10.ラダトーム


「孫の命を救ってくださったそうで……」
 でかい屋敷に案内されて、すぐに当主だというじいさんが出てきてすごく感謝された。どうか一緒にと言われて、豪華な食事が並ぶテーブルを囲んだ。うまい。
「失礼ですが」
 その食事の最中に、じいさんがちょっと言いにくそうに切り出した。
「あなたがたは……どうも、呪いのようなものをかけられている、とお見受けいたしますが……」
「呪い? 『とりたて』のことかな」
 俺が答えると、じいさんは何度もうなずいた。
「そうです。そうです。やはり、なにか大変な事情がおありなのですな」
 なんだか深刻そうに言った。『とりたて』がかかってるのは大変な事情なんだろうか? まあたしかにそんな気はする。それにしても見ただけで『とりたて』がかかってるのがわかるなんてすごいな。俺が感心してそう言ったら、じいさんは笑いながら首を振った。
「商人ならばわかります。わからねば商人とはいえません。商人修行の最初の段階でそういった金銭の流れなどの……いや、それはどうでもよろしい。しかし驚きました。まさかその術を使える者が今の世に存在するとは」
 じいさんは俺とパウロとプリンの顔を順番にまじまじと見た。
「おじいさま」
 隣に座っていたあの女の子に怒られて、じいさんはあわてた顔をしてちょっとしゅんとした。
「これは失礼しました」
「そんなに珍しいの、これ」
 俺が聞くと、また元気になって身を乗り出してきた。
「珍しいどころではありません。かつて勇者ロトや、その子孫の初代ローレシア王がその術をかけられたことが知られておりますが、もはや時代が違います。初代ローレシア王の頃にはもう使い手もほとんどいなかったはずです。ましてや今は」
 そういえば、あの使者が来た時に言ってたな。『とりたて』は過去の遺物で、この世界には使える人間はいないから、異世界から使えるやつを呼び寄せたとかなんとか……。そんな術かけられてるのが3人揃ってるなんて、商人から見ると、すごい変なことなのかもしれないな。
「もしよろしければ、どういうご事情でその術をかけられたのかお話しいただけませんか。かわいい孫の命の恩人、できる限りのことはいたします」
「いや、それは」
 そういうのはいいよと言おうとして、また言葉が止まった。そうだった、断れないんだ。代わりに俺は、この旅の始まりのことを話した。別に隠しているわけでもない。でも俺の話はわかりにくかったらしく、じいさんに何回か聞き返されて、途中からはパウロが話した。
「なんと、ロトの子孫の方々だったとは。伝説の再来というわけですな」
 じいさんはなんだか喜んでいて、隣の女の子にまた怒られていた。
「しかしそういう事情では、『とりたて』が解ける分の借金返済を肩代わりいたしますというわけにもいきませんな……いかがでしょう。当家の船を一隻、お貸ししましょうか」
「船」
 びっくりして思わず繰り返した。パウロとプリンもびっくりしている。
「いいの?」
「もちろんですとも。せめてそれくらいはお役に立たせて下さい。このルプガナから船を出して東へ進めばすぐアレフガルドです。ロトの伝説の始まりの地。ぜひ行かれるとよい」
 じいさんは嬉しそうだった。どうやらロトの伝説が好きらしい。そういえばさっきから、ロトの話が出るたびにちょっと興奮してたよな。ロトの伝説は俺も好きだから嬉しくなった。

 じいさんとあの女の子に見送られながらルプガナから船出した。貸してくれたのは、丈夫で小回りがきく、世界中どこでも行けそうな船だった。きっとこれで行動範囲は一気に広がる。
 言われた通り東に進み、すぐに陸地に着いた。ロト伝説の始まりの地、アレフガルドだ。船を降りて歩き始めると、当然だが魔物が襲ってきた。そこまで強いやつではなかったけど、またそろそろ泉に戻ることを考えないといけない。この前プリンが死んで生き返ってMPが回復した分だけでは、そう先には進めない。なんとか町とか一区切りつくとこまで進みたいなと思いながら戦っていたら、なんと倒したしにがみがくさりがまを持っていた。
 くさりがまは、俺とパウロが今装備しているどうのつるぎより強い武器だ。プリンは装備できないと言ったから俺はパウロに聞いた。
「どっちが使う?」
「僕は呪文を使うこともあるから、強い武器は君が使いなよ」
 ああそうか。防具と違って武器は、俺が使った方がいいのか。あれ? そうかな? そうでもない時もあるような気がする。まあ今はいいか。くさりがまを装備してまた少し強くなった。
 さらに東に進むと、お城が見えてきた。なんとか泉に戻る前に着けそうだ。あれがラダトームだろう。そしてその対岸にも城が見える。そういえば、じいちゃんの兄貴という人が対岸の城にいるんだっけ。早く会ってみたいな。
 少し浮かれた気分になったが、ラダトームに近づくにつれて、どうも様子がおかしいと思った。城壁があちこち壊れている。何かあったのだろうか。城下町に入った。町の中は別に壊れてもいなかったが、なんだか雰囲気が暗い。来たの初めてだから、普段と比べてどうなのかはわからないけど。
「しょうがねえなうちの王様もよ」
「いっそ対岸のお方が王様になってくれねえかなあ」
 道ばたで、荒っぽい感じの男たちが大声で話していた。やっぱり何かあるらしい。
「なあなあ」
 話しかけると、男たちはじろりと俺を睨んだ。
「なんだあ? 文句あんのかこら」
「いや、今の話なに? 俺たちアレフガルドの外から来たんだよ。なんかあったの?」
 そう言うと、「へえ」と珍しそうにじろじろと見てから、男の一人が答えた。
「ちょっと前によ、大神官ハーゴンの手下とかいう魔物たちが攻めてきたんだ」
「えっ」
 俺も驚いたが、プリンはそれ以上だったようで、俺の横で固まっていた。男は首を振って続けた。
「たいしたことにはならなかったんだ。対岸の城主様が助けに来てくださったからな。うちの王様とはえらい違いだよ。なにしろうちのはハーゴンを恐れて城から逃げちまったんだからな」
「逃げた? その、攻められた時に?」
「いやその後しばらくはいたよ。けど最近見ねえんだ。あの王様しょっちゅう城下にも顔出してたのにな。だから多分、もう城にいないんだろうって話さ」

 ラダトームはローレシアと同じで、城と城下町がほとんど一体になっていて、だから歩いているうちにいつのまにか城に入っていた。せっかくだから王様にも会いたいけど、いないっていうのは本当なんだろうか。
「これこれ」
 声をかけられて振り向くと、廊下に面した小部屋の中から、にこにこしたじいさんが俺たちに手招きしていた。
「なに?」
 部屋に入って聞くと、じいさんが言った。
「そなたたち、もしやロトの子孫ではないか?」
「え、なんでわかったの?」
「やはりそうか。よく来たのう。おお、古き言い伝えの勇者の子孫たちに光あれ!」
 その言葉通り、周囲がぴかって光った気がした。なんだなんだと見回して後ろを振り向いたら、パウロとプリンが目を丸くして顔を見合わせていた。
「どうかした?」
「ゼロ!!」
 聞いたら、二人同時にこっちを見て叫んだ。なんだよ。
「MP……MPが」
「回復したの! 今ので!」
「え……えっ?」
 パウロもプリンもあわあわしていて、俺もわけがわからなくて二人を見て、それからにこにこしているじいさんを見た。MPが回復した? 今ので? MPが回復したということはHPも回復できるってことで、つまり……。
「ゼロ! 伯母様がアレフガルドにいらしているのよね!?」
 プリンが言った。そう、そうだ。じいちゃんがそう言っていた。アレフガルドにってことは、多分このラダトームのどこかにいるだろう。
「じいちゃんありがとう! これからもよろしくな!」
「お、おう、おう」
 笑いながらもちょっと戸惑っているじいさんを残して、俺は部屋を飛び出した。城の中を走り回り、教会を見つけて飛びこんだ。伯母さんはローレシアでは修道院にいたのだ。入ってすぐ、礼拝堂の隅をホウキで掃いている見覚えのある人を見つけた。
「伯母さん!」
「おや、ゼロ」
 伯母さんは顔を上げてにこにこ笑った。
「よく来ましたね」
「うわあ! 伯母さん!」
 いた! 伯母さんいた!
「おーい! いたぞー! 伯母さんいた!」
 俺は大声で二人を呼んだ。いつもなら騒ぐなとか言われそうだけど、パウロもプリンも教会に飛びこんできてばたばたと伯母さんに駆け寄った。
「お久しぶりです。サマルトリアのパウロです。お世話になります」
「初めまして。ムーンブルクのプリンです。よろしくお願いします」
「おやおや……お久しぶり、初めまして。こちらこそ、どうぞよろしく」
 伯母さんは、なんで俺たちが伯母さんに会ってこんなに喜んでるのかよくわかってないようだった。
「伯母さん! ここ、拠点にできるんだよね!」
「ええ、もちろん。私はそのために来たのですから」
「何の騒ぎです。ここは神と語らう場ですよ」
 神父さんが入ってきてたしなめられた。
「すいません」
「申し訳ありません、神父様。ローレシアから来た甥が、私に会えたことを喜んでくれたのです」
 伯母さんがそう言うと、何か聞いていたのか、神父さんは嬉しそうに目を細めて俺たちを見た。
「おお。ではロトの」
「あの、神父様」
 パウロがあわてたように言った。
「この教会では、蘇生はできますか」
「ええ、できますよ。しかし、あまり無理はせぬように」
 神父さんは笑ってそう答えた。俺たちは顔を見合わせた。
「やった……」
 パウロが小声で言い、プリンがうんうんとうなずいた。
 ここを拠点にすれば、ルーラで戻ってこれる。MPが回復できるから、HPも回復できる。死んだ時にも蘇生ができる。やっと、やっとほんとに拠点と言える場所が見つかった。やっぱりロト伝説の始まりの地だけのことはある。

 伯母さんに連れられて、王の間に行った。旅立ったロトの子孫がラダトームに来たら連れてきてほしいと王様に言われていたのだそうだ。なんだ、逃げたなんて話は嘘だったのか。と思ったけど、王の間に行くと玉座は空いていて、そのそばに立っていた人を伯母さんが大臣だと紹介してくれた。
「おお、ロトの勇者の方々ですか。ようこそ、伝説の始まりの地へ」
 大臣はそう言った後、申し訳なさそうにつけ加えた。
「本来ならばこのようなことは国王陛下が言うべきところですが、実は今、陛下は城におられないので……」
「あ、ほんとにいないんだ」
「本当に、とは?」
「城下町で、王様がハーゴンを恐れてどこかに逃げ出したって聞いたから」
 俺がそう言ったら大臣は目を丸くした。
「なんと、そのような噂が? いえ、事実ではありません……が、そのような噂が立つのもやむなきことでしょうな……はて、どうしたものか」
 大臣は困ったようにため息をついた。
「色々事情がありまして……。ご存知かもしれませんが、先日このラダトームの城にも、ハーゴンの手勢と思われる魔物たちが攻めてきました。対岸の城主様の助けもあり、なんとか撃退することができたのですが、その時に……この城の宝であるロトの鎧を奪われてしまったのです」
「えー」
 前にも奪われたんじゃなかったっけ? 何かあるたびに奪われた話が出てるような気がする。
「竜王が現れた時と同様、いずれはロトの子孫がハーゴンを倒すために旅立つに違いない。その助けになるであろう鎧を失うとは、と陛下は大変に嘆かれまして」
 別に奪われたことに文句をつけたわけじゃなかったけど、大臣は言い訳するように言った。
「ロトの鎧は精霊ルビスの加護を受けているため、魔物にとっては近くに置きたくない物のはずなのです。奪ったとはいえ、本拠地に持ち帰ることなくうち捨てられることも考えられる。ですから、アレフガルドのどこかにあるのではないかと……。一縷の望みではありますが、陛下はおふれを出して情報を募り、それだけではなくとうとう御自ら城を出られて、国中の武器屋などを巡って、鎧を探しておられるのです」
「なるほど」
 パウロが微妙な顔でうなずいた。
「しかし、国王のなさるべきこととは思えませんが」
「それは私も同感です」
 大臣はまたため息をついた。色々苦労してるみたいだった。パウロが続けて言った。
「そういえばラダトームには、鎧の他にもロトの剣と兜があるはずでは。そちらは無事なのですか」
「はい、そちらは奪われずに済みました。しかし今この城にはありません。念のため、ここよりも安全な場所に移されました。ロトの子孫の方々が来られたら、ありかをお伝えするようにと陛下からことづかっております」
 大臣はちょっと間をおいて、改まったように言った。
「ロトの剣は、対岸の城主様が預かられています。兜は、リムルダールの南にある聖なるほこらに」
「へえ、対岸の。ちょうどいいや、元々行くつもりだったんだ」
「お気を付けて。対岸の城は今、魔物がひしめいていると言います。こちらに来ないように城主様が抑えておられるようですが……」
 あ、こっちの城と違って気軽に行くわけにもいかないのか。初代ローレシア王が竜王を倒した時みたいになってるのかなあ。

 ラダトームの城と城下町を探してみたが、返済の窓口は見つからなかった。それさえあれば完璧なんだけどな。まあそう贅沢も言えない。ここに来るまでに千ゴールドたまってたから、また船でルプガナに戻った。送金が終わり、パウロがルーラを唱える。一瞬でラダトームだ。本当に楽になった。船は持ち物に含まれるとかで、城の前の海岸に泊まっていた。つくづく、魔法ってすごいなと思う。
 船を出した。魔物がたくさんいるという対岸の城より先に、聖なるほこらに行くことにした。ロトの兜か。早く欲しいよな。
 昔、ラダトームの対岸の島は魔の島と呼ばれてて、その周りの海は荒れ狂ってて船では通れなかったらしい。だから行くために虹のしずくで橋作ったりとかそういうのがあったんだが、今は普通に船で通れる。聖なるほこらにもすぐに着いた。
「こんにちはー」
 中に入ると、じいさんが一人で座っていた。
「…………」
 白い眉毛の下の険しい目が俺たちを睨みつける。歓迎されてないみたいだ。俺は用件を切り出した。
「あのさ、俺たちロトの子孫なんだけど、ここでロトの兜預かってもらってるって聞いて」
「そなたらがまことにロトの血を引きし者なら、そのしるしがあるはず」
「え、しるし?」
「おろか者よ、立ち去れい!」
 気がつくとほこらの外に立っていた。俺たちは顔を見合わせた。何だこれ。どういうしくみだ? パウロが感心したように言った。
「なるほど、お城より安全だ」
「しるしって言ってたわね」
 プリンが首をかしげて言った。
「たしか、初代ローレシア王はここでロトのしるしを見せて、魔の島に渡るための虹のしずくを手に入れたはず……」
 ああ、しるしってロトのしるしか。ロトのしるし……あれ? たしか……。
「なあ。俺、どこかでロトのしるし見たことある気がするんだけど」
 そう言ったらパウロが肩をすくめた。
「どこかも何も、ロトのしるしは昔ラダトームからローレシアに贈られたはずだよ。そりゃ君なら見たことあるだろうさ」
 ああ、そうか。じいちゃんが親父に王位を譲る時の儀式で渡したりしてたんだったな。今は多分城の宝物庫にあるだろう。宝物庫か。
「……やっぱり、しるし持ってこないとロトの兜渡してくれねーかな」
「だろうね。あの様子じゃ」
 宝物庫。金の鍵がなければ入れない。また金の鍵だ。
「しょうがねーな。対岸の城に行ってみようか」
「そうだね。そっちでも金の鍵が必要なんてことがなければいいけど」
 パウロが浮かない顔で言った。こうしょっちゅう金の鍵が要るって話が出てくると、そういうこともあるかもしれないと思えてくる。
 金の鍵か。うちに帰ればあるんだよな。どうしてもこの旅に必要なんだと言えば、多分渡してくれるだろう。あまり気は進まないけど。そんな話をしていて、ふと思った。
「でも気が進まないってのも変だよな。なんかくれるって話になったら絶対断れないのに、こっちからくれって言う気にはならないのは何なんだろう」
「言われてみればそうだね」
 パウロが首をかしげて考えていた。プリンが少し笑いながら言った。
「元々は、貸したお金を強制的に返させるための術なのでしょう? 無理矢理人から奪ったような、犯罪絡みのお金が返ってきて、後で揉めたりするのは困るからじゃない?」
「あー……」
 そうか。そうだよな。くれとか言ったり強引に取ったりしたら、へたしたら強盗で稼いだ金で借金返済することになる。今は過去の遺物でも、昔は商人が堂々と使ってた術なんだろうし、後腐れない借金返済のためにやっぱりどこかで線引きみたいなのがあるのかな。
 国の重要事項にかかわる鍵、なんてものを手に入れるのがなんか気が進まないってのも、そういうことなのかもしれない。目の前にあったらもらうし、鍵を手に入れたら宝物庫のものも持っていくだろうけど。
「呪いの中では、優しい方よね」
 プリンがぽつんと言った。呪いで犬になってた時のことを考えているのかもしれないと思った。


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ゼロ : ロトのしそん
レベル : 15
E くさりがま
E かわのよろい
E てつかぶと
E かぜのマント
パウロ : まほうせんし
レベル : 13
E どうのつるぎ
E かわのよろい
プリン : まほうつかい
レベル : 9
E ひのきのぼう
E ぬののふく
財産 : 387 G
返済 : 17000 G 0
借金 : 283000 G