04.リムルダール
マイラの南、地下道を通って海峡の向こう側に渡ると、リムルダールという町がある。名前は知っているが、まだ行ったことのない町だ。
リムルダール。俺に『とりたて』をかけたあの老人は、リムルダールに住んでいると言っていた。会ってどうなるものでもないとは思うが、さしあたって今他に目的地がない。次に向かうのはリムルダール。そう決めた。
前に行った時はあれほどギリギリだったマイラだが、レベルが上がったからかぬののふくのおかげなのか、今度は楽に近くまで行けた。といっても今回は用はないので立ち寄らない。なるべく最短距離を通ってリムルダールへの地下道に向かう。
(げ、何だこれ…)
向こう側に見える地下道の入り口をさえぎるように、紫色の沼地が広がっていた。毒の沼地だ。いいかげんにしてほしい。気軽に回復できる旅ではないんだ。しかし他に通り道はないのでしかたなく突っ切った。一応まだHPにもMPにも余裕はある。
そういえばこの地下道は沼地の洞窟とも呼ばれているらしい。もしかして向こう側の出口も似たようなことになっているのだろうか。嫌な想像を振り払いながら中に入った。
真っ暗だ。そういえばもうたいまつがない。これは無理かと思ったが、とりあえずそのまま南に進んでみた。一応地下道だし、一本道になっている可能性も高い……と思いたい。
だが進み始めたらすぐにまほうつかいが出てきた。嫌な予感がしたのでギラを使って倒したが、連続で出てきてたちまちMPが乏しくなった。また死の予感だ。とりあえずたいまつなしでも行けるのかどうかだけは確かめたい。そのまま南へと歩き続けた。かなり長く歩いた後壁に突き当たったが、壁を伝ってうろうろしていたら出口に着いた。やった。たいまつなしでも行けることが判明した。案の定出口にも毒の沼地があったが、想像したものよりもずっと小さかった。
しかし喜びもつかの間、がいこつに遭遇。強そうなのでギラを使ったが倒せなかった。ギラで倒せない相手は初めてだ。慌てていたら重い攻撃を受けて死んだ。残ゴールドは179。レベルが足りないのだろうか。
他に目的地がないのでもう一度向かったが、沼地の洞窟の魔物と戦っていたらレベルが上がったので一回帰った。最大MPは重視しなければならない。それにしても洞窟の途中からあっさり帰れるとは、俺も成長したものだ。
再挑戦。気づいたらゴーストを一撃で倒せるようになっていた。とはいえそろそろ素手での戦いにも限界を感じている。俺は格闘家とか武闘家とか、そういう方面には向いてないと思う。洞窟を突破して進むとまたがいこつに遭遇。ギラを使ってもやはり1ターンでは倒せない。向こうの攻撃が本当に痛い。なんとか倒せたが、先に進んだらリカントが現れ、これも信じられない強さだったので死んだ。残り166ゴールド。本当にたまらない。二重の意味で。
「おおロギン! 死んでしまうとは何事だ! しかたのないやつだな」
いつものように怒られ、ため息をついて王の間から出る。目指す町を間違えているのだろうか。もっと苦労せずに行ける土地があるのかもしれない。
(もう一回行って、だめだったら他のところにも行ってみよう)
他の土地になると本当に右も左も分からなくなるのでできれば行きたくないのだが、そう言ってもいられない。
沼地の洞窟を抜けるのも楽勝というわけではない。それなりにMPも減っている。それなのにそこを越えた土地の魔物はさらに強いのだから困る。またがいこつに遭遇し、なんとか倒したもののホイミを唱えたら残りMPが2になった。もうこれはまた死んだとあきらめ、とりあえず進んだ。魔物が出たら逃げる。驚いたことに珍しく全部逃げることができ、リムルダールの町に着いた。
着いたはいいが、目的といってもあの老商人に会うだけだ。しかも会って何か話したいことがあるわけでもない。実際着いてしまうと、なぜこんな苦労してまでここに来たのかというむなしい気分がこみ上げた。が、とりあえずあの老人を探すことにした。
本来なら俺には用はないはずの武器屋や道具屋をのぞいてみる。しかしあの老人はどこにも見あたらなかった。レベルの高い商人らしいから大きな店を経営していると思っていたが、違うのだろうか。もしかしたらあの年だし、隠居の身なのかもしれない。
「ああ、その人なら」
道具屋の主人に老人の人相を話して聞いてみると、主人はすぐに思い当たったようだった。しかし首をかしげて少し不審そうに俺を見た。
「…別の店の主人です。でも、武器屋でも道具屋でもありませんよ」
「おお、本当に来たか。苦労しとるようじゃのー」
変な裏道を通った奥に、その店はあった。道具屋の主人は店がどこにあるかは教えてくれなかったので、さんざん探してようやく見つけた。
「来いって言うならもっとわかりやすいところに店建ててくださいよ」
「ひゃっひゃっひゃ」
老人は何が面白いのか、愉快そうに笑った。店は古くて小さい。表には読めるか読めないか微妙なくらいのかすれた字で、「鍵屋」と書かれた汚い看板がかかっていた。
「鍵屋って、もしかして」
「錠前の取り付け販売を細々と行っておる」
「嘘でしょう」
「ひゃっひゃっひゃ」
また笑われた。多分完全に嘘というわけでもなく、その商売もしているのだろう。しかしこんなところで隠れるように店を置いている鍵屋となると、俺でも売り物の見当はつく。
(…魔法の鍵)
俺が王様にもらったアイテムの一つだ。冒険者向けの錠前開け。許可が下りていれば販売してもとがめられるわけではないが、さすがに堂々と売っていたりはしない。狭い店の中をなんとなく見回していると、老人がだしぬけに言った。
「買っていくか」
嫌な冗談だと思ってつい顔をしかめる。しかし老人はにやりと口の端を上げた。
「お前さんの『とりたて』をかけたのが誰だと思っとる? わしの儲けになるようにはさせてもらっとるわい。ま、王様の許可もいただいとるが」
「…じゃ、この店の物は買えるってことですか」
「うむ。なんでも買っていくがいいぞ!」
そう言ってまた老人はひゃっひゃと笑った。どうやら売り物は魔法の鍵だけらしい。
残りMPは2。HPも少ない。これは帰り道で間違いなく死ぬのでできる限り金は減らしておきたい。鍵で開けられる扉はあちこちで見かけたことだし。
「じゃあ、有り金全部で買えるだけ」
「何の仕入れじゃ。お一人様6本まで」
がっかりしながらも6本買って店を出る。このリムルダールの町でも魔法の鍵で開けられる扉を見かけた。そこで使って、その分また買えばいい。何がしたいのかよくわからないが、それが最善の行動だという気もする。
宿屋で2つ使った。が、泊まり客に「あなたはロトの末裔の勇者様!」「どうかこれをお役立てください」とまもりのたねといのちのきのみをもらい、すぐ道具屋で売ったら持ち金が鍵を買う前より増えてしまった。ますます何をやっているのか分からなくなってきた。
「すみません。鍵ください」
「またお前さんか」
使った分の鍵を買い、俺はリムルダールを後にした。
金が増えてしまったので、無理だろうとは思ってもなんとか死なずに帰りつきたい気持ちも増した。ひたすら逃げる。意外と逃げのびることができ、沼地の洞窟まで着いた。ここまで来れば魔物もいくらか弱くなる。といっても戦ったらダメージはあるのでやはり逃げる。一撃で倒せるゴーストとだけは戦った。
逃げ続けながら、暗闇の地下道を北に向かう。やはりリムルダール付近の魔物よりは逃げやすいようだ。もしかしたら、と希望がわいてくる。手元には600ゴールド近い金があるのだ。なんとか帰りたい。目の前に入り口から漏れる光が見えてきた。ここを越えれば魔物も楽勝だ。いける。
「おお、ロギン。死んでしまうとは何事だ! しかたのないやつだな」
洞窟は抜けたが、入り口付近の毒の沼地で死んでしまった。希望が出てきた、と思った時点でもうHP的に死亡確定だったようだ。こんな計算もできなくて、俺は本当に商人になれるのだろうか。
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ロギン : 勇者の子孫
レベル : 6
E ぬののふく
財産 : 293 G
返済 : 0 G
借金 : 46500 G
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プレイヤーから補足。
トップにある通り、魔法の鍵は購入禁止対象外です。
が、なんとなく「購入はリムルダール限定」というルールでやっています。たいした縛りではありませんが。