姿で、多分バラモスよりも強い。バラモスとの戦いを思い出し、くさなぎのけんで守備力を下げた。攻撃回数が多くて手強かったが、俺のレベルも装備も、バラモスの時より上がっている。あの時のようなギリギリの戦いにはならずに倒すことができた。
しかし回復のために費やしたMPはかなり多かった。こんな状態でゾーマと戦うのか、と思った時、目の前に骨とわずかな皮だけの魔物が立ちふさがった。スカスカの体だが、さっき倒したバラモスブロスと同じくらいの巨体だ。
「セン…ドよ……わしは……あきらめぬ……ぞ……」
骨の間からきしむような声が漏れる。姿も声も変わり果てていたが、その言葉を聞いてぎょっとした。
「お前……バラモスか!?」
何度戦ったか分からない相手だ。俺は何度も生き返って挑戦しに行き、一度倒せば死んだままになるバラモスはとうとう敗れた、はずだった。だが今、面影がほとんどなくなっているとはいえ、かつての魔王は目の前にいる。
「よく……わしだとわかったな……」
バラモスはまた、きしむような声で笑った。
「そうだ……。わしも……蘇った……。前よりもはるかに強くなって……な……」
言葉と同時に攻撃がきた。痛恨の一撃かと思うような、異常に重い打撃。しかも二回攻撃だった。
(…な……何だ、こいつ!?)
ゾンビになったバラモスは、炎も吐かず呪文も唱えなくなっていた。ただひたすらに物理攻撃をしてくるだけだ。だが、それが異常に強い。バラモス城で会ったバラモスには、何度殺されても恐怖を感じたことはなかった。しかし今目の前にいる骨だけになったバラモスは恐ろしかった。攻撃が単調なのが、かえって化け物じみていた。
必ず2回攻撃というわけではなく、1回の時もあった。しかしベホマが必要なターンが多すぎて、まるで反撃ができない。焦る俺を見てバラモスゾンビは笑った。
「死んでも……また来るの……だろう? 何度でも、来るがいい……。わしが……何度でも、殺してやろうぞ……」
2回攻撃をまともにくらい、俺はゾーマと戦うことなくそこで死んだ。
「おおセンドよ、死んでしまうとはふがいない」
いつものようにアリアハンの王の間に戻り、いつものように大臣に説教される。床を見つめながら黙ってそれを聞き、終わったので立ち上がろうとした時、
「センドよ」
ゾーマが出現したあの日以来、久しぶりに聞いた王様の声だった。死んでここに戻った俺が大臣に説教されている時、王様はいつも黙って見ているか、時には別の方を向いてぼんやりしていた。
「何か、あったのか…?」
こちらを見てそう尋ねる王様の表情は、あの日から変わっていない。気力を失い、うちひしがれた顔。アレフガルドでよく見る顔だ。こんな顔をしている人が不審に思うほど、俺はどこかおかしく見えるのだろうか。
「…陛下。なんで俺を、勇者にしたんですか?」
口に出してから後悔した。こんなことを聞いてどうする。何もかも、もう遅い。
けど、オルテガが勇者の称号を持ったままだったら、死んでもまた生き返ることができたはずだ。俺がいなければ、そうなってたんじゃないのか?
王様は痛ましそうに眉を寄せ、ため息とともに言った。
「オルテガが死んだ後、なぜ他の者に勇者の称号を授けなかったかということか…?」
違う。逆だ。なんで称号をそのままにしておかなかったかって聞いてるんだ。大声で言いたくなるのを抑え、俺は黙っていた。
「そなたという、オルテガの息子がいなければ、すぐに他の者に勇者の称号を授けていたかもしれぬ。あの時も、そなたの成長を待つなど悠長なことをせず他の者に授けるべきだ、という意見も多かった」
王様は、力のない声でぽつぽつと言った。
「あの時、オルテガと親交が深かったという他国の者たちが来て、そなたを勇者にと強く推した。それがなければ、他の者にすぐ勇者の称号を授けざるを得なかったかもしれぬ」
きっとあの商人たちだ。借金返済のためにそうしたのだろう。
「しかし、すぐ他の者に称号を授けるべきという意見も根強かった。最終的に、そなたに勇者の称号を授けることを決めたのは、このわしだ」
王様の目がこちらを見ている。心の中まで推しはかることはできないが、まるで哀んでいるような目だと思った。
「オルテガは一度も死んだことのない男であったが、たとえ死んでも、勇者の称号を持つ者は蘇るという。今のそなたのようにな」
「…………」
「火口に落ちるなどというむごいことになっては、それも無理かもしれぬが……それでもわしは思ったのだ。あの男ならあるいは、と。……次の勇者をそなたと決めれば、そなたが16歳になるまでの5年間、オルテガを待つことができる」
王様は深いため息をついて、悲しそうに俺を見た。
「そなたを認めてのことではなかった。あの偉大な勇者への未練のためだ。しかしそなたは立派に魔王バラモスを討ち果たした……」
その後にこの王の間で起こったことを思い出したのだろうか。王様の声がかすれた。
「…今も、戦い続けておるのか? そのような立場にそなたを置いたのはわしだ。恨むのならば、わしを恨め」
俺は黙って首を横に振り、立ち上がった。俺が勇者になってもそうでなくても、オルテガは勇者の称号を失った。ずっと帰ってこなければ、それも当たり前の話だ。王様は5年も待った。恨めるわけがない。ただ……。
(ただ……)
その後に続く言葉は、いつまでも出てこなかった。
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センド : 勇者
レベル : 59
E ほのおのブーメラン/グリンガムのむち/おうじゃのけん
E ひかりのよろい
E ゆうしゃのたて
E オルテガのかぶと
E ほしふるうでわ
財産 : 704 G
返済 : 628000 G
借金 : 407000 G